祖国奪還

ポリ 外丸

第54話 深夜の訪問


「すんなりと奪えましたね?」

「えぇ……」

 帝国将軍のセヴェーロから司が奪還した王都。
 その王都は、今や王国唯一の公爵家である水元家の江奈が統治を始めていた。
 司がベニアミーノとカルメーロを相手に進軍している間に、軍を率いて奪いとった形だ。
 幼少期以来の王城に感慨深い思いをしていると、執事の白川が意外そうに話しかけて来た。
 というのも、司がたいした守りをしていなかったからだ。
 江奈が率いる軍が王都に入ると、大軍の帝国軍を相手に奪い取ったというのに少数のスケルトンがいるだけだった。
 そのスケルトンたちをあっさり倒し、たいした抵抗なく奪還できたものだから、白川がいまいち実感が湧かない気持ちもわかる。

「江奈様!!」

「……どうしたの?」

 王都に入った軍が初めに取り掛かったのは、王都の再興だ。
 司が帝国軍から奪還する際、相当な戦闘がおこなわれたからか、人が寝泊まりできる家屋がわずかしかなかった。
 東の地に避難している市民を呼び寄せるにしても、住宅を用意しないことには話にならないため、急ピッチで仮設住宅の建設を進めている。
 そんななか、1人の兵が江奈のもとへとかけてきた。

「送故司と帝国軍の戦いが終わったようです!」

「ほんとっ!?」

「はい!」

 兵は慌てて江奈の側に寄って跪くと、報告を始める。
 送故司と帝国軍の戦い。
 それは、この国の行く末を決める戦いといってもいい。
 その戦いの結果をいち早く知るために、数名の兵が偵察に行っていた。
 その結果が届いたようだ。

「それで!? 勝者は!?」

 どちらが勝利を収めたのか当然気になる。
 そのため、江奈は兵に急かすように結果を問いかけた。

「勝利したのは送故司です!! 帝国側の複合魔法装置の暴発という運に恵まれたことによる勝利だと思われます!!」

「そう……」

 司の勝利。
 その報告を受けて、江奈はどこか安堵したように声を漏らした。
 大和王国にとって帝国軍の排除は最優先事項。
 それが成されたのだから、喜ばしいことだ。

「喜ばしいことですが、それをおこなったのがあの者だというのが釈然としないですね……」

「左様ですな……」

 江奈とは違い、報告に来た兵と白川は表情が晴れない。
 この国から帝国を追い出したことはたしかに喜ばしいことではあるが、それをおこなったのが司だというのがスッキリしない要因だ。
 大和国民といっているが、司は骸骨の仮面を被っているため本当なのか分からない。
 それに、スキルなのか知らないが、死人を操るような司を認めたくない気持ちが喜びを邪魔しているようだ。

「装置の暴発により、勝ち目なしと判断した将軍ベニアミーノは逃走。もう1人の将軍カルメーロは、降伏をしたそうです」

「…………」

 兵から戦いの顛末が説明される。
 それを、江奈は黙って聞いていた。

『装置が暴発するなんて……。きっと司が何かしたのね……』

 黙って聞きながら、江奈は兵とは違う考えをしていた。
 帝国の複合魔法の装置は、大和王国をかなり苦しめた。
 あの装置によって放たれた攻撃は、その射線上にいる大量の大和兵を塵に変えた。
 それにより、数による劣勢を強いられ、4つあった公爵家のうち、水元家だけ残して消滅することになったのだ。
 勝利に導く貴重な兵器を、暴発するような雑な管理をするはずがない。
 それなのに都合よく暴発したということは、司が何かしたのだと江奈は考えた。

「江奈様! これはチャンスです!」

「……チャンス?」

 兵の突然の言葉に、江奈は首を傾げる。
 何がチャンスなのか分からないため、兵に続きを促した。

「帝国の将軍2人を相手にしての戦闘。勝利したとはいえ、送故司も疲弊しているはずです! 今すぐにでも、送故司の討伐へ向かいましょう!」

「……えっ? ……何故彼を討伐するの? 彼は帝国軍を追い出した功労者よ」

 兵の口から出た言葉に、江奈は小さく声を漏らした。
 この者が言っている言葉の意味が理解できなかったからだ。
 追い詰められていた江奈たちの前に現れた司は、次々と帝国軍を相手に勝利を収めていった。
 そして、とうとう帝国軍の一掃を果たしたというのに、何故自分たちが彼を討伐に向かわなくてはならないのだ。

「何を言っているのです? 奴は奴隷の大和人を大量に殺しました。討伐はやむ無しではないでしょうか?」

「それは……」

「その通り! 同胞の敵を討つため、出兵いたしましょう!」

 江奈の言葉に、今度は兵の方が首を傾げる。
 送故司自身は大和国民だと言っているが、被っている骸骨のせいで本当かどうかわからない。
 例え大和人だとしても、帝国との戦いで大量の同胞を平然と殺していた。
 それだけで信用に値しない。
 同胞の敵を討つためにも、送故司を討伐するべきだと、この兵は考えていた。
 その考えも分からなくはないが、司は戦争の最中だった。
 同胞だからといって躊躇っていては、勝てるものも勝てなくなる。
 戦場なら、司でなくても襲ってくるものを殺すのが当然。
 そう思って、江奈は兵の言葉を訂正しようとした。
 しかし、その途中で白川が賛成の言葉を上げた。
 面倒なことに、白川も司のことを良く思っていないタイプのようで、兵の言うように、司の討伐を支持した。

「彼の討伐より、王都の復興の方が優先ではないかしら……?」

「そうしている間に、数を増やされる恐れがあります。疲弊しているであろう今だからこそ攻め込むべきです!」

 話をそらすために、江奈は話をずらす。
 しかし、そんな思いは通じず、兵はがぜん司討伐の熱が上がっていた。

「……今日1日だけ考えさせて」

「畏まりました」

 司を良く思っていない人間からすると、この兵と同じように考えている者は多いはず。
 それを自分には抑え込むことなどできない。
 今できてるのは、考える時間を稼ぐことくらい。
 そのため、江奈はすぐさま討伐に出兵という指示を出さないことにした。





「どうするべきかしら……」

 夜になり、江奈は王城の寝室で、1人考えごとをしていた。
 江奈の中では帝国を一掃した功労者なのだが、兵たちは司の討伐に賛成する者はいても、反対する者はいないはず。
 江奈としては止めたいところだが、熱くなった彼らを止められない。
 討伐に向かうように指示しなければならない状況に、江奈は答えが出せないでいた。

「何がですか?」

「っっっ!! 送故司!?」

「お久しぶりです江奈様」

 呟いた独り言に、答えが返ってきた。
 自分1人しかここにはいないと思っていたため、江奈はすぐさま武器に手を伸ばし、声のした方へと身構えた。
 その声の主を見て、江奈は驚く。
 何せ、討伐対象の司が目の前に現れたからだ。
 自分を見て驚く江奈の反応に対し、司は慇懃に江奈へと挨拶をした。


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