《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
9-3.そういうことは、先に言っておけよ!
「お前、私のことビビりすぎだろッ」
人狼の姿のままネニはそう言った。
ネニの餌になるのではないかと危ぶまれたのだが、幸いにもオレはまだ彼女の夜食にはなっていなかった。
都市スバレイから抜け出して、丘陵の上にいた。
深更のなか、スバレイの中央にて、ダンジョンのそそりたつ姿が見て取れた。月明かりを受けて神々しく見えた。
「ビビるに決まってンだろッ。ネニが人狼だったなんて、これっぽっちも聞いてなかったぞ!」
「あれ? 言ってなかったか?」
「まさか、マグロとデコポンのふたりは知ってたのかよ」
「ああ。知ってるけど?」
「マジかーっ。知らなかったの、オレだけかーっ」
夜な夜な人狼になって活動しているから、日中に眠たくなるというわけだ。納得である。ってか、マグロもデコポンも、オレに教えておけよ。
え? そういうことって、普通あらかじめ教えておくことだよね? そう思うのは、オレだけなんですかね?
「ダッセ」
と、ネニは笑っていた。
「なにがダサいんだッ。聞いてないんだから、知ってるはずないだろ! ってか、いい加減に下ろせッ」
ネニは片手で軽々と、オレのことをカバンみたいに担いでいるのだ。人狼だからこそ出来ることなのだろう。
「あ、悪りぃ」
と、素直におろしてくれた。
人狼に変身しているネニは、普段より図体が大きくなっている。普段はマグロよりすこし小さめで、デコポンよりかは大きめ。だけど今は、オレよりでかい。
「ほかにも黙ってることあるんじゃないだろうな。マグロが実は、怪獣だとかそんなことないだろうな?」
「いや。そりゃねェだろ。あれは人間だぜ」
あの食欲から察するに、人間ではないだろうと予測したのだが、そういうわけではないらしい。
「奇妙なパーティだな。ひとりはハーフエルフで、ひとりは人狼だとはな」
「ひとりは変態だしな」
と、ネニはその凶悪な爪をオレに向けて、カラカラと笑った。
「オレは聖人君子であって、変態なんかでは断じてない。ってか、その爪をこっちに向けるな! ミスったら穴が開くぞ」
「すまん、すまん」
「尋ねたいことが、いろいろとある」
「なんだ」
「昨日の昼に、オレのことを襲おうとしたのは、どういう了見だ。ウンコに行ってたんじゃないのかよ」
冒険者ギルドの裏路地で、オレは死にかけているのだ。
すると急にネニは神妙な表情になった。顔が狼だから、表情がわかりにくい。何となくそう見えた、というだけだ。
よくよく見てみると、白銀色の目元なんだかは、人であるときのネニの面影がある。
「あれは、私じゃねェーよ」
と、ネニは空気をはたくような所作をとってみせた。
だからその手を振り回すなと言っているのだが、何度言えばわかるのか。あやうく大出血に陥るところだ。
「はぁ? どう見ても、オレを襲ったのは人狼だったが?」
「違うって。もう1匹いやがるんだ」
「人狼が2人も! まさかマグロか!」
「あれは人間だ、つってんだろ」
「じゃあ、誰だよ」
「この都市スバレイで惨殺事件を起こしたり、てめェのことを襲おうとしたのは、私じゃねェーよ。私はなんもしてねェ」
「ホントだろうな?」
「仲間を信用できねェのかい?」
と、ネニは白銀の双眸をオレに向けてきた。
8割ぐらい信用できないのだが、それを口にした瞬間、ぶち殺されそうだ。
