祖国奪還

ポリ 外丸

第39話 防壁


「……司様」

「どうした?」

 西北地区に進軍しての町や村を奪還していった司は、帝国の将軍であるベニアミーノとカルメーロを倒しに2人がこもっている太良乃万州へと軍を進めた。
 そして、太良乃万州の木戸砦に集結した帝国軍を相手に攻めかかる数日前。
 ファウストが司のもとへ報告に来た。

「水元軍が王都へ向けて進軍を開始したそうです」

「……そうか」

 その報告を受けて、司は一瞬黙る。
 しかし、すぐに気にすることなく頷きを返した。

「これで戻る場所はなくなったな……」

 進軍したということは、自分を敵とみなしたのだろう。
 帝国軍を排除するために、現在王都はもぬけの殻。
 何の抵抗も出来ず奪われてしまうことになる。
 敵としてみなされているということは、帝国を排除しても王都へ戻ることなどできない。
 もしも苦戦して撤退しようにも、司には西南地区に逃げ込む以外の方法はないだろう。
 しかし、その西南地区にも江奈たちの軍が攻め込むはず。
 そうなると、この戦いに勝たない限り、司の居場所は王国内には無くなるということだ。

「予定通り攻め込むぞ!」

「はい」

 元々攻め込むつもりでいたのだから、このまま帝国を潰しに向かうのは変わらない。
 司はファウストに対し、木戸砦への進軍開始を指示した。





「来たぞ!」

 木戸砦へ向けて無数の黒い影が迫ってくる。
 それを確認した帝国軍の監視役が、大きな声を上げた。

「話の通りかなりの数だな……」

「あぁ……」

 砦の防壁の防壁の上に立ち、ベニアミーノとカルメーロは迫り来る黒い影を見て呟く。
 これまで、エレウテリオとセヴェーロという将軍2人が、司の魔物の軍勢によって潰されることになった。
 それだけ多くの魔物が動員されたということだろう。

「しかし、限界があるはず」

「あぁ、それまで倒し続けるしかない」

 どんな能力を使って多くの魔物を使役しているのか分からないが、無限という訳ではないはず。
 使役する魔物が尽きるまで、倒し続ければいい話だ。

「これまでの訓練通りに魔物を蹴散らせ」

「「「「「おぉーーー!!」」」」」

 ベニアミーノの言葉を受けて、兵たちは大きな声を上げる。
 この日のために、対抗策を練ってきたのだ。
 砦の城壁には大量のバリスタが設置されており、その装置を使用して、帝国軍は先制攻撃を始めた。

「バリスタか……」

 城壁の上にある兵器を見て司が呟く。
 ベニアミーノとカルメーロの2人によって、司に対する様々な対策をして来たようだ。
 結界によって転移による侵入を防がれ、セヴェーロの時のような内部から崩すことができない。
 そのため、司は数によるゴリ押しをおこなうしかない。
 それを見越して、帝国軍は城壁の上にあるバリスタで数を減らそうという考えなのだろう。

「あの程度の数で止められると思っているのか……」

 たしかにバリスタの数は多く。
 こちらの兵を減らされることになるかもしれない。
 しかし、こちらの数を考えれば、その程度で抑えきれるわけがない。

「突き進んで防壁を突破しろ!」

 司の指示を受け、列を作った大量のスケルトンたちが砦の防壁へと突き進んでいく。

「撃て! 撃ちまくれ!」

 向かって来る大軍勢のスケルトンたちに対し、バリスタを操る者たちへ指示が飛ぶ。
 その指示を受け、防壁上のバリスタがフル稼働する。
 巨大な槍が発射され、一発で数十体のスケルトンが破壊されている。
 仲間が吹き飛んでも感情がないため、スケルトンたちは何の反応も示さず防壁へ向かって進軍していった。

「フッ! 甘いな……」

 バリスタの攻撃でなかなかの数がやられたが、司の思った通りそれで抑え切れるわけもなく、スケルトンたちは城壁を越えて内部へと入り込んで行った。
 中に入ってしまえば、後はこれまで通り敵を打ち倒していくだけ。
 色々と対策を準備をしたようだが、考えが甘い
 そのため、司は笑みを浮かべてスケルトンたちによる蹂躙劇を期待した。

「…………何やら静かだな」

「左様ですね……」

 後方で控える司とファストは、帝国兵たちの悲鳴が聞こえてくるのを期待していた。
 しかし、その悲鳴がたいして聞こえてこないことに違和感を抱く。

「中に入ってみるか……」

「……はい」

 期待していた悲鳴は、小さい上にすぐに止む。
 何やら様子がおかしいが、ひとまず防壁内に侵入できた。
 このまま何もしないでいる訳にもいかないため、司はファウストと共に防壁内へと進むことにした。

「っ!!」

「これは……」

 防壁内に入った司たちは、違和感の正体を理解した。

「二重防壁か……」

 防壁内に入ると、離れた位置にまた防壁が築かれていたのだ。
 帝国側は、初めから防壁を突破されることは理解していたようだ。
 バリスタを撃ち続けるものだけ残し、他は兵はスケルトンの進軍度合いを見て、もう1つの防壁の中に入ってしまったのだろう。
 スケルトンたちが倒したのは、バリスタを撃ち続けるために残した者たちだけだったため、悲鳴が少なかったのだ。

「結界で弾いていたのは転移だけではなかったのか……」

 転移を防ぐために防壁内に結界を張っていると思っていたが、どうやら他にも意味があったようで、上空から内部を見せないためのカーテンとしての役割を担っていたらしい。

「しかも……」

 バリスタを撃つために残された者たちを見て、司は表情を歪める。
 というのも、その残された者たちというのが、奴隷にされた大和国民たちだったからだ。
 ここまで大量の奴隷兵を捨て駒のように利用してきて、更に使い潰してきた。
 どこまでも不快にさせることが得意なようだ。
 司は、ここ太良乃万州へ攻め込むために、伏兵をさせないように周辺の町や村を潰してきた。
 そこに配備されていたのは奴隷にされた大和国民であったが、司はそれでも容赦なく殺してきた。
 しかし、帝国兵とは違い、彼らの亡骸を使用してのアンデッド作成はして来なかった。
 ベニアミーノとカルメーロはそれを理解しているのだろう。
 スケルトンの補充をさせないつもりのようだ。

「やってくれるじゃないか」

 よく見ると、2段目の防壁の上にも多くのバリスタが設置されている。
 スケルトンたちの数を、更に削られることになりそうだ。
 思った以上に頭が切れる策に、司はしてやられた感を受けていた。

「何にしてもやることは変わらん」

 二重防壁とは考えたものだ。
 しかし、司の取れる策は変わらない。
 再度防壁を乗り越えるように、スケルトンたちを動かしたのだった。


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