ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
44話 おかえり
「そろそろ時間を動かしてくんない?」
イノチがゼウスにそう告げると、ゼウスは頷いて指を慣らしてローブのフードを被り直した。
すると、周りの時が動き出す。
無音だった世界に、風に吹かれる葉擦れの音たちがこだましていく。
「あ…あれ?イ…イノチさま…?」
イノチの姿を見たメイが驚いた表情を浮かべた。
イノチはそれに振り向いて手を上げて応えるが、すぐにある方向へと顔を向ける。
無表情のまま、こちらを見据える長く青い髪の男。
ウォタがジッとイノチを見つめているのだ。
その顔に驚きはなく、目標が生きていることを確認し、再び殺意を向けてくる。イノチはそれを、まるで命じられたロボットのようだと感じた。
ウォタの足元に倒れるミコトは気を失い、すでに元の姿に戻っている。おそらく危険はないだろう。
イノチがそう考えて息をつき、再びウォタへ視線を向ける。
ーーー待ってろよ。すぐに助けてやるから…
そう思ったところで、ウォタの瞳がまるで謝罪を伝えるように煌めいた気がした。
それに気づいたイノチは、胸の中にこそばゆいものを感じつつ、鼻で笑う。
その瞬間…
再びウォタが動き出した。
拳にオーラを込め、イノチへと飛びかかるウォタを見て、メイが焦りを見せる。
だが、思わず飛び出そうとしたところで、アキンドがまたもそれを制止した。
さすがのメイもそれを訝しく感じてしまうが、視線を向けた先のアキンドの表情は自信に満ちており、メイの心は不思議と落ち着きを取り戻す。
「ったく…神様ってのも意外と雑なんだな。ウォタの強さはこんなもんじゃないのに…」
飛びかかってくるウォタを見て、イノチはそう小さくつぶやいた。それと同時に、右手のハンドコントローラーをカタカタと動かしていく。
ウォタの拳はすでにイノチの寸前まで迫っていた。
しかし、エンターキーをタンっと弾いた瞬間、イノチとウォタを囲んだ小さな空間の中だけ、時間がゆっくりと進み始める。
当たりかけていた拳は、イノチの目の前でまるで止まっているかのようだった。
「範囲は狭いが、時間コントロールも操れるのか…そのコードは難しかろうに…」
感心した眼差しを向けるゼウス。
その視線の先…ゆっくりと動くウォタとは対照的に、スタスタと普段通りに歩き出したイノチは、ウォタの横で立ち止まった。
「さてと、とっとと目を覚まして、お返ししに行こうぜ。」
イノチがそう言ってウォタの体に触れた瞬間、ハンドコントローラーが光り輝き出したのだ。
「おぉぉ…」
アキンドが感嘆をこぼす中、その光は大きくその輝きを増していった。
〜
眠たい…とても眠たい…
真っ白な空間で、ウォタは一人ぽつんと竜の姿でうずくまり、ウトウトと寝ぼけた眼で小さく息を吐いた。
ここはどこかもわからない。イノチはどこへ行ったのだろうか。そう考えるのも、もう何度目だろうか…覚えていない。
自分が一体何をしているのかもよくわからない…
そう思い、大きく欠伸をして再び眠りにつこうとしたその時、ある声が響く。
ーーーウォタ、そろそろ起きろよ。
なんだか懐かしい声だ…これはイノチの声か。
ーーー相変わらずグータラしてんな。さっさと起きて俺を手伝ってくれよ。
…そうだな。また、あの楽しき時間に…皆のそばに戻りたい。だが、この鎖がなぁ…
いつの間にか自分の首に回された首輪。何度足掻こうと、壊すことができなかった忌々しい鎖にそっと触れる。
その首輪に繋がる鎖がジャラリと音を立てた。
ここにきた時から付けられていたこれは、ウォタの意志を強制的に抑え込む。どうやっても外せない…なぜならこれを付けたのは神だからだ。
自分を生み出した神が付けたこの首輪と鎖を、自分が外せる道理はない。それが例えイノチであっても無理だろう。
そう感じていた。
しかし、イノチの声が明るく告げる。
ーーーなんだこれ?アクセス不能…?
