《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
3-1.扱えない剣なんて、売ってしまえば?
「って、いねぇぇ――ッ」
《炊き立て新米》パーティは、マグロのほかに、ネミとデコポンという少女がいたはずである。
初心者の塔に到着したころには、オレとマグロの2人しかいなかった。
「最初からいませんでしたが?」
と、マグレがしれっとした顔で言う。
「え? なに? オレは幻覚でも見ていたの? そんなヤバい薬を使った覚えはないんだけども」
「そうではなくて、宿を出たときから、ふたりは付いて来ていませんよ」
言われてみれば、たしかに付いて来ている気配はなかった。パーティってみんなで行動するのが当たり前だと思っていたから、見落としていたのかもしれない。
「なんで来てないんだ?」
「ネニはずっと眠っていますし、デコポンは極度の怖がりなのです。ですので、ダンジョンに行くのはたいていマグロだけです」
「君も苦労してるんだな」
「いえ。それほどでも」
来ていないのなら仕方がない。いまから呼びに戻っていては、あのニワトリ男との勝負にも負けてしまう。
ダンジョン。入口には穴が開いている。無理やり開けた穴は、自動的に塞がってしまうが、最初から開いている場所は、ずっと開いたままだ。
中に入ると、冷たい空気に満ちている。寒いとかじゃなくて、なんかゾワッするような冷気に満ちているのだ。
「ダンジョンとは、いったいなんなのでしょうか?」
と、マグロが尋ねてきた。
「この星の臓器だよ」
「臓器? 心臓とかですか」
「まぁ、そういうことだね。このハロウという星の中心には、大量の魔力が眠ってるらしい。その魔力が内部にとどめきれずに噴出するさいに、こうやって塔がキノコみたいに生えてくるんだってさ」
これでも元勇者パーティである。
ダンジョンの構造とかには詳しいのだ。
「では、どうしてモンスターが出てくるのですか?」
「ダンジョンっていうのは、吹き出した魔力のカタマリなんだよ。その魔力がモンスターという存在をつくりだすんだ。侵入者を倒すためにね。お日さまを浴びたり、雨が降ったりして、魔力は回復するらしいから、それでモンスターは無限に出てくるわけ」
そのモンスターから、魔結晶やら素材が入手できるので、人はそれに依存して生活している。
「博識なのですね」
「そうそう。オレは強化術師としてだけじゃなくて、知識も豊富なんだ。ようやっとオレのスゴさを理解してきたようだな」
オレは君たちより先輩なんだよ、ってところを見せつけておかなければならない。遠くない未来、オレのことをナナシさまと崇めることになるだろう。
「まぁ、それぐらいのこと冒険者なら、みんな知っていると思いますけどね」
「はぁぁッ? 今、ダンジョンって何か聞いてきたよなァ? オレに知識を求めてきたよなァッ」
「いえ。ただチャント知っているのか確認しておこうかと思いまして」
「そういうことしちゃうわけ? マグロちゃんは、そんな人を試すようなこと、しちゃうわけですかーっ」
「はい」
アッサリと肯定しやがった。
どうもオレは、ナめられている気がする。オレの有能さが、いまひとつ理解できていないようだ。
スカートをめくって、泣かせてやろうかと企んだのだが、いかんせん、マグロはスカートの内側にズボンをはいている。ただのズボンではなくて、ちゃんと革の防具として機能するものである。
これではスカートめくりも、威力が半減である。
もっとも、女性のスカートをめくるような度胸などオレには持ち合わせていないので、妄想に過ぎないのだけれど。
「あ、出てきたぜ」
壁。石材の隙間から滲み出すようにして、青スライムが出てきた。
「うおりゃぁぁッ」
と、マグロは大剣を振り上げて、スライムに振り下ろした。なかなか様になっている。
スライムのカラダが弾けとんだ。
ビンに詰めて回収した。
ビンや縄やダガーナイフなどは、冒険者の必須アイテムとして常備している。
