異世界に転生したって『あたし、お天気キャスターになるの!』

なつきコイン

第17話 クィーンアントは誰のものなの。

 アント狩りから帰った翌日、今日もレイニィは温度計を作れずにいた。
 それというのも、巨大な透明クィーンアントを馬車に乗せて帰って来たため、それを目撃した商人達が、アントを売ってくれと屋敷に押し掛けて来たからだ。

 出来れば完全な形で買い取りたいという商人がいるため、レイニィは脚だけあればよかったのだが、それを使ってしまうわけには行かなくなった。
 なにせ、その商人は完全な形なら白金貨百枚で買うと言い出したからだ。
 因みに、白金貨一枚百万円相当だ。つまり、白金貨百枚は一億円になる。

 とはいえ、所有者が売りたくないと言って仕舞えばそれまでの筈であったが、アントを仕留めたのが領主の娘のレイニィであったため、話が複雑になっていた。

「レイニィ、父さんが呼んでる。例の話みたいだぞ」
「ぶー。あれをやっつけたのはあたしなの。あたしのものだって、お兄ちゃんも言ったの」
「まあ、そう膨れるな。父さんにも立場というものがあるんだ。さあ、一緒に行こう」
「仕方ないの」

 レイニィは不貞腐れた顔のまま、父であるゲイルの執務室に入った。
 そこにはゲイルの他にも、母のウインディ、執事のクラウド、護衛のアイスが待っていた。
「レイニィ、すまないな。父さんが不甲斐ないばかりに不愉快な思いをさせて」
「そうですよ。あなた。交渉人のジョブが泣きますよ。なんなら私がその商人を闇に葬りましょうか」
「奥様、そこまでする必要はないかと考えますが」
 母親のウインディはかなりご立腹だ。何やら不穏な事を口走っている。
「お父さま、どういうわけなの。説明してなの」

「うむ。本来であれば、あのアントは倒したレイニィの物になる。だが、レイニィが幼いため、誰もレイニィが倒した事を信じない」
「あたしが倒したの。本当なの」
「私もレイニィ様が倒したところを見ましたから間違いありません」
「そうだ、俺も見た。レイニィの魔法は凄かったぞ」

「アイスが一緒にいたことも問題を複雑にしている」
「護衛がいたことのどこが問題なんだ。いない方が問題だろう」
「アイスがいたことで、倒したのはレイニィでなく、アイスだと思われている」

「本当にレイニィが倒したんだが。アイスが倒したとしても問題ないだろう」
 ドライは疑問に思い、首を傾げる。
「それがそうもいかんのだ。アイスが倒したとなると、護衛中だったため公務で倒したことになる。個人的に倒したのならアイスの物になるが、公務中となると、倒した物の所有権は雇主の物となる。この場合、私だ」

「それでも別に問題ないだろう。父さんが売らないといえば済む話だろう」
「普通のものであればそれで済んでいただろう。だが、あのアントには白金貨百枚の値が付いてしまった。
 これをレイニィに渡すとなると、白金貨百枚の玩具を渡す馬鹿親。白金貨百枚の玩具を強請るわがまま娘。と世間から見られてしまう。
 流石に領主としての立場上それはできない。そして、レイニィが悪く言われるのも我慢ならん」
「ぐ、それは流石に」
 アイスにとっても妹が悪く言われるのは我慢ならないようだ。
「あたし、わがままじゃないの」

「そんな訳で、レイニィには、アントを倒した事を証明してもらわなければならない」
「証明?」
「具体的には二週間後、商人達の前で魔法を使って見せなければならない」
「でも、あの時は必死だったから使えただけなの。また使えるかわかんないの」
「二週間後までに使えるようにしてくれ」
「何で二週間後なんだ」
「商人の中には、首都シャインに本店がある者もいるのだ。その者は、首都シャインの本店に、どこまで金を出せるか確認しなければならない。そんなこともあり二週間後になった」
 港町ライズから首都シャインまでは片道徒歩で一週間かかる。徒歩で行くと往復二週間はギリギリである。

「えーそんな。いきなり二週間では無理なの。あ、そうだ。魔術の先生は」
「探すように頼んであるけど、二週間以内には難しいでしょうね」
「ううう。あたしの物だったのに。悔しいの」
「レイニィ、諦めるな。一度使えたんだ。特訓すれば使えるようになるはずだ。俺も手伝うから頑張ろう」
「お嬢様、私も協力しますから頑張りましょう」

 ドライとアイスの応援に、レイニィは少しやる気が出てきた。
「そうなの。ここで諦めたら試合終了なの」
「ん。試合はしないぞ。魔法は見せるだけでいいからな」
(うーむ。この言い回しはこちらの世界では通じないか)
「うん。わかったの。あたし頑張るの。頑張って殲滅するの」
「頑張るのはいいけど、殲滅するのはやめてくれ」

 欲しい物のためなら、過激になるレイニィであった。


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