《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

15-7.尿意は防ぎようないし、仕方ないよ!

「遅いわね」
 と、勇者がため息を吐くように言った。


 意気揚々と出立したガデムンが、いつまで経っても戻って来なかった。


「便秘かもしれんだろ」


 あれだけの大男である。きっと出すのも時間がかかるのだ。誤解がないように言っておかなければならないが、べつに彼の下事情に興味があるわけではない。
 帰りが遅いから、心配してやっているだけだ。


「それにしたって遅すぎるわよ」


「便秘以外に、帰りが遅くなる理由なんてあるか?」


「ここはダンジョンよ。モンスターに襲われたか、迷子になっているかのどちらかでしょ」


「その考えはなかったな」


「いや。ふつうにそう考えるでしょ。むしろ便秘の可能性が出てくる、あんたのほうがどうかしてるわよ」


「まるでオレが、変なヤツみたいな物言いはやめていただきたい」


「変なヤツでしょーが」


「ガデムンが?」


「いや。ナナシィがよ!」


「そう怒鳴るな」


 なにゆえ勇者は、こんなにも元気なのだろうか。
 オレはもうヘトヘトである。


『魔塔祭典』なんかに参加しなければ良かった。時間移動の能力でも目覚めてくれないだろうか。目覚めてくれれば、祭典への参加を取りやめていたのになぁ。


 いや。時間移動の能力があったら幼少のころに戻って、勇者に告白したことをなかったことにしたい。あれのせいで、オレは勇者にマウントを取られ続けるハメに陥っているのだ。
 もっと改変したいことは、たくさんある。


 時間移動の能力があれば、勇者の父親の蒸発だって防げたかもしれない。あれを防いでおければなぁ。
 べつに勇者のためを思っているわけではない。


 あの事件さえなければ、勇者が冒険者を目指すこともなかったであろうし、オレが付き従うことにもならなかったのだ。


「チョット様子を見てくるわ」
 と、勇者がすくっと立ち上がった。すくっ――である。まったく疲れさせを感じさせない動作だ。


「ひとりで行くのかよ」


「心配してくれてんの?」


「いや。オレを置き去りにするのかよ」


 ここは女性レディの心配をするべきだ――とか言うのは、きっとキザな男に違いない。


 どこからどう見ても心配するような、か弱い女性レディではない。いや。見た感じは美人かもしれんが、内に宿ってるのはゴリラかライオンである。


 むしろ心配されるべき、か弱い存在なのはオレのほうだ。


「タンポポンとマグロちゃんがいるでしょーが」


「まぁ、そうだが」


 タンポポンはノドが乾いたのか、壁にもたれかかって弛緩ダレている。マグロにいたってはいまだ仮眠中である。


 起こすかどうかみたいな話が出てたけど、ガデムンがひとりで行ってくれたので、結局、寝かせたままだ。


 この2人が頼りになるんだろうか。


「ははん。さては心細くなってるんでしょ」


 勇者。碧眼を飾る二重マブタの目を、すっと細めて見せた。弱点見出したりとでも言いたげな表情である。


「い、いやぁ! そんなことないよ。ぜんぜん!」 


「じゃあ待ってなさいよ。あんたのことは信用してるから置いてくのよ」


「え? それってどういう……」


「じゃあ、ガデムンを探してくるからね」


 そう言うと勇者は、ガデムンが立ち去ったほうの通路へと消えていった。
 勇者の後ろ姿が、ダンジョンの暗闇にのみこまれていくかのようだった。


 グルルルルッ


 どこからともなく、猛獣のうなるような声が聞こえてくる。勇者がいなくなった途端に、そういった声が、耳をつくようになった。


 しかもタイミングの悪いことに尿意をおぼえた。


 勇者が同じ部屋にいてくれるだけで、心の拠り所になっていたのかもしれない。いやいや。あの勇者にすがる心を萌芽させるとは、オレも弱気になったものである。


 ばしばし、と自分の頬を両手で挟み込むようにして叩いた。


「タンポポンさん」


「なんだい。ボウヤ」


「オレ、ちょっとトイレに行ってくるんで、しばらくここを任せても良いですかね」


「え! 私ひとりにするのかい」
 と、タンポポンは目を剥いた。


「いや。すぐに戻ってきますよ。オシッコしてくるだけなんで。たぶん1分もかかりません」


 合理的に考えるなら、ここで垂れ流すべきなのかもしれないが、それはまぁ、色々とマズイものがある。


 幼少の頃のみならず、この歳になってお漏らしをしてしまったとなれば、あの勇者からどれだけバカにされるか、わかったもんじゃない。


 想像するだけでも怖ろしい。
 人間いつでも合理的に動けるもんでもない。


「いいわぁ。行ってきなさいな。そのあいだ、ここは守っておくからさ」
 と、タンポポンは仕方がないと言うように、肩をすくめて許してくれた。女神である。


「じゃあ、すみません。もし何かあるようでしたら、大声で呼んでください。声が聞こえる範囲にはいるので」


 その場から、すこし離れることにした。


 オレは強化術師であるため、そんなにガチガチな装備で固めてはいない。ちょっとズボンを下ろせば良いだけだ。


 ジョロロロロ……と石畳の上に尿が流れてゆく。しかしまぁ、法悦にひたっているわけにはいかない。このあいだにモンスターに襲われでもしたら、最悪である。それに、残していたタンポポンのことも気にかかる。


 もしや、タンポポンがオレたちを眠らせてる犯人ってことないよな? だったら、みんなを残してきたのはマズかっただろうか? 


 なににせよタンポポンひとりに、あの場を任せるのはマズかったのだろうが、オシッコのためだったのだ。仕方がない。文句ならオレじゃなくて、膀胱に言ってくれたまえ。


 大丈夫、大丈夫。
 数秒のことだし。


 しかしまぁ、こういうときに限って、人のカラダというのは融通がきかないもんである。なかなか出し終わらない。


 あるいは、出している時間が長く感じていたのかもしれない。ようやっと出し終わって、オレは急いで箱のある部屋へと戻ることにした。


「すみません。おまたせしました」


 へ?
 タンポポンは、壁によりかかるようにして熟睡していた。

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