「勇者パーティを襲ったのは、どういうことなんだ?」
「だからよ。もう1匹の人狼が、あのパーティにいやがるんだよ」
「勇者パーティに人狼が?」
「私と同じ髪色をしてるヤツがいるだろ」
と、ネニはみずからの毛をつまんで見せた。月明かりを受けて、毛並が白銀色に輝いている。
「ゴルドか!」
「あの男が、ナナシィのことを襲おうとした人狼だ。人狼騒ぎが大きくなると、こっちまで火の粉が来るかもしれねェからな。私が仕留めようとしたわけだが、しくじった」
「ゴルドが惨殺事件の犯人ってわけか」
「そういうこと」
「しかし、なぜ、あの男がオレを襲う?」
「さあな。個人的に因縁があったのかもしれねェし、暴力衝動がおさえきれなかったのかもな」
「暴力衝動?」
「人狼ってのは、制御がむずかしいんだよ。殺人欲求に駆られちまうんだ」
とネニはその長い爪で、首のあたりを掻いていた。
「こ、怖いこと言うなよ!」
シリモチをついた。
その殺人欲求に駆られるとかいうバケモノが、目の前にいるのだ。
「キャハハッ。怖がり過ぎだっつーの。私はそんなに甘っちょろい人狼じゃねェよ。ちゃんと制御できてる」
「こ、怖がってねェーしッ。チョット座りたくなっただけだし」
と、あわてて立ち上がった。
あのゴルドという男は、気にくわないヤツだと思っていた。ネニの言葉が真実かどうかは定かではないが、ここは信用するべきだ。
仮に、ゴルドが犯人でなくとも、濡れ衣を着せて牢屋にブチ込んでやろう。ふはは。オレの後釜に居座って、大きな顔をするから、そんなことになるのだ。
「なら話は早い。あのゴルドとかいう男が人狼だ、と勇者たちに説明しようじゃないか。そしてとっ捕まえて、冒険者ギルドに引き渡そう」
ゴルドを消せるし、10万ポロムも手に入る。 一石二鳥である。
「そう簡単に、勇者が話を聞いてくれんのかよ」
「聞いてくれるに決まってるだろ。オレはこう見えても、元勇者パーティなんだから」
「でも、追放されてんだろ」
「まぁ、追放されても、信用はされてるんだ。任せろよ。さて、勇者パーティに会いに行くとしますか」
「いや、向こうから来たみたいだぜ」
と、ネニが指さした。
人狼であるネニを追いかけてきたのだろう。勇者たちは馬に乗って、丘陵を駆けていた。こっちから出向く必要もなくなった。
さて。
オレのスバラシイ交渉術をご披露するときが来たようだ。
追放されても結局のところ、オレは勇者から信頼されているということを実証して見せようではないか。
人狼の姿のままネニはそう言った。
ネニの餌になるのではないかと危ぶまれたのだが、幸いにもオレはまだ彼女の夜食にはなっていなかった。
都市スバレイから抜け出して、丘陵の上にいた。
深更のなか、スバレイの中央にて、ダンジョンのそそりたつ姿が見て取れた。月明かりを受けて神々しく見えた。
「ビビるに決まってンだろッ。ネニが人狼だったなんて、これっぽっちも聞いてなかったぞ!」
「あれ? 言ってなかったか?」
「まさか、マグロとデコポンのふたりは知ってたのかよ」
「ああ。知ってるけど?」
「マジかーっ。知らなかったの、オレだけかーっ」
夜な夜な人狼になって活動しているから、日中に眠たくなるというわけだ。納得である。ってか、マグロもデコポンも、オレに教えておけよ。
え? そういうことって、普通あらかじめ教えておくことだよね? そう思うのは、オレだけなんですかね?
