《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
15-4.ミステリはもう、需要ないですかね?
嵐の山荘――という言葉がある。端的に説明するなら、閉じ込められた屋敷とかで、殺人事件が起きる展開のことだ。
世の中の名探偵たちが夢に見るほど憧れている状況である。
殺人事件を夢見てる名探偵ってどうなんよ――と、思われるかもしれないが、事件が起きなければ、探偵もオマンマの食い上げなのだ。
名探偵とかいう連中は「はよ、誰か死ねや」と思っているものだ。
オレは今まさに、そういう状況下にいるのではないかしら?
出口はない。助けも来ない。しかも眠らせた犯人が、この中にいる。おぉ。嵐の山荘である。――って、感動している場合ではない。
しかしまぁ、今日びこんなミステリ的な展開なぞ、誰も喜びはしない。誰得だよって話であるが、まぁここはダンジョンであるから、大目に見てやるか。いや。誰視点だよ。わはは。
「まさかお前じゃないだろうな」
と、オレは勇者に問いかけた。
「何が?」
と、勇者は問い返してきた。
ガデムンとタンポポンとクロコの3人は1組となって、周囲の探索に出払っていた。
階段を箱で閉ざされた部屋で待機しているのは、オレと勇者とマグロの3人である。
ときおりゴブリンやらオークが出てくるので、勇者が処理している。勇者がいるぶん、モンスターにたいする不安はない。
「冒険者を眠らせた犯人だよ」
と、オレは、ネニの鼻チョウチンを突きながら言った。
キレイな鼻チョウチンが出来るものだ。
眠ってさえすれば、ネニは美少女である。
「そんなわけないでしょーが。カイトやウィザリアだって眠らされてるのよ。自分の仲間まで眠らせてどうすんのよ」
「それはまぁ、そうだが」
そんなことを言い出せば、ガデムンやタンポポンだって仲間を眠らされているのだ。
「そう言う、そっちこそ、犯人じゃないの?」
「いいや。断じて違う。勇者だってわかるだろ。オレは睡魔なんて魔法は使えない」
「わかんないじゃない。《勇者パーティ》から追放したあと、自力で習得してるかもしれないじゃない」
「なんで睡魔なんて習得しなくちゃならないんだよ」
習得できるものなら、もっと別の魔法を習得している。
「あんたなら、習得しかねないわ。女の子を眠らせて襲っちゃおうとか、眠らせた相手から魔結晶を盗んでやろうとか、そういう不埒なことを考えそうなんだもの」
「オレの印象最悪すぎんだろッ」
いや。
悪くないな。
睡魔の魔法を学んでおくべきか?
ネニなら、やり方を知ってるかもしれない。あとで教えてもらおう。
待てよ。
いまこの状況だって、ネニやデコポンは、無防備なわけだ。ほかにも女冒険者たちがいる。たぶん《容姿端麗組》の連中だ。
この場にマグロと勇者がいなければ、手を出してもバレないのでは? やりたい放題できるのでは?