「お、あっちにももう1匹」
「ナナシィもすこしは働いてください」
「いや。オレは強化術師だから、自分じゃ倒せないんだって。まぁ、スライムぐらいなら倒せないこともないが」
「マグロはもう疲れました」
と、マグロはその場に座り込んだ。
「え? なに言ってんの? まだ1匹じゃないか」
「この大剣はやたらと重いので、一日にそう何度も振れるものではありません」
「なんつぅ、燃費の悪さをしてやがるんだ! あれだけ食っておいて、剣を振れるのが1日1回なのかよ!」
「1回とは言ってません。数回です」
「いや。まだ1回目だよなァ。まだ1回して振ってるところ見てないんですがァ。スライムを倒したの1匹目なんですがッ」
「そういう日もあります」
「親の形見かなんだか知らないが、そんな扱えない剣は売っちまえッ。もっと身の丈にあった剣を使え!」
「親の形見を売れだなんて、ナナシィはとても薄情なのです」
と、真っ赤な瞳に、涙を浮かべて見上げてくる。
「うっ」
さすがに言い過ぎたか。
「うわぁ。DVパーティだよ」「最悪ね。女に働かせててるヒモ男よ」「あんな冒険者になってはいけないわ」……と、別に冒険者たちの囁き声が痛い。
「わかった。わかった。オレが悪かった」
「へっ」
「今、なんかメッチャ悪い笑い方してませんでしたか?」
「気のせいだとマグロは思います」
「まぁ良い。体力がないなら、オレが強化術で体力をあげてやるから、スライムを狩りつくしてくれ。あのニワトリ男に負けたくないんだろ」
「そうでした」
と、すくっと立ち上がった。
なんだかもう少し動けそうなご様子だが、どうせそのうち疲れ果てることは目に見えている。
「悪魔の心臓」
オレは持っていた木の杖で床をたたいた。手のひらサイズの魔法陣が浮かび上がった。マグロの手の甲に刻まれる。
「おおっ」
「どうだ? 疲れが吹き飛んだだろ」
「すばらしいドーピングです」
「ドーピングって言うな。強化術だ」
マグロの動きが勢い良くなった。出てくるスライムをなぎ倒していった。
《炊き立て新米》パーティは、マグロのほかに、ネミとデコポンという少女がいたはずである。
初心者の塔に到着したころには、オレとマグロの2人しかいなかった。
「最初からいませんでしたが?」
と、マグレがしれっとした顔で言う。
「え? なに? オレは幻覚でも見ていたの? そんなヤバい薬を使った覚えはないんだけども」
「そうではなくて、宿を出たときから、ふたりは付いて来ていませんよ」
言われてみれば、たしかに付いて来ている気配はなかった。パーティってみんなで行動するのが当たり前だと思っていたから、見落としていたのかもしれない。
「なんで来てないんだ?」
「ネニはずっと眠っていますし、デコポンは極度の怖がりなのです。ですので、ダンジョンに行くのはたいていマグロだけです」
「君も苦労してるんだな」
「いえ。それほどでも」
来ていないのなら仕方がない。いまから呼びに戻っていては、あのニワトリ男との勝負にも負けてしまう。
ダンジョン。入口には穴が開いている。無理やり開けた穴は、自動的に塞がってしまうが、最初から開いている場所は、ずっと開いたままだ。
中に入ると、冷たい空気に満ちている。寒いとかじゃなくて、なんかゾワッするような冷気に満ちているのだ。
「ダンジョンとは、いったいなんなのでしょうか?」
と、マグロが尋ねてきた。
「この星の臓器だよ」
「臓器? 心臓とかですか」
「まぁ、そういうことだね。このハロウという星の中心には、大量の魔力が眠ってるらしい。その魔力が内部にとどめきれずに噴出するさいに、こうやって塔がキノコみたいに生えてくるんだってさ」
これでも元勇者パーティである。
ダンジョンの構造とかには詳しいのだ。
「では、どうしてモンスターが出てくるのですか?」
「ダンジョンっていうのは、吹き出した魔力のカタマリなんだよ。その魔力がモンスターという存在をつくりだすんだ。侵入者を倒すためにね。お日さまを浴びたり、雨が降ったりして、魔力は回復するらしいから、それでモンスターは無限に出てくるわけ」
