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《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

12-3.そんな大事なものが盗まれたなんて!

 焼きあがったクッキーがまだあるから持ってくる――と言って、王女は席を外した。その隙にネニが話しかけてきた。


「よくも私の脛を蹴りやがったな」


「いや。悪かった。たまたま当たっただけだ」


「よくそんなこと、シレッと言えるもんだぜ。で、あの王女さまは、ホンモノだと思うか?」


 席を外しているとはいえ、声が聞こえないようにネニは上体を乗り出して、声をひそめた。
 オレも同じく声をひそめる。


「ホンモノだろうさ。マグロも見覚えがあると言ってたし、だいたいウソを吐く理由なんてないだろ」


「そりゃそうだが、王女さまが冒険者を雇うなんて、ンなことあると思うかよ? 私たちだってけっこう信用ならねェ身分だと思うがな」


 たしかに冒険者なんて、立場のないその日暮らしである。


「身内が信用ならないって言うなら、仕方ないんじゃないか?」


 ほかに頼れる人がおらず、結局、冒険者にクエストを申し込んだとするなら、憐憫すらおぼえる。


「で、身辺警護はホントウにやるのかよ?」


「そりゃ魔結晶をくれるって言うんだから、やるに決まってるだろ。3万ポロムに、さらに追加してくれるかもしれんし」


 搾り取れるだけ、搾り取るのが理想的だ。これで金欠問題が解消できるかもしれない。もっと欲を言うならば、結婚したい。
 国を背負うような立場にはなりたくないけれど、ヒモにはなりたい。


「しかし不用心な姫さまだなぁ。護衛の騎士とかいねェのかよ」


「待てよ。護衛の騎士がいないのか……」


 誘拐とか、したらどうなるだろうか。護衛がいないなら、出来ないことはない。そして国を相手どって、身代金……。


 はッ。いかんいかん。


 チョット良くない方向に、思考が進んでしまっていた。オレは聖人君子だから思いとどまったけれど、悪いヤツなら、それぐらいのことは考えるだろう。
 ヤッパリ姫さまの行動にしては、軽率すぎるように感じる。


「お待たせしましたー」
 と、焼き立てのクッキーを持ってきてくれた。


 熱いので気を付けてくださいね――という王女の忠告も気にせずに、マグロが手を伸ばしていた。オレもひとつもらった。焼きあがった直後の香ばしさと、ミルクの甘味が口のなかに広がった。


「それで王女さま」


「ブルベと呼んでください」


「え? イキナリ略称ですか」


 もしかしてオレのことが好きなんだろうか。


「いえ。あまり畏まられると、誰かに見られたときに私が王女だとすぐにバレてしまいます。それに、友達みたいに接してみたいんです」


「オレはナナシです」


「ナナシさまですか」


「そうです! そうです!」


 念願の「さま」付けである。ようやっとオレのことを「さま」を付けて呼んでくれる人が現われた。
 きっとこの人が、オレという人生のメインヒロインに違いない。


 マグロたちのことも順に紹介していった。


「ご安心ください。マグロたちは役に立たない新米冒険者かもしれませんが、オレは元勇者パーティにいましたから……ギャヒッ」


 脛に激痛が走った。
 ネニにやりかえされたようだ。


「どうかされましたか?」


「いえ。何でもありません。どうぞお気になさらず」


「元勇者パーティなんてすごいのですね。勇者というのは、もっとも討伐スコアの高い冒険者に送られる称号ですのよね?」


「ええ。ええ。まぁ、その勇者もオレのおかげで活躍していた――みたいなところがあるんですけれどね」


「まぁ。するとナナシィさまは、偉大な冒険者ですのね?」
 と、ブルベは紫色の瞳を輝かせ、胸の前で手のひらを重ね合わせて、そう尋ねてきた。


 あぁ。
 いい娘だ。
 常に傍らに置いておきたい。


 勇者にも、すこしはブルベの楚々たるさまを見習ってもらいたいものだ。


「そうなんですよ。オレは偉大な冒険者なんです。なのに周りの連中が理解しないから、追放されるという憂き目にあったんですけどね。でもオレを追放したことを勇者たちは、今頃、後悔してるんですよ」


