ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
80話 Zとイノチ
「そこに掛けなさい。」
イノチを部屋に案内すると、男はフードを被ったままそう告げて部屋の奥へと消えていった。
イノチが指示通りにイスに腰掛けて待っていると、男は手にカップを二つ持って姿を現す。
「コーヒーでよかったかのぉ…?」
無言でうなずくイノチを見て、男は小さく笑いイノチの前にカップを置く。
そして、イノチの対面に腰を下ろすとフードをゆっくりと外した。
前回会った時から変わらない白髪と、存在感のある白ひげが姿を現す。
自らを"Z"と名乗り、世界を管理するものだと明かした男の一人。
そんな彼が優しく笑いながら口を開いた。
「まずはコーヒーをどうぞ…」
そう言って自分のカップを手に取る"Z"を見て、イノチもカップに手をかける。
香ばしさと温かさが鼻を包み込む。
一口飲めば、酸味とコクが口の中に静かに広がっていく。
イノチはそれを飲み込むと、ゆっくりとカップを置き、話を切り出した。
「さっさと本題に入ろう。」
"Z"もその言葉にうなずくとカップを置く。
「要件は送ったとおりじゃ。今日は神獣について君に話しておこうと思う。」
「神獣について…このタイミングでそれを話すと言うことは、やはりウォタに関係があるんだろ?」
「相変わらず察しがいいのぉ。そのとおり…神獣全般の話でなく、話というのはあのアクアドラゴンについてじゃ。」
ウォタのことと聞いて、自分のことを睨みつけるように見据えるイノチ。
(さて…どこまで話したものかのぉ。隠し過ぎるとこの子の事じゃから、我々に対する信用を失くすやもしれん。しかし、それは話し過ぎても同じこと…ふむ…まぁ、まずは謝罪か…)
"Z"は髭をさすりながら少し考えると、ゆっくりと話し始めた。
「我々が、世界を管理する神の使いで、この国を乱す邪神たちを倒すことが目的であることは前にも話したな…覚えておるか?」
「あぁ、それで勝手にこの世界に送り込まれたこともな。そして、あんたたちがジパンを守れって言ったから手伝ったらこうなった…」
「フォッフォッフォッ、手厳しいのぉ…まぁ、まずは謝罪からじゃな。お主の仲間であるアクアドラゴンの件については我らの責任だ…本当に申し訳なかった。」
深々と頭を下げる"Z"に対して、イノチはその頭を静かに見つめている。
"Z"はゆっくり頭を上げると、再び口を開いた。
「アクアドラゴンを手にかけたのは邪神の一人じゃ。ジプトを管理している一人でもあった。しかし、本来、我々はこの世界に直接干渉してはならん掟なのじゃ。そやつはそれを破ったことですでに処罰は受けておる。」
「ウォタは神の一味に殺されたってことか…」
「まぁ、大まかに言えばそういうことじゃ。我らも奴の介入は予想しとらんでな。対応が遅れてしまった…本当にすまない。」
見つめ合う二人。
少し間をあけてイノチが口を開いた。
「で…?」
冷たい口調で聞き返すイノチに、"Z"は無表情のままその口は開かない。
「俺が知りたいのはそんなことじゃない。誰がウォタを殺したのかはこの際どうでもいいんだ。ウォタはどうなるのか…本当に死んでしまったのか、それが知りたい。あなたもそれを話すつもりで来たんじゃないのか?」
イノチの言葉に"Z"は未だ無表情のままだった。
が、突然小さく笑みをこぼして笑い出す。
「ククク…君は本当に…その通りじゃよ。話というのはウォタのこれからについて話すためじゃ。イノチくんは、あのアクアドラゴンをどうして欲しい?」
(どうして…ほしい…?)
