祖国奪還
第35話 それぞれの反応
「王都が……奪還された?」
「はい!」
「バカな……」
唯一の生き残りである公爵家の水元江奈。
東北地区の大東州に閉じこもっている状態の彼女の下に、司が王都を奪還したという報告入ってきた。
晴天の霹靂とも言える報告に、青垣砦の会議室に集まった者たちは驚きに包まれた。
死人を操る能力によって、将軍エレウテリオ率いる軍勢を仕留めただけでなく、その副将軍であるビアージョとコージモの軍勢も返り討ちにした。
そんな司を、多くの者たちが信用していなかったが、数に勝る帝国兵を討ち滅ぼすためには、その力さえも必要とした。
この青垣砦から順次奪還を図っていく。
そう誰もが思っていたにもかかわらず、まさかいきなり王都を奪還することに成功するとは信じられなかった。
「しかし、あの得体の知れない送故司が奪還したのでは、真なる奪還とは言えないのでは……」
王都奪還は喜ばしいが、それを成したのが司だというのが些か問題がある。
帝国兵に占拠され、奴隷と化した者たちの希望であるべき公爵家の江奈。
その江奈が王都を奪還したとなれば、これ以上民心を引き付ける出来事はない。
しかし、それがどこの誰かも分からない、大和の人間かも怪しい者によって成されたとなると、いまいち盛り上がりに欠ける。
そういった意味で、この場にいる者たちは王都奪還を完全に喜べないでいた。
「いや、奴は大和王国の人間だと言っていた。ならば江奈様の功績として、王として王都へ迎えるつもりなのではないか?」
「おぉ! それなら奴のことも少しは評価してもいいかもな」
司が王都を奪還したことは、そのうち大和王国中に知れ渡ることになる。
それなら、司が江奈の指示のもとに王都を奪還したとなれば、充分江奈の評価が高められる。
独断専行ではあるが、そうするつもりでの行動なら、司の行動も許せるというものだ。
会議室に集まった者たちは、そう考えることでようやく王都奪還の喜びを膨らませていった。
「…………」
会議室に集まった者たちが、司が江奈を王都へ迎えると考えているなか、江奈自身は1人無言で思考の中にあった。
『本当に彼がそんなことするかしら……』
これまでの行動や、僅かな時間交わした会話の口調や態度から、江奈は司のことを見極めようとしていた。
彼が大和の人間であるというのは、嘘ではないと思っている。
それは、帝国との戦いでなんとなく分かる。
しかし、同じ大和国民だからと言って、我々と仲間なのかと言ったらそうではないように思える。
そのため、江奈としては、このまますんなりと司が自分たちを王都へ迎えるのか懐疑的であった。
◆◆◆◆◆
「王都が……?」
「はい。奪還されたとのことです」
王都奪還の知らせは、エレウテリオやセヴェーロと同じ将軍たちにも届いていた。
セヴェーロから、エレウテリオとその副将軍たちが死んだと知らされたこと自体が信じられないでいたが、まさかの知らせに言葉を失ってしまった。
「……エレウテリオに続いて、セヴェーロの奴も殺られたってことか?」
「はい……」
王国内にいる帝国兵をできるだけ集めて青垣砦を襲撃をするとセヴェーロから聞いていた。
その間、各地域の統治を頼むということで、わざわざ大和の国へと戻ってきたと言うのに、肝心のセヴェーロが殺られてしまっては、王都へ行く予定の自分たちはこの場から動けなくなってしまったということだ。
「こうなったら、俺たちが王都を奪還をしていくってことか?」
「……そうなるな」
「面倒な……」
ベニアミーノとカルメーロの2人の将軍は、予定とは違うことになり顔を歪めた。
あと一息で大和王国を完全に占領できる所まで行ったというのに、2人の将軍に王都まで奪還されるなんて考えもしなかったことだ。
また奪還し帰さないとならないんて、余計な労力を使わされることになった。
「そもそも、エレウテリオとセヴェーロはどうやって殺されたんだ?」
戦争に絶対はない。
だからと言って、エレウテリオとセヴェーロが負ける要素はほとんどなかったと思える。
余程のイレギュラーでもあったということだろう。
それにしたって、2人は多くの兵を従えていたはずだ。
それすらも上回るようなことが起きたから、2人が殺されたのだろう。
何が原因なのか分からなくては、自分たちも同じように殺されてしまうかもしれないため、ベニアミーノは報告に来た兵へと問いかけた。
「生き残った者がいないため、正確なことは分かっていないのですが、どちらもアンデッドの大群によって敗北したとのことです」
「「……アンデッド?」」
兵からの話に、将軍の2人は首を傾げる。
アンデッドはたしかに面倒な魔物ではあるが、帝国の兵ならばたいした苦も無く倒すことができるはずだ。
「アンデッドに帝国兵が手こずるか?」
「それが……」
「ん? 何だ?」
さすがに問いかけずにいられなかったため、カルメーロはその兵へと問いかける。
その問いに対し、その兵は何か言いにくそうな反応をした。
どうしてそんな反応になるのか分からず、カルメーロは再度問いかける。
「こちらの倒れた兵が、すぐその場で敵へと変わっていったそうです」
「……何だと?」
自軍の兵がそのまま敵になるなんて、何の冗談だ。
いくらアンデッドが相手だろうと、囲まれれば帝国兵でも死人も出る。
それが敵になり、他の帝国兵を襲うとなると、知らないで戦えば戸惑うのも仕方がない。
戸惑っている隙に、更なる被害者が出て敵が増える。
そう考えると面倒なことこの上ない。
「しかも、敵にはヴァンパイアまでもがいるという話しです。それだけでなく、ケルベロスにオルトロス、サイクロプスゾンビにブラックウルフまでも操ってくるそうです」
「……ケルベロスにオルトロス? しかもヴァンパイア? 本当のことなのか?」
「はい……」
信じられないような魔物のオンパレードだ。
そんなのを相手にしなければならないなんて、分かっていても躊躇する。
「そんなの相手にする上に被害者が全部敵になるなんて……」
「こちらから攻め入るべきではないかもな……」
「あぁ……」
そんな危険な魔物を相手にするのなら、こちらから攻め入るよりも待ち受けて一気に始末する方が対処しやすいだろう。
そのため、敵の罠があるかもしれない王都へこちらから攻め入ることは危険すぎる。
「この西北地区に砦や城壁や張り、我々は敵を待ち受けることにする!」
「各自行動に移れ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
方針が決まったことで、ベニアミーノとカルメーロは部下たちの前に姿を現し指示を出す。
その指示を受けた兵たちは、各々行動を開始したのだった。
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