 あぁ。かわいそ。
 勇者め。いつまで意地を張ってられるか、見物である。


「何かの本で読んだことがありますわ。それはザマァって言うのでしたわね」


「さすがブルベは、博識ですね。そうです。虐げられたオレは、ザマァしてやろうと目論んでいるんですよ」


 王女さまだから、そりゃいろいろと本をお読みになっているのだろう。
 普段どんな本を読んでいるのだろうか。チョット気になる。


「ナナシさまは、いままでどんな冒険をしてらっしゃったのですか? 私、とっても気になりますわ」
 と、ブルベは前のめりになった。


 顔が近い。
 良い匂いがする。


 一国の姫さまの匂いなんて、そうそう嗅げるものではない。今の内にたっぷり吸引しておこう。


「オレの冒険譚なら、あとで厭になるほど聞かせてあげますよ。そりゃもう、トロールやドラゴンといった数々のモンスターを討伐してきたんですからね。オレのことは、ともかくブルベのことですよ」


「私?」


「ええ。身内に狙われていると言っておられましたね? そう思う根拠が何かあるのでしょうか?」


 それはもう……と、ブルベは顔を曇らせてつづけた。


「たとえば、お部屋のスリッパが逆を向いていたり、ベッドのシーツにすこしシワが入っていたり、不審なことが続くのです」


 それだけで身の危険を感じるものだろうか。凡人には些細なことでも、王女さまにとっては重大なことなのかもしれない。


「ほかには?」


「ずっと見られているような不安がぬぐえません。城を跳び出して、こうして別宅に逃げ込んでからは、それがなくなりましたが」


「ふむぅ」


 聞いているかぎりでは、たいしたことなさそうだ。だが、わざわざ城を跳び出してくるぐらいだ。本人だからこそ感じるものがあるのかもしれない。


「なんか、たいしたことねェなァ。気のせいじゃねェのか」
 と、ネニが口をはさんだ。


「いえ。気のせいではないのです。きっと誰かが、私の命を狙っているに違いありません。王女という立場上、私の命を狙う者も少なくはないのです」


「そういうもんかねぇ」
 と、ネニは首をかしげている。


 まぁ良い。
 気のせいであれば、それで良い。なににせよ、こうしてお姫さまと同じ空気を吸えるというだけで、幸せなことである。


「それから、これが靴のなかに、入れられておりました」
 と、ブルベは1枚の紙切れを取り出した。


「どれどれ」


 覗きこむフリをして、顔を近づける。うん。甘い良い香りがする。
 

 もちろん紙切れの内容にも目を通す。


『魔塔祭典』を中止にしなければ殺す、という率直な一文が、そこに記されていた。


「なるほど。たしかにこれは決定的な証拠ですね」


「しかし誰が私の靴に忍ばせたのか、わからないのです。怖くなって、こうして逃げてしだいですの」


 その文面に恐怖をおぼえたのか、ブルベはすぐさまポケットに戻していた。華奢な肩をふるわせている。思わず抱きしめたくなる可憐さだ。


「しかし王女さまが消えてしまったら、いまごろ城は大騒ぎでしょう」


「かもしれません」
 と、ブルベは舌をチロリとのぞかせて、言葉をつづけた。


「それから、たいしたことではないのかもしれませんが、物がなくなることもしばしばありますの」


「物?」


「非常に言いにくいことなのですが……」
 と、ブルベは顔を赤くして、目を伏せた。


「なんです?」


 いちおう聞いておいた方が良いだろうと思って、うながした。


「パンツがなくなることがあるのです」


「……ッ」
 絶句。愕然。驚嘆。
 王女さまのパンツを盗むとは、なんて羨ましい――じゃなくて、けしからんヤツだろうか。
 そんな不届き者は、さっさと捕まえて斬首刑にしてやるべきだ。


「ちなみに、どういう色で、どういう柄のものなんですかね? 洗った後の物なんですかね? それとも洗う前の物が盗まれたんですか? いや、けっして卑らしい意味ではなくてですね。いちおう今後の身辺警護のためにもですね……」


 聞かねばならぬ。
 義憤に駆られたオレの本能が、そう言っている。


「スケベな顔になってるのでありますよ」
 と、マグロが指摘してきた。


「なに?」
 あわてて自分の顔を、ナでつけた。


「冗談です。簡単に引っかかるのですね。……へっ」


「あっ、カマカケやがったな! しかも、なんだその最後の笑いはッ。ときおり見せる、その悪そうな笑い方はやめろッ」


 とっても楽しそうなパーティですのね、とブルベは微笑んでいた。

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