《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

3-2.強化術にはデメリットがあるんです?

 マグロはひたすらスライムを倒して、たちまち1000ポロム相当の粘液を集めることが出来た。


 自分が働きたくないので、他人に働いてもらおうという、オレの思惑通りに動いてくれた。


「そう言えば、ナナシィはどうして勇者パーティから離脱したのです?」


 床に散らばっている粘液を採取しながら、マグロがそう尋ねてきた。


「急に、オレのトラウマをえぐって来るな」


「言いたくないのなら、ムリして言わなくても構いませんよ。これから何度も質問するとは思いますが」


「質問はするのかよ!」


「気になりますから」


「オレもマグロと同じだよ。パーティから追放されたんだ。強化術師ってのは、自分じゃモンスターの討伐記録を伸ばせないからな。役立たずってことで。酷いだろ。オレと勇者は幼馴染なのにさ」


 素直にそう打ち明けることが出来たのは、マグロも同じ境遇だからだろう。


 ――って。
「マグロちゃん。聞いてますかねーっ」


 床に散っているスライムの粘液に回収に熱中しているようだ。


「あ、大丈夫ですよ。続けてください」


 手に付着しているスライムを、ビンに詰めながらそう言った。


「なんか、義務的に聞いてないか? べつに聞きたくないんなら、オレ言わないよ? 質問してきたのは、マグロだよね?」


「作業しながら聞いたほうが、効率が良いと思いましたので」


「まあ、そうなんだけどね」


 そうなんだけど、もうチョット興味ある感じで聞いて欲しい。なんか感動的な雰囲気になってたのがバカみたいだ。


「それで、ナナシィは追い出されて、どうしたいのですか?」
 と、マグロは作業の手を止めて、オレのほうを見てきた。もしかして気を使わせてしまったのかもしれない。


「もちろん、見返してやりたいさ。いまごろオレのいないパーティは、壊滅状態に違いない。あとで泣きついてきても、今さら戻ってきてくれと言われても、もう遅い――と言ってやるわけだ」


「へえ」


「マグロちゃんも、似たようなもんだろ。あのコケコッコー野郎を見返してやりたいんだろ」


「いえ。マグロはそうは思いません」


「じゃあ、どうしたいんだ?」


 マグロはうつむくと、なんだか寂しそうに笑った。


「《羽毛より羊毛》パーティにいるのは、みんなマグロの幼馴染です。友人であり、家族のようなものです」


「でも、追い出されたんだろ」


 オレだって、勇者とは幼馴染だ。


「はい。ですから、追いつきたいのです。マグロだけ置いてきぼりにされたくなくて、もう一度、みんなと一緒になれたらいいな――って」


「戻りたいのか。《羽毛より羊毛》パーティに」


「はい。もう一度、仲間だって認めて欲しいのです。ですからマグロは置いて行かれないようにガンバるのです」


「そっか」


 なんだかザマァを狙っているオレが、腹黒いヤツみたいになって、チョット厭だ。


 健気にスライムの粘液を回収しているマグロを見つめた。


 刹那。


「逃げろォ」
 という声が聞こえてきた。


 正面から、逃げて来る一団がいた。先頭を走っているのは、ニワトリ男である。


 ニワトリ男たちの後ろには、巨大なスケルトンがいた。
 あれはスケルトン・デスロードと呼ばれるモンスターだ。スケルトン・ナイトよりもはるかに強力なモンスターだ。


 初心者の塔でも奥地に入れば、ああいった強力なのが出てくる。


「げッ。厄介なヤツが来やがったぜ。逃げるぞ。マグロ」


「あ、すこし待ってください。まだ粘液の回収が終わってません」


「それぐらいで良い。逃げるのが先決だ」


 マグロはあわてたのか、立ち上がるさいにビンを落としていた。セッカク集めていたスライムの粘液がコボれ落ちた。


 スケルトン・デスロードが接近してくる。


 ニワトリ男が叫んだ。
「なにしてやがるんだ。このノロマッ」
 ニワトリ男はそう言うと、剣を抜いて、マグロを守るようにして、スケルトン・デスロードの前に立ちはだかった。


 しかし軽く払い飛ばされていた。ニワトリ男は壁に背中を打ちつけていた。
 デスロードは、その手の平だけで、人をつかめるほどの大きさがあるのだ。


「マグロ。動けるか?」


 オレは倒れているマグロを立ち上がらせた。


「はい。ですが、コケコルが」


 あのニワトリ男。コケコルというのか。はじめて知った。


「オレが強化術でマグロを強化する。あのスケルトン・デスロードは、マグロが倒すんだ」


「マグロが?」


 不安そうな顔で、オレを見てきた。


「心配するな。ただ思ったよりに剣を振れば良い」


「しかしスケルトン・デスロードは、C級相当のモンスターでありますよ」


「ならオレはそれ以上だ。あのニワトリ男の前で見せてやれよ。自分が役立たずなんかじゃないってところを。置いて行かれたくないんだろ」


「……わかりました」
 と、マグロは意を決したように、うなずいた。


「お見せしよう。強化術エンハンスの神髄を」


 獰猛なる精神。破壊の筋力。金剛鎧。聖女の祝福。神々の抱擁。駿馬の馬蹄。死神の接吻……あらゆる強化術をマグロに付与した。魔法陣がマグロのカラダに刻まれてゆく。


「うおおぉぉッ」
 と、マグロが吠えた。


 スケルトン・デスロードが、マグロのカラダをつかもうと手を伸ばした。マグロは姿をくらまして、それをかわした。


 瞬間移動するかのように、マグロは姿を消す。そして明滅するかのように姿を現す。現れたマグロにつかみかかろうとしても、同じことの繰り返しだ。


 マグロは跳躍した。スケルトン・デスロードの頭蓋骨の位置にまで跳んでいた。剣を大上段に構えている。


 スケルトン・デスロードは口を開けた。口先にて魔法陣が展開される。火球ファイア・ボールが射出された。マグロに直撃する。が、強化されたマグロは、その程度の魔法など受け付けない。


「行け。そのまま振り下ろせ」


「せやぁぁぁッ」
 と、大剣が振り下ろされた。


 スケルトン・デスロードは危機感をおぼえたのだろう。両手を交差させるようにして頭部を守っていた。


 が。
 無意味。
 一閃。


 その手ごと、一刀両断にしていた。
 スケルトン・デスロードのカラダが砕け散って、魔結晶をあふれさせた。


「ふーっ」
 と、マグロはそのクチから、獣のごとき白いケムリを吐きだした。


「見事だ」


「これほどの強化術……なんてチカラ……」
 とマグロは自分手のひらを見つめて、それからオレのほうに視線を向けてきた。


「あ、言うの忘れてたけど、あんまりムリして動き過ぎたら、筋肉痛になるからね」


「え? あ、痛たたたっ」
 と、マグロもその場に倒れていた。

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