《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

16-3.おわり

 睡魔スリープの術者である、ネニが気絶したことによって、眠らされていた者たちは目を覚ました。


 ダンジョンをふさいでいた箱も、オレの強化術を乗せた手甲によって、砕くことが出来た。


「手甲でくだけるんなら、さっさと気づきなさいよ」
 と、勇者にさんざん言われたのだが、返す言葉もない。まったくもって、その通りである。


 オレがさっさと、この手甲の存在に気づいていれば、ダンジョンに閉じ込められることもなかったわけだ。


 クロコの魔法によって、外部との音声が断たれていただけで、外はべつに何も起こっていなかった。


 むしろ救助しようと、冒険者ギルドと王国騎士たちが、いろいろとやってくれていたようだ。


 まあ、何はともあれば、祭典は無事に終わった。


 死人が出なかったことが、幸いである。ケガをしていたガデムンも、すぐに手当されて、意識を回復させた。



『魔物教』とかいうフザけた教義のもとに働いたクロコも、王国に無事引き渡されることになった。



 あとは王国騎士が、どうにかしてくれることだろう。


 え? 『魔物教』を潰しに行かないのかって? そんなメンドウなことはしたくないし、冒険者の仕事ではない。依頼されたらやるけどね。報酬しだいだけど。


 残念ながら祭典は、中止されることになったわけだが、クロコを捕えた勇者への称賛はおおきかった。


 さすが勇者さま、ということだ。うん。オレも活躍したんだけどね?
 ヤッパリ強化術師っていうのは、活躍が目立たないのかもしれない。世知辛いね。


 で。


「お疲れさまだったのでありますよ」


「うむ。ワシらがグッスリ眠っているあいだに、なにか色々あったようじゃな」


 宿。
 大樹を輪切りにしたみたいなテーブルの上に、さまざまな食材が並べられている。マグロとデコポンとネニの3人はそれを頬張っていた。例によって、暴食のかぎりをつくしている。


 しかしテーブルを囲んでいるのは、その3人だけではない。


「ッたく、手甲にさっさと気づいていれば、こんなことにはならなかったんだから」
 と、勇者は焼きリンゴをはさんだパンにかぶりつく。


「まあまあ、そう言うなや。ふつうは気づかへんやろ。なァ? ナナシ」
 と、カイトが、オレの脇腹をこづいてくる。


「……」
 と、人形のように黙然と座っているのが、ウィザリアである。


《勇者パーティ》と《炊き立て新米》の合併が行われることになった。合併というか、吸収である。


 クランだ。


 パーティはダンジョン攻略のさいに組むチームだが、クランは同じチーム集まりみたいなもんだ。


「でも、恐縮なのであります。マグロたちみたいな、新米が勇者さんのクランに入れてもらえるなんて」


「いいのよ、いいのよ。どこぞの意地っ張りが、『パーティに戻してください』って言えないみたいだし、パーティごとくっ付けちゃえば良いでしょ」


 勇者はそう言うと、オレに流し目を送ってきた。


「横暴だ! 職権乱用だ! パーティごとくっ付けるなんて、マグロも、自分のパーティに誇りはないのかよ。パーティが吸われたんだぞ。リーダーじゃなくなるんだぞ!」


「ご飯を食べれるのなら、問題ないのであります」


 勇者たちは、そりゃもう魔結晶を大量に持っている。収入も多い。
 マグロの食糧費もたんまりあるわけだ。マグロちゃん大満足である。デコポンとネニもべつに異議はないとのことだった。


「いくらオレに戻って来て欲しいからって、こんなやり方ってあるかよ!」


「はぁ? 誰が戻って来て欲しいなんて言ったのよ!」


「戻って欲しいから、パーティを併合するようなマネをしたんじゃないか!」


「あんたが、素直に戻りたいって、言えないから、こうするしかなかったんでしょッ。ありがたく思いなさいよ!」


 なんということだ。


 これでは『今さら戻って来いと言われても、もう遅い』が、言えないではないか!


 こうなれば、もう一度、追放されるしかない。どうすれば追放してもらえるのだろうか?


 パンツか? 勇者のパンツを盗んでやろうか?

 それぐらいの悪行を働けば、追放してもらえるに違いない。


 うん。なんか目的が変わってる気もするけど。


 カイトが口をはさんだ。


「まあ、ええやないか。一件落着ってことで。ふたりとも素直やないねんから。お前ぐらい優秀な強化術師は、そうそうおらんよ。な? 意地を張らんと戻ってきてくれや。勇者のほうも意地を張らんと、戻したってくれや」


 オレと勇者は、カイトの仲裁によって、しぶしぶ手を握り合うことにした。


 勘違いしてもらっては困るが、しぶしぶ、である。イザとなればオレだって、《勇者パーティ》なんか出て行けるということを、今回の騒動をもって証明できたはずだ。


「カイトがそう言うのなら、まぁ、仕方ないな」 と、オレは目の前に置かれていた焼きリンゴにかぶりつくことにした。


「あッ、チョット、それ私の焼きリンゴよ!」


「はぁ? オレの前に置いてあったんだから、別に良いだろ」


「良くないわよ!」
 と、オレと勇者は顔を突き合わせて、にらみ合うことになった。


 これから勇者パーティーは、《炊きたて新米》を吸収して、冒険を続けるとのことだった。女と駆け落ちした父親を探すため、勇者の冒険は続くのである。


 しかしながら、オレの野望は潰えてしまった。『今さら戻って来いと言われても、もう遅い』を言うためだけの冒険だったのだ。


 ざまぁ、とはなかなか難しいものである。

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