ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

59話 再告知と画策


「あ〜もしもし?俺だけど…」


人気のない路地裏で、壁に背をもたれた黒ずくめの男がいる。

黒いロングコートにフードを被った彼は、耳に手を当てながら何かを話している。


「『八岐大蛇』の活動時間をもっと伸ばせないか?」


その問いに対して耳元で答える誰かの話を、男は静かに聞いている。

おそらく、通信機のようなものを使っているのだろう。


「あん?酒の量も増やさないとダメ?なんだそりゃ!えっ…?オロチがそう言ってる?あの野郎…調子に乗りやがって!!」

「…………!!」

「あ〜わかってる、大丈夫だ!オロチに手は出さないって!それは約束するよ!」


通信相手が怒っているのだろうか。
男は謝罪しつつ、少しあきれたように肩をすくめた。


「前回は試験的な面もあったから、あまり長く動かせなかっただろ?そもそも、プレイヤーの奴らも酒を1合分しか用意できなかったしよ!だが、あの時のデータを分析すれば、少ない量でももっと長く動けるようにできるはず…えっ…?だから酒の量は増やさないとダメって?わかったわかった!好きなだけ呑ませてやれ!!ったく、めんどくせぇなぁ!呑み過ぎて足元すくわれんなって言っとけよ!」


少しイラ立った様子の男は気を取り直すように大きくため息をつくと再び口を開く。


「今回は、ランク戦前にジパンの戦力を落としておきたいんだ。」

「……………!……!」

「あぁ、頼んだ。」


話し終わると男は耳元から手を外して空を仰ぐ。


「ククク…じいさんたち、焦るだろうなぁ!突然、レイドボスが強くなるんだ!そして、自分たちのプレイヤーが次々と死んでいく…どんな顔をするんだろうなぁ!!ハハハハハハハ!!」


明らかに悪意に満ちた笑い声。
それは路地裏でこだましながら、青く澄んだ空へと吸い込まれていった。





タケルたちは『八塩折酒』の製造をアシナへ正式に依頼し、アシナも心よくそれを受けてくれた。

初めは伝説の酒と作るというプレッシャーに不安を見せていたアシナであったが、イシナが残していた製法のお陰で『八塩折酒』の製造は問題はなく進んでいるようだ。

そんな矢先、あるイベントの告知が端末内のお知らせ欄に掲載される。

新月のイベント『朔夜の八頭龍』。
10人以上のプレイヤーがタカハの街にいる状態で、タカハから北に進んだ小さな村にある祠に、指定のアイテムを供えることで発生するレイドイベント。

そのイベント告知が数年ぶりにお知らせ欄に掲載されたのである。


「タケルくん…これって…」

「…このタイミングでイベント開催?」


首を傾げるタケルにミコトも不安の視線を向けている。


「理解できないな。僕にとっては都合が…ごめん。言い方が悪かった。願ってもないタイミングなんだけど…そもそも『八岐大蛇』は、イベントじゃなくても条件さえ満たせば会えるユニークモンスターのはずなんだ。運営の意図がわからない。」

「何か…狙いがあるのかな。例えば『八岐大蛇』の強さに補正が入るとか…ゲームではよくあるよね。」

「…なるほど、一理あるね。ただ告知を読んでみたけど、どこにもそれらしいことは書いてないね。」


タケルは端末の画面を操作しながらそうつぶやく。
その横で同様に自分の端末画面を見ていたミコトは、ふとある事に気づいた。


「ねぇ、タケルくん…備えるお酒の量に決まりはあるの?」

「いや…前にも言ったかもしれないけど決まりはないはずだよ。前回は一合くらいだった…」

「…そっか。なら今回の告知の理由はこれじゃない?」


ミコトはそう言ってある部分を指差ながら、タケルへ画面を向けた。

いくつか注意点が箇条書きに書かれている中、ミコトが指差す一文にはこう書かれている。

『八岐大蛇を出現させる初期の酒量を樽一つへと変更します。よりたくさんの酒をお供えして八岐大蛇を倒す時間を確保しましょう!※出現後もお供えは可能です。』


「…樽一つだって?まじかよ!」


その内容を見たタケルは頭を抱え、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「樽一つっていうとどれくらいかな…。」

