語学留学は突然に

一狩野木曜日

幸運でしたみたい

なんでもいいから言うしかない。

「えーと、刀鍛冶って…鰹節削るのと感覚が同じようなものなのかぁ…って七豆ノ助は思っていました」

あー!!私は何を言っているのだろうか。そんな訳がない。適当に言うならばもう少しマシな適当を言えばよかったのに。
私が頭を抱えて後悔しているとせんせいはこう言ってきた。

「雪さん…正解です!!」

「はい?」

私は一瞬頭の思考のシステムが全停止した。
これが…正解?この、鰹節のあれが?流石に、それは無理がある

「え?嘘ですよね?」

「いえ、本当ですよ。黒板のここの文章をみ
てください。鰹節って書いてあるじゃない ですか」

先生は黒板のある文字を指さす。
私は、そのある文字が読めないから苦戦していたというのだが、実はこの文字、鰹節って書いてあったのか。
思わぬ所で助かった私は、いかにも分かってたかのような鼻高々な顔をうかべた。
周囲からは私が勘で答えたということを全く知らない人達の拍手喝采が送られてくる。
多分褒められている拍手なのだろうが、私はあまりいい気はしなかった。なぜなら、勘だから。
まぁ、とりあえずこの状況は切り抜ける事が出来たから一件落着だ。
そして、1つの教訓もできた。
それは、授業をしっかりと聞くことだ。
不意打ちにも対処できるようにこれからはしっかりと話を聞くことにしよう。
当たり前のことであるのだが。
そんな戒めを胸に私は今日も家に帰ってきた。
むろん、黒歴史の記憶も忘れずにしっかりと持って帰ってきた。
その記憶を玄関で思い出してしまった私は、反射的に苦笑いを浮かべた。
その顔を母に見られて、少しばかり引かれたようであるが、気に止めない事にしておこう。
私は、そのままの重い足取りで自分の部屋に入っていった。
自分の部屋は、トイレに次いで2番目に落ち着く場所となっている。いかにも女の子らしいピンクの壁紙にピンクのベット。
そして、この可愛いクマのぬいぐるみ。部屋に入るだけでとても癒される。
そんな部屋に見とれながら私は、ヘヤゴムを取って長い髪を下ろした。
家では落ち着くのでいつもこうだ。
そしてラクな格好になると、即座に私はベットにバタンと倒れ込んだ。

「はあぁーーー」

大抵、いつもここで寝てしまうのだが、今日は寝る気になれなかった。あの黒歴史があったからだ。
私はゴロンと体の向きをうつ伏せから仰向けに変えた。
目線に映っているのはピンク色の天井と棚の上のトロフィーのみだ。
ふと、このトロフィーの事を思い出す。
確かこのトロフィーは、ブルーサファイア美術展で特選を取った時のトロフィーだった気がする。
ブルーサファイア美術展とは、日本最大級の美術展のことだ。そんな大きな美術展で特選を取ったということは言うまでもない位に凄いことだ。
なんせ、全国各地、あわや全世界から、プロアマ合わせて多くの人達が自信作を送っている中で、ほんの数作しか選ばれない『特選』
に選ばれたのだから。
当然、プロへのスカウトも来たのだが、
私はそれを断った。

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