「いま、不埒なこと考えてたでしょ」
「はぁ! 考えてねェし、これっぽちも考えてねェし!」
なんなんだ、この勇者。
なんでオレの思考を読んでいるのか。昔から、そうなのだ。オレの思考をだいたい言い当てやがるのだ。
厄介である。
最恐最悪の敵である。
「だいたいわかんのよ。ホント最低。この性欲魔神!」
なんという不名誉な二つ名をつけてくれるのか。まぁ、性欲魔神という肩書は、そんなに悪い響きではないな。
パチン。
ネニの鼻チョウチンが弾けた。起きるのかと思ったけれど、寝返りを打っただけだった。
「おう。無事だったか」
と、ガデムン、タンポポン、クロコの3人が戻ってきた。
「そちらこそ無事でなによりです。どうでしたか? 水はありましたか?」
「悪報と吉報があるぜ」
ガデムンたちの探索によると、出口は見つからなかった――とのことだ。ただし、水の湧き出ている場所はあった、ということだ。
気がきくことに、水筒にいれてその水を汲んでくれてきた。
おかげでノドの渇きをうるおすことは出来た。
「ありがとうございます。助かりました」
「しかし、この6人のなかに、眠らせてくるヤツがまぎれ込んでいるとは思いたくねェなァ」
と、ガデムンは、ひときわ大きな水筒を持っていた。ガブガブ、と水を浴びるように飲んでいた。
実際、ほとんどコボれていて、(革の鎧を濡らしていた。モッタイナイ気もするが、湧いているのなら良い。
「このなかに犯人がいるとして、なんで冒険者を眠らせてるんでしょうか」
と、オレは質問を投げかけた。
「ンなもん、決まってるじゃねェーか。オレたちを殺すためだよ」
と、ガデムンは、水筒の水をスキンヘッドの頭にぶっかけていた。この薄暗闇のなかでも、その禿頭が見事に輝いていた。
「殺すなら、殺せば良いでしょう。でも、眠らせてくるだけ――ってのが、中途半端じゃないですかね?」
「殺すのは手間なんだよ。眠らせるだけなら、円滑に出来るし、周りに不審に思われなくて楽だろ。万が一、冒険者と戦いにでもなってみろ。負けちまうかもしれねェだろうが。眠らせて、あとはモンスターに任せておけば、冒険者たちは勝手に死んでいくわけだ。わざわざ自分でトドメを刺すことねェだろ。戦いになっちまったら『魔結晶カメラ』に犯人の映像も映りこんじまうしな」
「はぁ」
見事な推理である。
推理っていうか、もしや自白してんのか? え? オレがやりました――ってことですかね?
「こうやってオレたちを閉じ込めて、眠らせていく作戦なんだよ。だとすりゃあ、この階段をふさいでるのも、犯人の仕業だろうな」
と、ガデムンは持っていた水筒を、その巨大な箱に投げつけた。箱は冷然と、水筒を弾き返していた。
「これ、魔法で出したんでしょうかね」
「物理的に運んで来られる大きさじゃねェからな。まぁ、オレぐらいの怪力なら運んでこれるがな」
ガハハ、とガデムンは得意気に笑っている。
えー。
自白してんのか、推理なのか、わかんないんですがッ。
「誰かの仕業として、動機はなんなんでしょうか?」
「ンなもん、ライバルの冒険者を減らそうって考えに決まってンだろ。オレなんて、いつも他の冒険者を叩き殺してやろうとか思ってるしな。ほかの冒険者減ってくれれば、もうちょいオレのところも需要が出てくるのになぁ」
やはり自白なのか。
周囲から疑惑の目を向けられることに気づいたのか、ガデムンはあわてて頭を振った。かぶりを振ったついでに、頭に付着していた水滴が飛散していた。
「いやいや。オレはべつにやってねェからな。あくまで推理だよ。推理」
とのことだ。
なんだ、テッキリ自白してるのかと思ってしまった。
「これはたぶん、鉱石か何かですよね」
と、オレは階段をふさぐその箱を、手の甲でノックするようにして叩いてみた。カンカン。乾いた音が響く。
「こんな特殊な鉱石、見たことねェがな」
「睡魔も使えるし、こんな鉱石も出せるってことは、犯人は魔術師ってことにまりますがね。しかもかなり凄腕の」
「たしかに、そう推理できるわな。だったらオレじゃねェぞ。オレは見てくれの通り、前衛の戦士だからな」
たしかにガデムンの図体が、後衛の魔術師ということはないだろう。もしその身形で魔術師をやっているのなら、宝の持ち腐れである。
魔法を使うまえに、コブシでゴブリンぐらいなら潰せそうだ。
「なら私も違うわ」
と、勇者が言う。
たしかに勇者も、前衛剣士である。多少は魔法も使えるようだが、こんな鉱石を出せた覚えはない。
オレも犯人ではない。そんなことは、オレ自身がイチバン良くわかっている。
内に秘めたるもう1人のオレが目覚めていれば、別の話だが、今のところそんな覚えもない。オレとずっといっしょにいたマグロも犯人ではない。
だったら――。
と、タンポポンとクロコのほうに、オレは目を向けた。
ふたりはあわてて否定していた。
タンポポンも前衛の戦士。得物はムチだということだ。その証拠に携帯していたムチを見せてくれた。叩かれたい。
クロコはオレと同じく強化術師であって、魔法は使えないということだ。
と――すると、みんなを眠らせてるヤツは、ここにはいない、第三者、ということだろうか?
