《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
10-2.勇者がオレのこと好きとかマジです?
強化術師として危険な男であるオレは、地下深くの牢獄に、厳重に封印されることになった――なんてことはまるでなく、アッサリと釈放されてしまった。
なんだか肩すかしである。
厳密に言うと、オレはべつに捕えられていたわけではなくて、留置段階だったようだ。
どうせならもっと重要危険人物としての扱いを受けてみたかった。そのほうが冒険者としてはハクがつくというものだ。
しかしながら主犯である当のネニは、まだ解き放たれていなかった。ネニが釈放されていないのに、オレだけ許されるというのも釈然といかない話だ。
まぁ、シャバの空気が据えることに不満はない。
夜。
オレは裏路地を歩いていた。
冒険者ギルドの裏手。以前に人狼モードのゴルドに襲われた場所だ。
ここに来るようにと勇者が指定してきたのだ。
話ぐらいは聞いてやらんこともない……と思ったのだが、相変わらず不気味な場所である。日中に来ても薄暗いのに、夜に来てみると、ますます暗闇が濃厚だった。
生ゴミのなかを駆けまわるネズミも、モンスターか何かに見える。
「やあ」
と、背後から声がかかった。
ゴルドである。
キザったらしくアシメに伸ばした髪を、ゴルドは掻き上げて見せた。
その仕草もなんか気にくわない。
だいたい白銀の髪というのが気にくわない。オレもそんな髪色で生まれてきたかったとか、羨ましいとか、ぜんぜんそんなことは思っていない。
ああ、微塵も思っていないとも!
オレはこのイカスミをぶっかけたみたいな黒髪が気に入っているとも!
「誰かと思えば、お前か。オレは君を招いたつもりはないが?」
と、オレはあえてツッケンドンな言い方をした。
「あのときは、えらくビビってたみたいですが、今日はずいぶんと威勢が良いじゃありませんか」 と、ゴルドは薄い笑みを浮かべたままそう言った。
「あのとき?」
「忘れたんですか。ここで会ったときのことを」
「あ……」
待てよ。
これって、ヤバいんじゃね?
ネニが捕まってから、惨殺事件はいちおう起こってはいない。
が、しかし――だ。
惨殺事件の犯人はゴルドであって、オレを襲った人狼もゴルドだと、ネニからは聞いている。
つまり目の前の、この男こそ真犯人なのだ。
っていうか、夜更けにひとりで、こんなところに行くこと事態が危険きわまりないのでは? 勇者のヤツ、なんでオレをこんなところに呼び出したんだ? あいつはバカなのか? いや、待てよ。勇者にハメられたって可能性もある。
「今度こそ、仕留めてあげますよ」
と、ゴルドは服を破って、人狼の姿になって見せた。月明かりもとどかぬ暗闇のなかに、人狼の巨大な影が浮かび上がった。
やはり――人狼なのだ。
「ま、待て待て待て、話をしようじゃないか。な? 落ちつこうぜ」
「話?」
「オレは、お前に襲われるいわれはない。そうだろう? 襲うなら別のヤツにしてくれ」
1人で来てくれと勇者に言われているせいで、言葉通りひとりで来てしまった。これでは強化術が使えない。誰でも良いから、連れてくるべきだった。
いや。反省するならそもそも、裏路地にノコノコとやって来たのが間違いだ。
「あなたは、目障りなんですよ」
と、ゴルドが1歩詰め寄ってきた。
獰猛なキバの生えそろった口。その奥から、オドロオドロしいケムリのような息を吐きだしていた。
「目障り? オレが何かしたのかよ」
「君は、勇者から好かれている」
ゴルドはその長い爪を、オレに向けて言った。
「はぁ?」
「オレが結婚を申し込んだのに、彼女はそれを承諾しない」
「なに? 結婚するから冒険者を辞めるとか聞いてるが」
「ただのウワサでしょう。オレからの告白を彼女は断りましたよ。キッパリとね」
「あ、そうなんだ。まぁ、ダンナが人狼ってのはこれからの人生、苦労することも多いだろうし。賢明な判断なんじゃないかな」
結婚というのは、ただのウワサだったのだ。
それを知って、胸の蟠りがアッサリと溶けていった。どうしてそんな気分になるのか、オレ自身にも不可解だった。
「どうして彼女は、オレからの告白を断ったと思いますか?」
「さあ。それは勇者にしか、わからないんじゃないかな」
「勇者は君のことが好きだからですよ」
「は?」
「だから君が邪魔なんです。殺してしまおうと思いましてね」
さらに大きく1歩詰め寄ってきた。
オレはそれに合わせて、後ろに下がる。
「いや、待て待て! 勘違いだ。そりゃないだろ。勇者がオレのことを好きなわけないだろ。勇者が言ったのかよ? オレのことが好きだから、告白を断るって」
「いえ。ハッキリとは聞いていませんが」
ゴルドから逡巡が見受けられた。
チャンスだ。
説得することが出来るかもしれない。
「聞いてないんだろ。それは勘違いってもんだ。告白を断られたのは、それは君自身の器量の問題だろう。とにかくアシメの髪型がいけない。それはさすがにキザってもんだ。あとしゃべり方が気持ち悪いな。君が気持ち悪いってだけで、オレは関係ないよ」
「よっぽど殺されたいみたいですね」
と、どういうわけかゴルドはさらにその殺意を増幅させたようだ。
「いや。待て待て待て! 勇者がオレを好きだからとか、そんな理由で殺すのかよ。いや、まぁ、殺しの動機としては定番かもしらんが、確証がないなら、もう少し確かめてからだな……」
「どちらにせよ、あなたにはオレの素性が知られてしまっているので、口封じのために殺す必要があります」
「あ、そうですか」
じゃあ、勇者関係なくて、オレは殺されるわけだ。
なんだか肩すかしである。
厳密に言うと、オレはべつに捕えられていたわけではなくて、留置段階だったようだ。
どうせならもっと重要危険人物としての扱いを受けてみたかった。そのほうが冒険者としてはハクがつくというものだ。
しかしながら主犯である当のネニは、まだ解き放たれていなかった。ネニが釈放されていないのに、オレだけ許されるというのも釈然といかない話だ。
まぁ、シャバの空気が据えることに不満はない。
夜。
オレは裏路地を歩いていた。
冒険者ギルドの裏手。以前に人狼モードのゴルドに襲われた場所だ。
ここに来るようにと勇者が指定してきたのだ。
話ぐらいは聞いてやらんこともない……と思ったのだが、相変わらず不気味な場所である。日中に来ても薄暗いのに、夜に来てみると、ますます暗闇が濃厚だった。
生ゴミのなかを駆けまわるネズミも、モンスターか何かに見える。
「やあ」
と、背後から声がかかった。
ゴルドである。
キザったらしくアシメに伸ばした髪を、ゴルドは掻き上げて見せた。
その仕草もなんか気にくわない。
だいたい白銀の髪というのが気にくわない。オレもそんな髪色で生まれてきたかったとか、羨ましいとか、ぜんぜんそんなことは思っていない。
ああ、微塵も思っていないとも!
