語学留学は突然に

一狩野木曜日

そして誘拐

なぜかというと、理由は沢山あるが、その中の一つに人と接するのが苦手だからというものがあった。
私はプロの世界で上手くやっていけるという自信がなかったのだ。
自分が作った作品が評価されるということは、とても嬉しい事ではあるが、やはりプロになるとなれば、話が変わってくる。
自分の作品を大勢の前で紹介しなければいけなくなるかもしれない。
私は人と接することも好きではないがそれ以上に私は大勢の人に注目を受けるという事が大っ嫌いだ。
かくして、私はプロになるということを諦めた。
後悔は不思議なことに全くもってない。むしろ、この判断が賢明だったと張り切って言える位だ。
私はこのトロフィーから目を背けるように、またうつ伏せに戻った。
視界はピンクで満たされた。
このピンクがまた、全てを忘れさせてくれる。これだから、ピンクは素晴らしいと思えるのだ。
こうして私は、コクコクと眠りについた。


今日も、朝日が立ち昇る中、いつもの通学路を歩いていった。
いたる所の建物は朝日に照らされて、眩い程に光っていた。
そんな建物の明るさ、否、朝日の明るさに目を細めながら足を進めていく。
今は冬なので、通学路の色々な所に枯葉が落ちていた。枯葉は、風が吹く度にカサカサと音を立てながら何処かに向かっていった。
まるで、迷い人のように。
五感で歩いていた私は、後ろから車が来るということにも直ぐに気がついた。
避けよう道端に寄ったのだが、その車は減速してなかなか私を追い抜こうとしない。
それどころか、私の目の前でその車は止まってきたのだ。
何事かと思ってその車を見ていると中から人がでてきた。
その人はやたら、顔の露出が少ない格好をした男であった。不思議に思い私は立ち止まって、その男をじっくり見てみたのだが、知っている人ではなかった。
と、なると誰なのだろうか。
その男はただ、私の方をじっくりと見てくるだけ。
誰なのかと考えていると、最悪の考えが私の頭には浮かんだ。
ちょうどその時!
その男は急に近づいて、私の手を掴んできたのだ。

「きゃあっっ!!」

車からは他の人が2人出てきた。そして、その2人もまた私を抑え込む。
私は必死に足掻いたが、無駄だったようだ。
そのまま私はされるがままに車に乗せられてしまった。
先程浮かんだ最悪のシナリオ。それは、
そう、誘拐だった。
車の中には私の他にドライバーとその他の3人の4人がのっていた。私は相変わらず身動きが取れない状況にさせられていた。
二人がかりで押さえ付けられているのだ。
さらに、私の首元にはナイフが突きつけられていた。
言うまでもなく、脅すためであるだろう。

「おい、いいか?騒ぐんじゃねぇ。騒いだら殺す」

ナイフを持っている1人の男は息切れと共に私にそう言ってきた。
今にも叫びたい位だ。
本当に叫ぶ直前に私の口元にはガムテープがつけられた。それと同時に目隠しもされる。
怖い。怖すぎる。一体、私をさらって何か得でもあるのだろうか。
とにかく、車に乗せられた時点で、私は逃げ出すことが不可能になった。さらに怖いのは、こいつらに命の主導権を握られているという事実だ。
いつ殺されてもおかしくはない。
そんな緊迫した状況に身震いが止まらなくなったのだが、不思議な事に私の記憶は、ここで途絶えてしまった。




                                  第一章           終わり

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