カッコがつかない。
プロローグ
ある冬の日の記憶。かじかんだ手を赤く染めて、細く冷たい鉄の棒を握っていた。
鈍く光る鉛色の棒は首元にあり、水平に伸びた先は、青いペンキが剥げたポールと直角で繋がっている。
離さないよう手に力をこめて、足を振り上げる。体が地面から離れ、柔らかい風を切り、浮遊感を得る。目まぐるしく変わる景色は止まり、目の前には抜けるような青空が広がった。鳥の気持ちになったのも束の間、見える風景は逆再生し、足に重い衝撃が走る。
腕がだらりと伸び、体がくの字に曲がって、棒を握っている手に圧がかかる。俯いた先には砂埃が立っており、悔しさに唇を噛み締めた。
「また失敗だね」
背中に、枯れた声が届いた。
振り向くと、短髪の女の子が、形の良い桜色の唇を尖らせ、不満をあらわにしている。
「まだ諦めない。逆上がりくらい出来るようになるから待っててくれ」
「なにを意地になってるのよ」
女の子はぷいと顔を背けたのち、赤いランドセルを向けて去っていった。
小さくなりゆく後ろ姿を見て思う。
もう少しだけ待っていてくれ。出来るようになったら、俺から告白するから。
女の子が視界から消えていくと、再び棒を握り直し、思いっきり足を振り上げた。
鈍く光る鉛色の棒は首元にあり、水平に伸びた先は、青いペンキが剥げたポールと直角で繋がっている。
離さないよう手に力をこめて、足を振り上げる。体が地面から離れ、柔らかい風を切り、浮遊感を得る。目まぐるしく変わる景色は止まり、目の前には抜けるような青空が広がった。鳥の気持ちになったのも束の間、見える風景は逆再生し、足に重い衝撃が走る。
腕がだらりと伸び、体がくの字に曲がって、棒を握っている手に圧がかかる。俯いた先には砂埃が立っており、悔しさに唇を噛み締めた。
「また失敗だね」
背中に、枯れた声が届いた。
振り向くと、短髪の女の子が、形の良い桜色の唇を尖らせ、不満をあらわにしている。
「まだ諦めない。逆上がりくらい出来るようになるから待っててくれ」
「なにを意地になってるのよ」
女の子はぷいと顔を背けたのち、赤いランドセルを向けて去っていった。
小さくなりゆく後ろ姿を見て思う。
もう少しだけ待っていてくれ。出来るようになったら、俺から告白するから。
女の子が視界から消えていくと、再び棒を握り直し、思いっきり足を振り上げた。
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