オレはこのイカスミをぶっかけたみたいな黒髪が気に入っているとも!
「誰かと思えば、お前か。オレは君を招いたつもりはないが?」
と、オレはあえてツッケンドンな言い方をした。
「あのときは、えらくビビってたみたいですが、今日はずいぶんと威勢が良いじゃありませんか」 と、ゴルドは薄い笑みを浮かべたままそう言った。
「あのとき?」
「忘れたんですか。ここで会ったときのことを」
「あ……」
待てよ。
これって、ヤバいんじゃね?
ネニが捕まってから、惨殺事件はいちおう起こってはいない。
が、しかし――だ。
惨殺事件の犯人はゴルドであって、オレを襲った人狼もゴルドだと、ネニからは聞いている。
つまり目の前の、この男こそ真犯人なのだ。
っていうか、夜更けにひとりで、こんなところに行くこと事態が危険きわまりないのでは? 勇者のヤツ、なんでオレをこんなところに呼び出したんだ? あいつはバカなのか? いや、待てよ。勇者にハメられたって可能性もある。
「今度こそ、仕留めてあげますよ」
と、ゴルドは服を破って、人狼の姿になって見せた。月明かりもとどかぬ暗闇のなかに、人狼の巨大な影が浮かび上がった。
やはり――人狼なのだ。
「ま、待て待て待て、話をしようじゃないか。な? 落ちつこうぜ」
「話?」
「オレは、お前に襲われるいわれはない。そうだろう? 襲うなら別のヤツにしてくれ」
1人で来てくれと勇者に言われているせいで、言葉通りひとりで来てしまった。これでは強化術が使えない。誰でも良いから、連れてくるべきだった。
いや。反省するならそもそも、裏路地にノコノコとやって来たのが間違いだ。
「あなたは、目障りなんですよ」
と、ゴルドが1歩詰め寄ってきた。
獰猛なキバの生えそろった口。その奥から、オドロオドロしいケムリのような息を吐きだしていた。
「目障り? オレが何かしたのかよ」
「君は、勇者から好かれている」
ゴルドはその長い爪を、オレに向けて言った。
「はぁ?」
「オレが結婚を申し込んだのに、彼女はそれを承諾しない」
「なに? 結婚するから冒険者を辞めるとか聞いてるが」
「ただのウワサでしょう。オレからの告白を彼女は断りましたよ。キッパリとね」
「あ、そうなんだ。まぁ、ダンナが人狼ってのはこれからの人生、苦労することも多いだろうし。賢明な判断なんじゃないかな」
結婚というのは、ただのウワサだったのだ。
それを知って、胸の蟠りがアッサリと溶けていった。どうしてそんな気分になるのか、オレ自身にも不可解だった。
「どうして彼女は、オレからの告白を断ったと思いますか?」
「さあ。それは勇者にしか、わからないんじゃないかな」
「勇者は君のことが好きだからですよ」
「は?」
「だから君が邪魔なんです。殺してしまおうと思いましてね」
さらに大きく1歩詰め寄ってきた。
オレはそれに合わせて、後ろに下がる。
「いや、待て待て! 勘違いだ。そりゃないだろ。勇者がオレのことを好きなわけないだろ。勇者が言ったのかよ? オレのことが好きだから、告白を断るって」
「いえ。ハッキリとは聞いていませんが」
ゴルドから逡巡が見受けられた。
チャンスだ。
説得することが出来るかもしれない。
「聞いてないんだろ。それは勘違いってもんだ。告白を断られたのは、それは君自身の器量の問題だろう。とにかくアシメの髪型がいけない。それはさすがにキザってもんだ。あとしゃべり方が気持ち悪いな。君が気持ち悪いってだけで、オレは関係ないよ」
「よっぽど殺されたいみたいですね」
と、どういうわけかゴルドはさらにその殺意を増幅させたようだ。
「いや。待て待て待て! 勇者がオレを好きだからとか、そんな理由で殺すのかよ。いや、まぁ、殺しの動機としては定番かもしらんが、確証がないなら、もう少し確かめてからだな……」
「どちらにせよ、あなたにはオレの素性が知られてしまっているので、口封じのために殺す必要があります」
「あ、そうですか」
じゃあ、勇者関係なくて、オレは殺されるわけだ。
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