世の中の名探偵たちが夢に見るほど憧れている状況である。
殺人事件を夢見てる名探偵ってどうなんよ――と、思われるかもしれないが、事件が起きなければ、探偵もオマンマの食い上げなのだ。
名探偵とかいう連中は「はよ、誰か死ねや」と思っているものだ。
オレは今まさに、そういう状況下にいるのではないかしら?
出口はない。助けも来ない。しかも眠らせた犯人が、この中にいる。おぉ。嵐の山荘である。――って、感動している場合ではない。
しかしまぁ、今日びこんなミステリ的な展開なぞ、誰も喜びはしない。誰得だよって話であるが、まぁここはダンジョンであるから、大目に見てやるか。いや。誰視点だよ。わはは。
「まさかお前じゃないだろうな」
と、オレは勇者に問いかけた。
「何が?」
と、勇者は問い返してきた。
ガデムンとタンポポンとクロコの3人は1組となって、周囲の探索に出払っていた。
階段を箱で閉ざされた部屋で待機しているのは、オレと勇者とマグロの3人である。
ときおりゴブリンやらオークが出てくるので、勇者が処理している。勇者がいるぶん、モンスターにたいする不安はない。
「冒険者を眠らせた犯人だよ」
と、オレは、ネニの鼻チョウチンを突きながら言った。
キレイな鼻チョウチンが出来るものだ。
眠ってさえすれば、ネニは美少女である。
「そんなわけないでしょーが。カイトやウィザリアだって眠らされてるのよ。自分の仲間まで眠らせてどうすんのよ」
「それはまぁ、そうだが」
そんなことを言い出せば、ガデムンやタンポポンだって仲間を眠らされているのだ。
「そう言う、そっちこそ、犯人じゃないの?」
「いいや。断じて違う。勇者だってわかるだろ。オレは睡魔なんて魔法は使えない」
「わかんないじゃない。《勇者パーティ》から追放したあと、自力で習得してるかもしれないじゃない」
「なんで睡魔なんて習得しなくちゃならないんだよ」
習得できるものなら、もっと別の魔法を習得している。
「あんたなら、習得しかねないわ。女の子を眠らせて襲っちゃおうとか、眠らせた相手から魔結晶を盗んでやろうとか、そういう不埒なことを考えそうなんだもの」
「オレの印象最悪すぎんだろッ」
いや。
悪くないな。
睡魔の魔法を学んでおくべきか?
ネニなら、やり方を知ってるかもしれない。あとで教えてもらおう。
待てよ。
いまこの状況だって、ネニやデコポンは、無防備なわけだ。ほかにも女冒険者たちがいる。たぶん《容姿端麗組》の連中だ。
この場にマグロと勇者がいなければ、手を出してもバレないのでは? やりたい放題できるのでは?
「いま、不埒なこと考えてたでしょ」
「はぁ! 考えてねェし、これっぽちも考えてねェし!」
なんなんだ、この勇者。
なんでオレの思考を読んでいるのか。昔から、そうなのだ。オレの思考をだいたい言い当てやがるのだ。
厄介である。
最恐最悪の敵である。
「だいたいわかんのよ。ホント最低。この性欲魔神!」
なんという不名誉な二つ名をつけてくれるのか。まぁ、性欲魔神という肩書は、そんなに悪い響きではないな。
パチン。
ネニの鼻チョウチンが弾けた。起きるのかと思ったけれど、寝返りを打っただけだった。
「おう。無事だったか」
と、ガデムン、タンポポン、クロコの3人が戻ってきた。
「そちらこそ無事でなによりです。どうでしたか? 水はありましたか?」
「悪報と吉報があるぜ」
ガデムンたちの探索によると、出口は見つからなかった――とのことだ。ただし、水の湧き出ている場所はあった、ということだ。
気がきくことに、水筒にいれてその水を汲んでくれてきた。
おかげでノドの渇きをうるおすことは出来た。
「ありがとうございます。助かりました」
「しかし、この6人のなかに、眠らせてくるヤツがまぎれ込んでいるとは思いたくねェなァ」
と、ガデムンは、ひときわ大きな水筒を持っていた。ガブガブ、と水を浴びるように飲んでいた。