ほらな…無理なのだ。これは彼の御方が付けたもの。人間が外せるわけが…
ーーーあ〜これか!このコードが邪魔してんだな…っと…これ…で…
な…何を…何をしておるのだ…イノチ…?
ーーーあとはここだけだな…けっこう簡単じゃん…ほら!これで目が覚めるはずだ!
その瞬間、首に巻いてあった鉄の塊が光の粒子となって消えていく。そして、ウォタは霞んでいた頭がゆっくりと晴れていくのを感じた。
ーーーさっさと起きろよ!最強の竜種なんだろ!?
イノチの声にウォタは身じろぐと、ずっと動かしていなかった体を伸ばすように大きく背伸びをする。そして、強い意志を乗せた眼差しを真っ白な空へと向けた。
ふっ…相変わらず可愛げのない奴だ…どれ!
その瞬間、ウォタは大きく咆哮を上げる。するとどうだろうか、真っ白な空間に亀裂が走り、ガラガラと崩れ始めたのだ。
そして…
〜
「どうじゃ?水竜は元に戻りそうかのぉ。」
少し離れた位置からゼウスがそう問うと、イノチは首を傾げながら答える。
「う〜ん、邪魔な犬みたいなウイルスは排除したから、もう大丈夫なはずなんだけど…」
「カルモウ家としても、ぜひ水竜さまには復活していただきたく存じますぞ!」
いまだ目を覚まさないウォタを、イノチとアキンドが覗き込む。その横では、ポーションで回復したミコトの体をメイが支えている。
「BOSS…無事でしたか…」
「フレデリカ!アレックスも…無事でよかった!大丈夫か?」
草むらから、フレデリカとアレックスが姿を現した。
フレデリカはこっぴどくやられていて、アレックスに体を支えられているが、そのアレックスの体もボロボロだ。
しかし、それでもなおフレデリカをサポートできるところは、さすがは盾士という職業の防御力の高さにイノチは感心する。
アイテムボックス取り出したポーションを渡すと、二人ともそれを一気に飲み干して生き返ったように息をついた。
「しかし、BOSS…今の状況はいったい…」
元気を取り戻したフレデリカの問いかけに、イノチは笑って答える。
「とりあえず、脅威は去ったよ。だけど、今はウォタを元に戻すのが先決だから、詳しい話や説明はその後でな。」
「BOSSがそういうのなら…しかし、なぜ彼がここにいるのです?」
フレデリカがゼウスを指差してそう問いかけた。
みんなから離れた位置で腕を組んで岩に座るゼウスは、ヒラヒラと手を振って口元に笑みを浮かべている。
イノチが肩をすくめると、フレデリカは大きくため息をついてウォタの下へと歩み寄った。
「ウォタさまの様子は…」
「そろそろ、目を覚ましてもおかしくはないと思うんだが…」
そう言って、イノチたちは横たわるウォタを再び覗き込んだ。
すると…
「う…うぅ…」
「ウォタ!気づいたか!」
喜びを顔に表して、イノチがウォタの顔をさらに覗き込む。その周りでは、他のメンバーたちも安堵の表情を浮かべていた。
「イ…イノチ…か。ここは…我は…何を…」
「ハハハ…お前、神様に操られてたんだよ…ったく、心配させやがって!」
涙目でそう告げるイノチに、ウォタは納得したように上半身を起こした。
「神に…我が…そうであったか。そうだったな…ゲンサイとジプトからの帰りに御方の一人に出くわして…それで…それはそうと、ゲンサイの奴は無事か!?」
「お前のおかげで無事だよ。今はトウトでトヌスと一緒にいるはずだ。後でお前が戻ってきたことを伝えとくよ。喜ぶだろ…」
「そうか…すまぬな、イノチよ…」
一緒にいたゲンサイの無事を聞いて、ウォタは安堵したようだ。迷惑をかけたことを詫びるウォタに対して、イノチは改めてこう告げた。
「気にすんなよ!俺たちは仲間だろ!おかえり、ウォタ!」
ウォタにはその笑顔が眩しかった。
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