「ダッセ」
と、ネニは笑っていた。
「なにがダサいんだッ。聞いてないんだから、知ってるはずないだろ! ってか、いい加減に下ろせッ」
ネニは片手で軽々と、オレのことをカバンみたいに担いでいるのだ。人狼だからこそ出来ることなのだろう。
「あ、悪りぃ」
と、素直におろしてくれた。
人狼に変身しているネニは、普段より図体が大きくなっている。普段はマグロよりすこし小さめで、デコポンよりかは大きめ。だけど今は、オレよりでかい。
「ほかにも黙ってることあるんじゃないだろうな。マグロが実は、怪獣だとかそんなことないだろうな?」
「いや。そりゃねェだろ。あれは人間だぜ」
あの食欲から察するに、人間ではないだろうと予測したのだが、そういうわけではないらしい。
「奇妙なパーティだな。ひとりはハーフエルフで、ひとりは人狼だとはな」
「ひとりは変態だしな」
と、ネニはその凶悪な爪をオレに向けて、カラカラと笑った。
「オレは聖人君子であって、変態なんかでは断じてない。ってか、その爪をこっちに向けるな! ミスったら穴が開くぞ」
「すまん、すまん」
「尋ねたいことが、いろいろとある」
「なんだ」
「昨日の昼に、オレのことを襲おうとしたのは、どういう了見だ。ウンコに行ってたんじゃないのかよ」
冒険者ギルドの裏路地で、オレは死にかけているのだ。
すると急にネニは神妙な表情になった。顔が狼だから、表情がわかりにくい。何となくそう見えた、というだけだ。
よくよく見てみると、白銀色の目元なんだかは、人であるときのネニの面影がある。
「あれは、私じゃねェーよ」
と、ネニは空気をはたくような所作をとってみせた。
だからその手を振り回すなと言っているのだが、何度言えばわかるのか。あやうく大出血に陥るところだ。
「はぁ? どう見ても、オレを襲ったのは人狼だったが?」
「違うって。もう1匹いやがるんだ」
「人狼が2人も! まさかマグロか!」
「あれは人間だ、つってんだろ」
「じゃあ、誰だよ」
「この都市スバレイで惨殺事件を起こしたり、てめェのことを襲おうとしたのは、私じゃねェーよ。私はなんもしてねェ」
「ホントだろうな?」
「仲間を信用できねェのかい?」
と、ネニは白銀の双眸をオレに向けてきた。
8割ぐらい信用できないのだが、それを口にした瞬間、ぶち殺されそうだ。
「勇者パーティを襲ったのは、どういうことなんだ?」
「だからよ。もう1匹の人狼が、あのパーティにいやがるんだよ」
「勇者パーティに人狼が?」
「私と同じ髪色をしてるヤツがいるだろ」
と、ネニはみずからの毛をつまんで見せた。月明かりを受けて、毛並が白銀色に輝いている。
「ゴルドか!」
「あの男が、ナナシィのことを襲おうとした人狼だ。人狼騒ぎが大きくなると、こっちまで火の粉が来るかもしれねェからな。私が仕留めようとしたわけだが、しくじった」
「ゴルドが惨殺事件の犯人ってわけか」
「そういうこと」
「しかし、なぜ、あの男がオレを襲う?」
「さあな。個人的に因縁があったのかもしれねェし、暴力衝動がおさえきれなかったのかもな」
「暴力衝動?」
「人狼ってのは、制御がむずかしいんだよ。殺人欲求に駆られちまうんだ」
とネニはその長い爪で、首のあたりを掻いていた。
「こ、怖いこと言うなよ!」
シリモチをついた。
その殺人欲求に駆られるとかいうバケモノが、目の前にいるのだ。
「キャハハッ。怖がり過ぎだっつーの。私はそんなに甘っちょろい人狼じゃねェよ。ちゃんと制御できてる」
「こ、怖がってねェーしッ。チョット座りたくなっただけだし」
と、あわてて立ち上がった。
あのゴルドという男は、気にくわないヤツだと思っていた。ネニの言葉が真実かどうかは定かではないが、ここは信用するべきだ。
仮に、ゴルドが犯人でなくとも、濡れ衣を着せて牢屋にブチ込んでやろう。ふはは。オレの後釜に居座って、大きな顔をするから、そんなことになるのだ。
「なら話は早い。あのゴルドとかいう男が人狼だ、と勇者たちに説明しようじゃないか。そしてとっ捕まえて、冒険者ギルドに引き渡そう」
ゴルドを消せるし、10万ポロムも手に入る。 一石二鳥である。
「そう簡単に、勇者が話を聞いてくれんのかよ」
「聞いてくれるに決まってるだろ。オレはこう見えても、元勇者パーティなんだから」
「でも、追放されてんだろ」
「まぁ、追放されても、信用はされてるんだ。任せろよ。さて、勇者パーティに会いに行くとしますか」
「いや、向こうから来たみたいだぜ」
と、ネニが指さした。
人狼であるネニを追いかけてきたのだろう。勇者たちは馬に乗って、丘陵を駆けていた。こっちから出向く必要もなくなった。
さて。
オレのスバラシイ交渉術をご披露するときが来たようだ。
追放されても結局のところ、オレは勇者から信頼されているということを実証して見せようではないか。
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