カッコがつかない。
第25話
ゲームセンターで数機種を遊んだ後は、瑞樹の案内に従い、住宅街の中にある喫茶店へと移動した。
パリのベーカリー風で外観から気品を感じる喫茶店は、ガラスドア越しに見ても店内にお客さんが多い。ふと瑞樹の横顔を覗くと憂いを帯びている。連れてきて入ろうとしたら、混雑していて待たせることになるのだ。それなりに居た堪れない感情を抱くだろう。
「良いとこだね。待ってでも、入ろっか」
俺はそう声をかけ、ガラスドアを開いた。店内に入ると、ちりんと鈴が鳴るような音がして、白いシャツに黒エプロンをした店員が近づいてくる。
「いらっしゃいませ、現在テーブル席の方が満席でして、カウンターで宜しければ」
俺たちにそう言って、店員は奥を見た。木製の椅子と机で洒落たカウンター席は、奥の二席だけ空いている。あんまり面と向かって食事するのは少し複雑なものがあるので、カウンターの方が良いのかもしれない。
瑞樹もこくりと頷いたので、空席に向かって歩く。一番奥の席に座ろうとしたが、隣の客が左利きなのを見て、俺は後ろに続く瑞樹が詰まらないように、素早く手前の席に座った。
「そういうとこだよ」
奥の席に着いた瑞樹はテーブルにあったメニューを開き、目を離さないまま嬉しそうにそう零した。
「何が?」
メニューを開き、惚けてみせると、瑞樹は照れたような笑顔を向けてきた。
「ずっと自分の中であれこれ考えてるでしょ? それで、私に気遣ってくれたんでしょ?」
「今だけの気まぐれだよ」
上塗りに惚けると、瑞樹はまた甘えたように笑った。
「前にあった時もだよ、それに今も」
「……バレてた?」
「うん、ずっと。一緒に育ってきたんだからわかるよ」
瑞樹にそう言われて恥ずかしさが、遅れて大きな罪悪感が湧き上がってくる。隠していたつもりだったことが筒抜けになっていたのなら、瑞樹には厚意の押し売りのように感じさせていたのかもしれない。
「ごめん」
「ほらもう、それも。別に将吾に謝らせたいんじゃなくて、私が謝りたいんだから」
その時、グラスに入った水が運ばれてきた。店員が去ると、瑞樹はグラスに唇をつける。水がすっと喉を流れこくりと鳴った。
瑞樹はゆっくりと顔を上げ、真剣な面持ちで口を開く。
「前にあった時はさ、かなり気を使わせちゃったよね? 多分、将吾は突然いなくなった私に会って動揺しちゃったんだと思う」
「いや……」
「だから、ごめん。これも気づいてると思うけど、将吾に引け目があってどう話したらいいかわかんなかったんだ」
瑞樹はバツの悪そうな顔をして「言い訳みたいになっちゃうけど」と小声で話しはじめる。
「当時の私はさ、どうしても引っ越したくなかった。だから、将吾と離れることが怖くて、引越すことを自分から告げて、認めてしまうのが本当に辛かったんだと思う」
瑞樹の言葉で自分が大いなる勘違いをしていた事に気づかされる。
自分が変わろうとしていたことは関係なかった。何をしても、しなくても、瑞樹は変わってしまっていたんだ。
「あの時、言い出せなくてごめん」
瑞樹は謝ってすぐに、自嘲気味に笑った。
「結局私は、きっかけでもないと言い出せない。弱いままの私なんだ」
「それは、違う。瑞樹は変わったよ」
「嘘でしょ。私、そんな変わってないよ」
「いやいや、昔だったら、シューティングゲームなんて絶対にしようとしなかったじゃん?」
それから店員に「ご注文は?」と圧を掛けられるまで、過去の想い出話に花を咲かせた。
パリのベーカリー風で外観から気品を感じる喫茶店は、ガラスドア越しに見ても店内にお客さんが多い。ふと瑞樹の横顔を覗くと憂いを帯びている。連れてきて入ろうとしたら、混雑していて待たせることになるのだ。それなりに居た堪れない感情を抱くだろう。
「良いとこだね。待ってでも、入ろっか」
俺はそう声をかけ、ガラスドアを開いた。店内に入ると、ちりんと鈴が鳴るような音がして、白いシャツに黒エプロンをした店員が近づいてくる。
「いらっしゃいませ、現在テーブル席の方が満席でして、カウンターで宜しければ」
俺たちにそう言って、店員は奥を見た。木製の椅子と机で洒落たカウンター席は、奥の二席だけ空いている。あんまり面と向かって食事するのは少し複雑なものがあるので、カウンターの方が良いのかもしれない。
瑞樹もこくりと頷いたので、空席に向かって歩く。一番奥の席に座ろうとしたが、隣の客が左利きなのを見て、俺は後ろに続く瑞樹が詰まらないように、素早く手前の席に座った。
「そういうとこだよ」
奥の席に着いた瑞樹はテーブルにあったメニューを開き、目を離さないまま嬉しそうにそう零した。
「何が?」
メニューを開き、惚けてみせると、瑞樹は照れたような笑顔を向けてきた。
「ずっと自分の中であれこれ考えてるでしょ? それで、私に気遣ってくれたんでしょ?」
「今だけの気まぐれだよ」
上塗りに惚けると、瑞樹はまた甘えたように笑った。
「前にあった時もだよ、それに今も」
「……バレてた?」
「うん、ずっと。一緒に育ってきたんだからわかるよ」
瑞樹にそう言われて恥ずかしさが、遅れて大きな罪悪感が湧き上がってくる。隠していたつもりだったことが筒抜けになっていたのなら、瑞樹には厚意の押し売りのように感じさせていたのかもしれない。
「ごめん」
「ほらもう、それも。別に将吾に謝らせたいんじゃなくて、私が謝りたいんだから」
その時、グラスに入った水が運ばれてきた。店員が去ると、瑞樹はグラスに唇をつける。水がすっと喉を流れこくりと鳴った。
瑞樹はゆっくりと顔を上げ、真剣な面持ちで口を開く。
「前にあった時はさ、かなり気を使わせちゃったよね? 多分、将吾は突然いなくなった私に会って動揺しちゃったんだと思う」
「いや……」
「だから、ごめん。これも気づいてると思うけど、将吾に引け目があってどう話したらいいかわかんなかったんだ」
瑞樹はバツの悪そうな顔をして「言い訳みたいになっちゃうけど」と小声で話しはじめる。
「当時の私はさ、どうしても引っ越したくなかった。だから、将吾と離れることが怖くて、引越すことを自分から告げて、認めてしまうのが本当に辛かったんだと思う」
瑞樹の言葉で自分が大いなる勘違いをしていた事に気づかされる。
自分が変わろうとしていたことは関係なかった。何をしても、しなくても、瑞樹は変わってしまっていたんだ。
「あの時、言い出せなくてごめん」
瑞樹は謝ってすぐに、自嘲気味に笑った。
「結局私は、きっかけでもないと言い出せない。弱いままの私なんだ」
「それは、違う。瑞樹は変わったよ」
「嘘でしょ。私、そんな変わってないよ」
「いやいや、昔だったら、シューティングゲームなんて絶対にしようとしなかったじゃん?」
それから店員に「ご注文は?」と圧を掛けられるまで、過去の想い出話に花を咲かせた。
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