《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

10-4.まだ終わりじゃないってマジですか!

「こちらが賞金の5万ポロムになります」
 と、冒険者ギルドの受付嬢が持ってきた。


 純度の高い光を放つコブシ大ほどの魔結晶が3つ、机上に置かれることになった。


 真犯人であるゴルドは捕縛されて、ネニが解放された。賞金の10万ポロムをどうするかという話になったのだが、勇者パーティと分割で、「5万ポロム」だけいただけることになったのだ。


 勇者パーティは、またすぐにダンジョン攻略を目指すということだ。
 惨殺騒ぎの調査以来を受けて、一時的に訪れていただけなのだ。


 まぁ、まだまだ未開のダンジョンも多いし、新規のダンジョンも次々と生えてくる。冒険者の仕事はなくならない。
 父親を探すという勇者の目的も、まだ果たせてはいない。
 勇者は忙しいようだ。


 ちなみにゴルドが捕えられて、勇者パーティは3人に戻った。あんなヤツをパーティに勧誘するなんて、勇者も人を見る目がない。


「さて、この5万ポロムをどうするか――という問題なんだが」


「当初の予定通り、教会に寄付だろ」
 と、ネニが手を伸ばそうとしたから、あわててはたき落とした。


「そう言えば、そんなこと言ってたが、その教会から追放されたとか言ってなかったか?」


「ああ。そうだ。私は父親も母親も知らねェ。人狼として生まれて、山に捨てられちまってた。そこを教会のシスターに拾われて、育ててもらったんだよ」


「でも教会を追放されたんだろ?」


「人狼ってことがバレてな。でもまぁ、育ててくれた恩があるわけだし、寄付ぐらいはしてやろうと思ってよ」


 態度にそぐわず、殊勝な態度である。 
 待つのでありますよ――とネニを遮って、マグロが魔結晶に手を伸ばす。


「《炊き立て新米》の今後の活動費にするのでありますよ」


「待て待て。活動費とか言って、すぐに食事代にするつもりだろ。マグロはすこし食べるのを堪えることを覚えろ」


「ガーン、であります」


「ならば、これはハーフエルフたちの人権獲得のための資金にするというのは、いかがじゃろうか?」
 と、次にデコポンが手を伸ばそうとする。


 まぁ待て待て。3人とも落ちつけ――とオレは切り出した。


「人狼を捕まえることが出来たのは、ほとんどオレの手柄と言っても過言ではない。オレはゴルドを釣りだすために餌としての役目も果たしたんだからな。しかもオレは《羽毛より羊毛》パーティとマグロとの確執を取り除き、デコポンの故郷を買い取るために魔結晶ゴーレムも倒した。さらにこのたびネニの冤罪を暴いて見せた――という活躍もあるわけだ。獅子奮迅の活躍をしているわけだが、どうも見返りがすくないような気がする。そこで、この5万ポロムは、オレがいただくことにする」


 この資金をどうやって独り占めしてやろうかと、オレは昨晩ずっと考えていたのだ。
 そして練り込んだ熱弁である。



 ウソは言っていない。これでマグロもデコポンもネニも、すこしは遠慮というものを覚えるはずだ。
 そして大人しくオレに魔結晶を明け渡して……。


「《羽毛よりも羊毛》との確執を取り除いたのは、マグロのガンバりなのであります」


「私も、魔結晶ゴーレムを倒すために奮起したのじゃ」


「ゴルドが人狼だって気づいたのは、私だからな」
 と、3者3様の言葉が返ってくることになった。


 なんて薄情な連中か!


 口舌を戦わせたすえに、結局、この魔結晶は今後の《炊き立て新米》の活動資金にすることにした。


 新しい武具だって買いたいし、馬車だって買いたい。他のメンバーだって雇いたいし、欲を言うなら、拠点となる家が欲しい。


 5万ポロムは、ギルドで預かっていてもらうことになった。冒険者ギルドは各地に支部があって、銀行としての役目もはたしている。


「それでは、こちらの5万ポロムは、冒険者ギルドで預からせていただきますね」
 と、受付嬢がひきつった笑みを浮かべてそう言った。


 誰が5万ポロムを手にするのかという口論は、ずっと冒険者ギルドのカウンターテーブルの前でしていた。
 よって、後ろには長蛇の列ができている。ほかの冒険者たちの苛立つ様子がわかる。


「あとそれから、こちらを」
 と、受付嬢は銅色のプレートを2つ差し出した。それはまぎれもなく「Eランク」冒険者の証であった。


「おおっ」
 と、オレが手を伸ばそうとすると、受付嬢が笑顔でオレの手をはたき落としてきた。けっこう痛い。


「こちらは、スケルトン・デスロードを倒したマグロさま。魔結晶ゴーレムをたおした デコポンさま。その2人へ贈呈されることになりました。見事Eランク冒険者への昇格です」


「いや、待ってください。オレのはないんですかね?」


「ナナシさまとネニさまには、モンスターの討伐記録がないためFランクで保留ということになります。昇格のためには、モンスターの討伐スコアが指標とされますので」


 マグロとデコポンは、オレへの遠慮のカケラもなく、その冒険者プレートに跳びついていた。


 くそぅ。
 羨ましい。


 冒険者のプレートの有無は、冒険に大きく関わってくる。プレートがあれば関所などの通行が免税される。都市の出入りも寛容になる。プレートを携えていれば、周りの目も違ってくるというものだ。


 オレもいつかSランク冒険者のプレートを手に入れて、威張り散らしたい。


 プレートにつられて寄ってくる子供たちをアゴで使い、女どもを食い散らかして、男どもの羨望の目を一身に受けてみたいものだ。


 救いなのは、Fランク冒険者にとどまっているのがオレだけではないということだ。


「なぁ、ネニ。羨ましいなぁ。お前にはオレの気持ちがわかるよなぁ」


「ぐぅ」


「寝てるしーっ」


 おい、いつまで待たせンだ。さっさとしてくれッ。こっちは急いでるんだよ。


 後ろに並んでいる冒険者たちから、怒りの声が飛んできた。その声に追われるように、オレたちは冒険者ギルドを出た。


 眠っているネニは、オレが背負うことにした。なんだかかんだ言って、オレは誠実で優しい男なのだ。
 背中に当たるおっぱいの感触が心地良いとか、フトモモを触れるとか、そういう如何わしい気持ちは決してない。


「くそぉ。結局、勇者たちに『今さら戻って来いと言われても、もう遅い』って言えなかったぜ」


 連中にそう言わせしめるためには、この《炊き立て新米》を一流の冒険者パーティにするしかない。


 この底辺パーティを冒険者パーティに並ぶぐらい育ててやれば、強化術師の有益さ――ひいてはオレ自身の価値を、周囲は認めざるをえないはずだ。


「よっぽど言いたいのでありますね」


「そりゃ、それを言うためだけに、冒険していると言っても過言ではないからな。オレには父親を探すんだとか、立派な冒険者になるんだとか、最強のモンスターを倒すんだとか、そんな高尚な目的なんかありゃしねェ。まぁ、付随オマケとしては有りかもしれんが、何よりの目的は、あの勇者に『今さら戻って来いと言われても、もう遅い』と言うことだ」


 あの勇者を一度は、ギャフン、と言わせてやるのだ。


「では、そろそろマグロたちも、次なる都市へ旅するのでありますよ。えいえい、おーっ」


「オレの話、聞いてますかねーっ」


「あ、どうぞ、続けてください」


「いや、もういいです」


《炊き立て新米》パーティの冒険者はこれからだッ――と、いうセリフで結んでおくとしよう。

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