実際、ほとんどコボれていて、(革の鎧を濡らしていた。モッタイナイ気もするが、湧いているのなら良い。
「このなかに犯人がいるとして、なんで冒険者を眠らせてるんでしょうか」
と、オレは質問を投げかけた。
「ンなもん、決まってるじゃねェーか。オレたちを殺すためだよ」
と、ガデムンは、水筒の水をスキンヘッドの頭にぶっかけていた。この薄暗闇のなかでも、その禿頭が見事に輝いていた。
「殺すなら、殺せば良いでしょう。でも、眠らせてくるだけ――ってのが、中途半端じゃないですかね?」
「殺すのは手間なんだよ。眠らせるだけなら、円滑に出来るし、周りに不審に思われなくて楽だろ。万が一、冒険者と戦いにでもなってみろ。負けちまうかもしれねェだろうが。眠らせて、あとはモンスターに任せておけば、冒険者たちは勝手に死んでいくわけだ。わざわざ自分でトドメを刺すことねェだろ。戦いになっちまったら『魔結晶カメラ』に犯人の映像も映りこんじまうしな」
「はぁ」
見事な推理である。
推理っていうか、もしや自白してんのか? え? オレがやりました――ってことですかね?
「こうやってオレたちを閉じ込めて、眠らせていく作戦なんだよ。だとすりゃあ、この階段をふさいでるのも、犯人の仕業だろうな」
と、ガデムンは持っていた水筒を、その巨大な箱に投げつけた。箱は冷然と、水筒を弾き返していた。
「これ、魔法で出したんでしょうかね」
「物理的に運んで来られる大きさじゃねェからな。まぁ、オレぐらいの怪力なら運んでこれるがな」
ガハハ、とガデムンは得意気に笑っている。
えー。
自白してんのか、推理なのか、わかんないんですがッ。
「誰かの仕業として、動機はなんなんでしょうか?」
「ンなもん、ライバルの冒険者を減らそうって考えに決まってンだろ。オレなんて、いつも他の冒険者を叩き殺してやろうとか思ってるしな。ほかの冒険者減ってくれれば、もうちょいオレのところも需要が出てくるのになぁ」
やはり自白なのか。
周囲から疑惑の目を向けられることに気づいたのか、ガデムンはあわてて頭を振った。かぶりを振ったついでに、頭に付着していた水滴が飛散していた。
「いやいや。オレはべつにやってねェからな。あくまで推理だよ。推理」
とのことだ。
なんだ、テッキリ自白してるのかと思ってしまった。
「これはたぶん、鉱石か何かですよね」
と、オレは階段をふさぐその箱を、手の甲でノックするようにして叩いてみた。カンカン。乾いた音が響く。
「こんな特殊な鉱石、見たことねェがな」
「睡魔も使えるし、こんな鉱石も出せるってことは、犯人は魔術師ってことにまりますがね。しかもかなり凄腕の」
「たしかに、そう推理できるわな。だったらオレじゃねェぞ。オレは見てくれの通り、前衛の戦士だからな」
たしかにガデムンの図体が、後衛の魔術師ということはないだろう。もしその身形で魔術師をやっているのなら、宝の持ち腐れである。
魔法を使うまえに、コブシでゴブリンぐらいなら潰せそうだ。
「なら私も違うわ」
と、勇者が言う。
たしかに勇者も、前衛剣士である。多少は魔法も使えるようだが、こんな鉱石を出せた覚えはない。
オレも犯人ではない。そんなことは、オレ自身がイチバン良くわかっている。
内に秘めたるもう1人のオレが目覚めていれば、別の話だが、今のところそんな覚えもない。オレとずっといっしょにいたマグロも犯人ではない。
だったら――。
と、タンポポンとクロコのほうに、オレは目を向けた。
ふたりはあわてて否定していた。
タンポポンも前衛の戦士。得物はムチだということだ。その証拠に携帯していたムチを見せてくれた。叩かれたい。
クロコはオレと同じく強化術師であって、魔法は使えないということだ。
と――すると、みんなを眠らせてるヤツは、ここにはいない、第三者、ということだろうか?
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