祖国奪還

ポリ 外丸

第47話 魔力壁


「離れた位置で回復に専念しろ」

「畏まりました」

 ヴァンパイアのファウストは、これまでの戦闘でボロボロのうえ魔力の消耗している。
 これ以上の戦闘を続ければ、殺されてしまうのは必至。
 そのため、主人である司は、この後の戦闘は自分が請け負うことにした。
 主人の手を煩わせることになり、申し訳ないという表情をしつつ、ファウストはその場から退く指示に従った。

「逃がすな!!」

「体勢を立て直した者は攻撃するんだ!!」

 帝国側にダメージを与えるための攻撃と引き換えに弱点となる光魔法を受け、ファウストはボロボロの状態だ。
 大抵の傷はすぐに治せるが、光魔法で受けた傷を回復させるにはかなりの時間と魔力を必要とする。
 そんなファウストがこの場から去ろうとしているのを、帝国側は見逃すわけにはいかない。
 この場で倒しておかないと、またいつ襲い掛かってくるか分からない。
 そう判断したベニアミーノとカルメーロは、ファウストの攻撃を逃れた兵たちに攻撃の再開を指示した。

「「「「「ハッ!!」」」」」

 将軍2人の指示に従い、帝国兵たちはファウストに向けて光魔法を放った。
 先程の攻撃で多くの仲間の命が失われた。
 その恨みを晴らすために放たれた魔法が、ファウストへと収束する。

“ドーーーンッ!!”

「直撃だ!」

「殺ったか?」

 ファウストに向けての光魔法によって爆発が起こる。
 あれほどボロボロの状態で躱せるとは思わないため、ベニアミーノとカルメーロはファウストを仕留めたと思い、爆発によって巻き上がった煙が治まるのを待った。

「生憎、まだ殺ってないな……」

 舞い上がった煙が消え去ると、魔力壁を張った司がファウストを庇うように立ちはだかっていた。
 ファウストを倒したつもりだったようだが、とんだ見当違いだ。

「送故司……」

「今のを防いだのか……」

 将軍2人は、驚きと警戒を込めた視線で司を見つめる。
 てっきり、2人は司をアンデッドの魔物を扱うことに長けただけの大和人としか思っていなかった。
 それが、数組の人間の魔力を合成して発射した、無数の光魔法を止めるだけの魔力壁を張れる人間だと分かり、もしかしたらまだ何か手の内を隠しているのではないかと思えてきた。

「今だ。行け!」

「失礼いたします……」

 たった1人の人間に攻撃を防がれ、驚いている帝国側の視線が自分に集中している。
 今なら退却できると、司は後ろにいるファウストに命令する。
 退却にまで手を煩わせてしまい、ファウストはまたも申し訳なさそうにしながら、影に沈んで行くようにして場から姿を消した。

「チッ! 逃がしたか……」

「自称ヴァンパイアのことはいいだろ。大元が出てきたんだ」

「そうだな」

 送故司の魔力壁に驚いているうちに、ファウストが逃げてしまった。
 もしも傷を治してまた戦うことになると、今回と同様に大量の兵を集めなくてはならなくなる。
 その労力を考えると、ベニアミーノとしてはこの場で倒しておきたかったため、思わず悔し気に舌打をする。
 そんなベニアミーノに対し、カルメーロは気持ちを切り替えるような発言をする。
 たしかに、あのファウストという者は、自らヴァンパイアと名乗るだけの実力を有していたように思える。
 しかし、今回のことで弱点は把握している。
 次も同じように痛めつけ、仕留めれば良いだけのこと。
 何なら、今回以上の兵により、こちらから追い込んでしまうという手も取れる。
 それよりも、今は送故司が問題だ。
 エレウテリオとセヴェーロの将軍2人が、送故司の操るアンデッドたちによって壊滅に追い込まれた。
 その張本人が攻撃範囲内に入ってきたのだから、仕留めるチャンスだ。 
 またこの国の掌握し直さなければならないという余計な手間をかけさせたのだから、確実にこの場で殺さなければならない。
 カルメーロの言葉を受け、ベニアミーノも司へ意識を集中することにした。

「送故司と言ったな? 貴様降伏するなら今のうちだぞ!」

「そうだ。今降伏すれば命は助けてやろう!」

 ファウストによって多くの兵が命を落とすことになったが、まだ多く兵が残っている。
 その自信から、ベニアミーノとカルメーロは司へ無駄な抵抗をせずに降伏するように求める。

「……降伏? ……命を助ける?」

 2人の求めに、司は自分が聞こえたことを確認するように繰り返し呟く。
 その表情は、何を言っているのか分からないと言っているようにも見える。

「貴様ら帝国の人間が、他国の人間との約束を守るわけがない。くだらない冗談を言っていないで、さっさとくたばれ!! ゴミ共が!!」

 帝国の人間のこれまでのおこないから、降伏した人間との約束なんて守るわけがない。
 命を助けるというのも、どうせ奴隷として死なない程度に甚振り続けるというのが本音だろう。
 それが分かっているのに、誰が降伏などするものか。
 ふざけたことを言って来る2人の将軍に対し、司は段々怒りの感情を込めて啖呵を切った。

「言うじゃないか……」

「全くだ……」

 こめかみに血管を浮き上がらせながら、ベニアミーノとカルメーロは冷静な口調で話す。
 温情をかけたというのに、それを大和人ごときが無下にしたことに腹を立てているようだ。

「「……殺れ」」

 降伏を断るというのなら当然殺すだけだ。
 ベニアミーノとカルメーロは、冷淡な言葉と共に司への攻撃の指示を兵に出した。
 その指示に従い、兵たちは様々な魔法を司へ向かって打ち込んで来た。

「……さっきのことを忘れたのか?」

 様々な魔法が襲い掛かるが、司は全く微動だにしない。
 司の周囲には、先程光魔法を防いだのと同じように魔力壁が張られており、それによって全ての魔法攻撃を弾いた。
 さっきの光魔法を防いだのが、たまたまだとでも思っているのだろうか。
 無意味な攻撃をしてくる帝国側の攻撃に、司は飽きれたように呟いた。

「気にせず続けろ! このままなら奴は攻撃できない」

「アンデッドのいない奴は、ただの防御の硬い的だ!」

 司の魔力壁が強固なのは、当然将軍2人とも理解している。
 兵の魔法攻撃が通用しないこともだ。
 しかし、通用しないと分かっていても、ベニアミーノは兵にそのまま攻撃を続けさせる。
 その理由をカルメーロが説明する。
 帝国側にとって司の怖いところは、死んだ兵をアンデッドに変えられて攻め込まれることだ。
 そのアンデッドも、どうやら条件的に作り出せないことが分かっている。
 ならば、このまま攻撃を続けて防御に専念させれば、そのうち魔力切れになるはずだ。

「なるほど、それが狙いか……」

 将軍の地位に就くほどだから、彼らもただの馬鹿ではないようだ。
 彼らの考えを理解した司は、笑みを浮かべて納得する。

「生憎……」

 魔力壁に包まれたまま手に魔力を集め、司はその手を地面につき魔力を流す。

「攻撃ができないとは言っていない」

 司が一言呟くと、地面へと流れた魔力が巨大な魔法陣を作り出した。


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