そのモンスターから、魔結晶やら素材が入手できるので、人はそれに依存して生活している。
「博識なのですね」
「そうそう。オレは強化術師としてだけじゃなくて、知識も豊富なんだ。ようやっとオレのスゴさを理解してきたようだな」
オレは君たちより先輩なんだよ、ってところを見せつけておかなければならない。遠くない未来、オレのことをナナシさまと崇めることになるだろう。
「まぁ、それぐらいのこと冒険者なら、みんな知っていると思いますけどね」
「はぁぁッ? 今、ダンジョンって何か聞いてきたよなァ? オレに知識を求めてきたよなァッ」
「いえ。ただチャント知っているのか確認しておこうかと思いまして」
「そういうことしちゃうわけ? マグロちゃんは、そんな人を試すようなこと、しちゃうわけですかーっ」
「はい」
アッサリと肯定しやがった。
どうもオレは、ナめられている気がする。オレの有能さが、いまひとつ理解できていないようだ。
スカートをめくって、泣かせてやろうかと企んだのだが、いかんせん、マグロはスカートの内側にズボンをはいている。ただのズボンではなくて、ちゃんと革の防具として機能するものである。
これではスカートめくりも、威力が半減である。
もっとも、女性のスカートをめくるような度胸などオレには持ち合わせていないので、妄想に過ぎないのだけれど。
「あ、出てきたぜ」
壁。石材の隙間から滲み出すようにして、青スライムが出てきた。
「うおりゃぁぁッ」
と、マグロは大剣を振り上げて、スライムに振り下ろした。なかなか様になっている。
スライムのカラダが弾けとんだ。
ビンに詰めて回収した。
ビンや縄やダガーナイフなどは、冒険者の必須アイテムとして常備している。
「お、あっちにももう1匹」
「ナナシィもすこしは働いてください」
「いや。オレは強化術師だから、自分じゃ倒せないんだって。まぁ、スライムぐらいなら倒せないこともないが」
「マグロはもう疲れました」
と、マグロはその場に座り込んだ。
「え? なに言ってんの? まだ1匹じゃないか」
「この大剣はやたらと重いので、一日にそう何度も振れるものではありません」
「なんつぅ、燃費の悪さをしてやがるんだ! あれだけ食っておいて、剣を振れるのが1日1回なのかよ!」
「1回とは言ってません。数回です」
「いや。まだ1回目だよなァ。まだ1回して振ってるところ見てないんですがァ。スライムを倒したの1匹目なんですがッ」
「そういう日もあります」
「親の形見かなんだか知らないが、そんな扱えない剣は売っちまえッ。もっと身の丈にあった剣を使え!」
「親の形見を売れだなんて、ナナシィはとても薄情なのです」
と、真っ赤な瞳に、涙を浮かべて見上げてくる。
「うっ」
さすがに言い過ぎたか。
「うわぁ。DVパーティだよ」「最悪ね。女に働かせててるヒモ男よ」「あんな冒険者になってはいけないわ」……と、別に冒険者たちの囁き声が痛い。
「わかった。わかった。オレが悪かった」
「へっ」
「今、なんかメッチャ悪い笑い方してませんでしたか?」
「気のせいだとマグロは思います」
「まぁ良い。体力がないなら、オレが強化術で体力をあげてやるから、スライムを狩りつくしてくれ。あのニワトリ男に負けたくないんだろ」
「そうでした」
と、すくっと立ち上がった。
なんだかもう少し動けそうなご様子だが、どうせそのうち疲れ果てることは目に見えている。
「悪魔の心臓」
オレは持っていた木の杖で床をたたいた。手のひらサイズの魔法陣が浮かび上がった。マグロの手の甲に刻まれる。
「おおっ」
「どうだ? 疲れが吹き飛んだだろ」
「すばらしいドーピングです」
「ドーピングって言うな。強化術だ」
マグロの動きが勢い良くなった。出てくるスライムをなぎ倒していった。
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