「アシナさんに聞くところによれば、この世界では樽一つは2斗が一般的って言ってた。1斗は18リットルだから2斗で36リットルだ。」

「36リットルか…多いね?」

「…かなりね。製造が間に合うかどうか微妙なところだな。」


あごに手を当てて悩んだ様子のタケル。
そんなタケルを見て、ミコトが口を開く。


「なら、アシナさんを手伝わなきゃね。オサノさんたち、みんなを集めよう。」

「そうだね!みんなで仕込みを手伝って、一滴でも多くの『八塩折酒』をつくろう!!」


ミコトの言葉にタケルがうなずくと、同じタイミングで端末に通知が届いた音が鳴る。


「…ん?メッセージかな?」


再び画面に目を向けて端末を操作するタケルの目がみるみるうちに明るくなっていった。


「誰からだったの?」


ミコトの問いにタケルは目を輝かせて答える。


「やっと到着したみたいだ。僕のクラン『孤高の旅団』のメンバーが!!」





「ご報告です。」


"ウンエイ"ことヘルメスがゼウスの元にやってきた。
青空広がる木の下でゴロンと寝転がったままのゼウスは、横に立つヘルメスを一瞥する。


「おぉ、ヘルメスか。どうしたのじゃ?」

「彼らに動きがありました。」

「ほう…」


ヘルメスの言葉にゼウスは眉をピクリとさせ、上半身を起こした。

ピリッとした空気がその場に流れ、ヘルメスは緊張感を感じざるを得ない。


「奴か?」

「…いえ、ヴィリとヴェーの二人です。イベント枠を一つ使ってきました。」

「なんのイベントだ?もしや…」

「はい。『朔夜の八頭龍』が開催されます。」


ゼウスはあごに手を置いて何かを考えている。


「確かタカハにはタケルくんとミコっちゃんがおったな。」

「はい…それと彼のクランメンバーも先ほど到着したようです。タカハではクラン『SCR』も協力体制を整えているようですので…」

「ふむ…前回よりもプレイヤーの層は厚いか。しかし、予想はしておったがそれよりも少し早いかのぉ。」

「そうですね。ランク戦開催に合わせて混乱させてくるかと思いましたが…やはりあの方のご指示でしょうか。」

「わからんな…奴はランク戦に否定的じゃった。だが貪欲な奴じゃし、何を考えとるかわからんからのぉ。それより、イノチくんたちはどうじゃ?」


その問いにヘルメスは表情を固くする。


「彼らについては…その…」

「やはりあの竜種のことが影響しとるのか…」

「…はい。彼がかなり落ち込んでいて…進捗はほとんどありません。」

「…ったく。ロキの奴め… ジプトを不参加に追い込むためとはいえ、勝手な事をしおってからに。アマちゃんの怒りを鎮めるのも大変じゃったんじゃぞ!」

「なんとか収めていただきましたが、あの条件はどうかと…」

「気にするでない。まぁ、イノチくんたちはラビリスの神獣も引き込んだようじゃし、リシア側にも内通者を作れとるからな。少しお休みしてもらうとして…トウトはどうじゃ?」

「イザナミさまがうまく立ち回っておられます。ただし、トヌスは彼女からもらったアイテムをまだ使っていないようです。」


ゼウスはそれを聞いて静かに笑った。


「よいよ。彼はある意味で不確定要素じゃからな。海域の守りも固まりつつあるし、好きなようにさせたら良い。」

「御意に…」


話が終わるとゼウスは重い腰を上げ、大きな体で背伸びをする。


「さてと…それでは我々も少し行動に移そうか。」


そう言うとゆっくりと歩き始めるゼウスの背を、ヘルメスは少しだけ見つめると、すぐにその後を追いかけたのであった。

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