《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

3-1.扱えない剣なんて、売ってしまえば?

「って、いねぇぇ――ッ」


《炊き立て新米》パーティは、マグロのほかに、ネミとデコポンという少女がいたはずである。


 初心者の塔に到着したころには、オレとマグロの2人しかいなかった。


「最初からいませんでしたが?」
 と、マグレがしれっとした顔で言う。


「え? なに? オレは幻覚でも見ていたの? そんなヤバい薬を使った覚えはないんだけども」


「そうではなくて、宿を出たときから、ふたりは付いて来ていませんよ」


 言われてみれば、たしかに付いて来ている気配はなかった。パーティってみんなで行動するのが当たり前だと思っていたから、見落としていたのかもしれない。


「なんで来てないんだ?」


「ネニはずっと眠っていますし、デコポンは極度の怖がりなのです。ですので、ダンジョンに行くのはたいていマグロだけです」


「君も苦労してるんだな」


「いえ。それほどでも」


 来ていないのなら仕方がない。いまから呼びに戻っていては、あのニワトリ男との勝負にも負けてしまう。


 ダンジョン。入口には穴が開いている。無理やり開けた穴は、自動的に塞がってしまうが、最初から開いている場所は、ずっと開いたままだ。


 中に入ると、冷たい空気に満ちている。寒いとかじゃなくて、なんかゾワッするような冷気に満ちているのだ。


「ダンジョンとは、いったいなんなのでしょうか?」
 と、マグロが尋ねてきた。


「この星の臓器だよ」


「臓器? 心臓とかですか」


「まぁ、そういうことだね。このハロウという星の中心には、大量の魔力が眠ってるらしい。その魔力が内部にとどめきれずに噴出するさいに、こうやって塔がキノコみたいに生えてくるんだってさ」


 これでも元勇者パーティである。
 ダンジョンの構造とかには詳しいのだ。


「では、どうしてモンスターが出てくるのですか?」


「ダンジョンっていうのは、吹き出した魔力のカタマリなんだよ。その魔力がモンスターという存在をつくりだすんだ。侵入者を倒すためにね。お日さまを浴びたり、雨が降ったりして、魔力は回復するらしいから、それでモンスターは無限に出てくるわけ」


 そのモンスターから、魔結晶やら素材が入手できるので、人はそれに依存して生活している。


「博識なのですね」


「そうそう。オレは強化術師としてだけじゃなくて、知識も豊富なんだ。ようやっとオレのスゴさを理解してきたようだな」


 オレは君たちより先輩なんだよ、ってところを見せつけておかなければならない。遠くない未来、オレのことをナナシさまと崇めることになるだろう。


「まぁ、それぐらいのこと冒険者なら、みんな知っていると思いますけどね」


「はぁぁッ? 今、ダンジョンって何か聞いてきたよなァ? オレに知識を求めてきたよなァッ」


「いえ。ただチャント知っているのか確認しておこうかと思いまして」


「そういうことしちゃうわけ? マグロちゃんは、そんな人を試すようなこと、しちゃうわけですかーっ」


「はい」
 アッサリと肯定しやがった。


 どうもオレは、ナめられている気がする。オレの有能さが、いまひとつ理解できていないようだ。


 スカートをめくって、泣かせてやろうかと企んだのだが、いかんせん、マグロはスカートの内側にズボンをはいている。ただのズボンではなくて、ちゃんと革の防具として機能するものである。
 これではスカートめくりも、威力が半減である。


 もっとも、女性のスカートをめくるような度胸などオレには持ち合わせていないので、妄想に過ぎないのだけれど。


「あ、出てきたぜ」


 壁。石材の隙間から滲み出すようにして、青スライムが出てきた。


「うおりゃぁぁッ」
 と、マグロは大剣を振り上げて、スライムに振り下ろした。なかなか様になっている。


 スライムのカラダが弾けとんだ。
 ビンに詰めて回収した。
 ビンや縄やダガーナイフなどは、冒険者の必須アイテムとして常備している。


「お、あっちにももう1匹」


「ナナシィもすこしは働いてください」


「いや。オレは強化術師だから、自分じゃ倒せないんだって。まぁ、スライムぐらいなら倒せないこともないが」


「マグロはもう疲れました」
 と、マグロはその場に座り込んだ。


「え? なに言ってんの? まだ1匹じゃないか」


「この大剣はやたらと重いので、一日にそう何度も振れるものではありません」


「なんつぅ、燃費の悪さをしてやがるんだ! あれだけ食っておいて、剣を振れるのが1日1回なのかよ!」


「1回とは言ってません。数回です」


「いや。まだ1回目だよなァ。まだ1回して振ってるところ見てないんですがァ。スライムを倒したの1匹目なんですがッ」


「そういう日もあります」


「親の形見かなんだか知らないが、そんな扱えない剣は売っちまえッ。もっと身の丈にあった剣を使え!」


「親の形見を売れだなんて、ナナシィはとても薄情なのです」
 と、真っ赤な瞳に、涙を浮かべて見上げてくる。


「うっ」


 さすがに言い過ぎたか。


「うわぁ。DVパーティだよ」「最悪ね。女に働かせててるヒモ男よ」「あんな冒険者になってはいけないわ」……と、別に冒険者たちの囁き声が痛い。


「わかった。わかった。オレが悪かった」


「へっ」


「今、なんかメッチャ悪い笑い方してませんでしたか?」


「気のせいだとマグロは思います」


「まぁ良い。体力がないなら、オレが強化術で体力をあげてやるから、スライムを狩りつくしてくれ。あのニワトリ男に負けたくないんだろ」


「そうでした」
 と、すくっと立ち上がった。


 なんだかもう少し動けそうなご様子だが、どうせそのうち疲れ果てることは目に見えている。


「悪魔の心臓」


 オレは持っていた木の杖で床をたたいた。手のひらサイズの魔法陣が浮かび上がった。マグロの手の甲に刻まれる。


「おおっ」


「どうだ? 疲れが吹き飛んだだろ」


「すばらしいドーピングです」


「ドーピングって言うな。強化術エンハンスだ」


 マグロの動きが勢い良くなった。出てくるスライムをなぎ倒していった。

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