突然の言葉にイノチは眉をひそめた。
どうして欲しいかという問いかけに、一瞬どう答えていいかわからなかったのだ。
できるのか知らないが、ウォタを生き返らせて欲しいというのが本心ではある。
大切な仲間を失ったまま、この悲しみに耐えることは辛い。
だからこそ、"Z"の招待を受けてここに来た。
ウォタのことをどうにかできるのではないかという期待があったのだ。
しかし、いざそう問われると迷いが生じてしまう。
一度死んだ者を簡単に生き返らせて欲しいなどと言っていいものか、と。
自分の世界ではそんなことは絶対にあり得ない。
死んだ者は戻らないのが元の世界の理だ。
だから、ここがいくら別の世界だとしても…元の世界とルールが違ったとしても、何の代償もなしに失った者を生き返らせて良いものだろうかという迷いが生じたのだ。
「正直…わからない。」
そう下を向くイノチを"Z"は静かに見つめている。
「何が原因にせよ、ウォタは死んでしまったんだろ?それを自分の感情に任せて生き返らせたいなんて…それは単なるわがままだ。」
「しかし、ウォタを手にかけたのは邪神じゃよ?この世界に干渉を許されとらん存在じゃ。」
「確かにそうかもしれない。だけど、ウォタをジプトに行かせたのは俺だ。俺が指示した結果がこれなんだ。本当はわかってる、責任は自分にあるんだ…あなたたちに責任を押し付けて自分が楽になりたいと思ってるだけなんだ。だから、自分に腹が立つ…」
いつの間にかイノチは泣いていた。
下を向いているせいで、大粒の涙がポタポタと膝を濡らしていく。
両拳を握りしめ、必死に感情を抑えようと嗚咽するイノチ。
(なんと真面目な子じゃ…予想以上だのぉ。)
"Z"は表情には出さないが、内心では驚いていた。
そして、心の底から彼を選んでよかったとも感じていた。
「君の気持ちはよく理解した。ならば、聞き方を変えよう…君はどうしたいのじゃ?」
その言葉を聞いて、イノチは袖で涙を拭いながら顔を上げる。
「ウォタを生き返らせる方法があるなら…それを教えてくれ。」
真っ直ぐとした眼差しを自分に向けるイノチに、"Z"は小さく口元で微笑んだが、すぐに真面目な顔に戻る。
「あるにはあるが…まさか自分でやるつもりか?竜種を自分で生き返らせるというのか?」
「あぁ、そうだ。俺はそうしたい。それが俺のしたいことだ!」
「お主がそうしたいならいいんじゃが…一つ、聞いても良いかな?」
「なんだ?」
"Z"は前のめりになって、目の前のテーブルへ片腕を置いた。
「なぜわしに頼まんのじゃ?君のことじゃから、わしならあのアクアドラゴンを生き返らせることができると踏んで、ここに来たと思ったのじゃが…」
"Z"は真剣な目でイノチへ問いかけた。
その問いにイノチも同じように前のめりになり、テーブルへと片腕を置く。
「理由は簡単だ。あんたらに余計な借りは作りたくないんだ。これは俺の直感だね。」
「ほう…」
「どうせあんたたちのことだから、ウォタを生き返えらせたことを理由に、何か別の面倒なことを押し付けてきそうな気がするんだ。だから、余計な借りは作らない。」
イノチがそう睨みつけると、"Z"は面白そうに大きく笑い始めた。
「ハッハッハッハッ!イノチくん、君には本当に恐れ入ったぞい!よかろう!あのアクアドラゴンを生き返らせる方法を教えよう。自らの力でやってみるといい!」
それを聞いて安堵したように小さく息をはくと、イノチは再び口を開いた。
「それともう一つ…あんたに頼みたいことがある。」
「なんじゃ?」
"Z"は笑うのを止めると、興味深そうにイノチを見た。
「ゲンサイについてなんだけど…」
「あぁ、彼か。彼がどうしたのじゃ?」
「あいつ、もうトウトについてると思うんだけど、連絡が取れないんだ。なんか知らない?」
"Z"は髭をさすりながら、その問いに答える。
「ロキのやつが会いに行っとるよ。元気そうではあるが…ちと落ち込んどるようじゃな…」
「やっぱりか…」
それを聞いて、イノチは大きくため息をついた。
"Z"はその様子を見ながら、イノチが何を頼んでくるのか待ちきれないといったように問い返す。
「彼について、わしに何を頼みたいのじゃ?」
楽しそうな視線を向けてくる"Z"。
イノチは視線を彼に戻し、目の前にあるカップを口に運び、コーヒーを一気に飲み干してこう告げた。
「何落ち込んでんだ、バカ!そんな暇があったらこっちを手伝え!んで、それが終わったら今度はまたトウトに戻って、トヌスと街を守り通せ!こう伝えてもらえる?」
その言葉を聞いた"Z"は、ニンマリと大きく笑ったのだった。
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