ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
58話 感謝
「それからイシナの奴は人が変わったように『八塩折酒』を作り続けた。何度も止めようとしたが、あいつは俺の話など聞く耳すら持たなかった。」
アシナは空を見上げてそうつぶやいた。
その表情はどことなく悲しそうに見えた。
「その…黒ずくめの男は何者なんですか?」
「さあな、イシナ自身もそいつについてはあまり知らなかったようだ。男はその後、酒ができる頃に取りに来る…それだけ言い残して帰っていったらしい。」
「なら、取りには来たんですか?」
アシナは頭を横に振る。
「来なかった。そもそも、その時は『八塩折酒』が完成しているからどうかなんて俺らには判断できなかったからな。取りに来ないと言うことは完成していない、イシナはそう言って必死に酒造りに没頭していたんだ。そんな時だよ。彼がここに来たのは…」
アシナは再びうずくまっているタケルに、チラリと視線を泳がせた。
「彼は『八塩折酒』が欲しいと言ってきた。イシナは完成していないと伝えたが、試作品でもいいと懇願されたのでとりあえず出来上がったばかりの『八塩折酒』を渡したんだ。」
「そして、八岐大蛇が出現して北の村を滅ぼしてしまった…」
アシナは静かにうなずいた。
ミコトはあごに手を置いて、少し考えに耽る。
イシナが伝説の酒『八塩折酒』を作りたがっていたところに謎の男が現れた。
彼はイシナにその製法を教え、完成したら取りに来ると言った。
イシナは奮起し酒造りに没頭したが、誰も本物を見たことがないため完成したかどうかはわからなかった。
そんな時にタケルが現れる。
『八塩折酒』が欲しいと告げ、試作品の一部をもらい受けた。
その後はタケルに聞いた通り、彼はクランメンバーと共に北の村へ行き、『八塩折酒』を祠に供えた。
そして、八岐大蛇が現れて暴虐の限りを尽くし、北の村は滅んでしまった。
話を整理するとこう言うことだろう。
「…黒ずくめの男が気にかかりますね。」
「イシナに製法を教えた奴のことか?」
「そうです…彼は取りに来ると言ったのになぜ来なかったのでしょう。」
「そりゃあ、さっきも言ったが完成してなかったんだろ?」
その言葉にミコトは首を傾げた。
「普通は聞きに来たりしないと状況がわからないですよね?その男は、どうやってイシナさんの進捗を把握してたんでしょう。しかも"酒ができる頃に取りに来る"と言ったんですよね?"完成したら"ではなく"できる頃に"と…なんでそんな中途半端な言い方を…」
「確かにそうだが…それは言葉の綾って奴じゃねぇか?」
「そうかもしれないですけど…なんか気になるんですよね。」
アシナ、ミコト、セガクの三人が頭を抱えて考えていると、落ち着きを取り戻したのか、タケルが口を開いた。
「…僕が酒を取りに来た時の話の部分が少し違うね。」
「タケルくん!もう大丈夫…なの?」
「ごめんね、ミコト。だらしないところを見せてしまって…とりあえず落ち着いたよ。」
タケルはそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「タケルさん、どういうことです?イシナのところに酒を取りに来たのは間違いないんでしょう?」
セガクが疑問を投げかける横で、アシナもタケルを見据えている。
少し話しにくそうにしながらもタケルは話を続けた。
「…それは間違いないです。でも、その時イシナさんは完成したと言っていました。本当は親父さんに早く伝えたかったけど、酒を知る奴よりも何にも知らない素人に飲んでもらった方が忌憚ない意見がもらえるはずだって…それで僕は一口飲んで感想を述べ、そのお礼に一本の酒をもらったんです。」
「なっ…!?だが、あいつは確かに試作品を渡したと言っていたぞ!なぜそんな嘘を!!」
「その理由となるのが黒ずくめの謎の男なんだと思います。」
タケルの言葉に、アシナもセガクも息を飲んだ。
「『八塩折酒』を探している時、ある男に出会いました。そいつは僕にこの酒造にそれを造っている奴がいると教えてくれたんです。しかも、そろそろ完成する頃だから取りに行ってみるといいとまで言いってきました。」
「それが黒ずくめの男…」
ミコトの言葉にタケルは悩ましげな表情を浮かべた。
「それはわからない。僕があったのは普通の男だった。気さくな感じで話しかけてきたから、その時はタカハの街の住人だと思っていたんだ。けど、今の話を聞くと違ったのかもしれない…そいつと黒ずくめの男は同一人物かもしれないね。」
「だが、イシナが嘘をついたこととその謎の男にどんな関係があるんだ!?」
アシナは納得がいかないといったようにタケルに言葉を投げつける。
「これはあくまで推測なんですけど…イシナさんは僕と会う前にその男と会っていたんじゃないですか?そして、完成していると教えられた。」
「うん…確かにそれは一理あるね。」
「しかしよぉ、完成したなら嘘をつく必要はないんじゃねぇか?」
「そうですね。これも推測ですが、イシナさんは男から何かを聞いたんじゃないでしょうか。そして、完成したことを隠すように言われた…」
「なんでわざわざ…そいつも完成したなら喜ぶべきだろう。酒が欲しくてイシナに造らせたんじゃないのかい?」
セガクもアシナも余計に訳がわからないといった顔をしている。
「例えばですが…イシナさんが完成したといっても誰も信用しなかったのではないですか?誰も本物を見たことない訳ですし、イシナさんもそれは懸念していた。じゃあ、それが本物だと証明するにはどうすればいいか…」
「あ…そうか。」
ミコトが何かに気がついた。
セガクもアシナもミコトに視線を移す。
「だから北の村の祠なんだね。おそらく、その男はイシナさんにお酒が本物だと証明することを提案したんだ。そして、タケルくんをここに来るように仕向けた。」
「北の祠の伝説…『八岐大蛇』か!」
セガクもアシナも驚いた表情を浮かべていた。
「そうです。男は『八岐大蛇』が復活すれば酒が本物だと証明できると、イシナさんにそう伝えたんでしょう。そして、本当に僕が来て、彼は酒を預けた。」
「だが、そんな危険なことイシナが了解するわけない…伝説とはいえ、あいつは人を巻き込んでまでそんなことやる奴じゃねぇのに…」
「わかりませんが、男にそそのかされたんじゃないですか?僕は冒険者だから強い。八岐大蛇が復活しても彼らが倒してくれる。彼らはそのために酒を求めているのだ、とか言ったんだと思います。」
「そして『八岐大蛇』は復活し、北の村は滅びた…」
セガクの言葉にタケルは再びうつむいた。
「それに関しては言葉も出ません。謝っても済む話じゃない…」
そうつぶやいて拳を握りしめるタケル。
アシナはそんな彼をジッと見据えていたが、小さく息をつくと口を開いた。
「さっきも言ったが、俺があんたを責めることはねぇよ。この件は俺の息子も一枚噛んでやがるんだ…むしろ迷惑をかけちまってすまねぇ。」
「そんな!アシナさん、頭を上げてください!!」
きれいな姿勢で腰を折るアシナに対して、タケルは驚き焦り、駆け寄って頭を上げるように促した。
「そもそもこれには黒幕がいたってことだよね?悪いのはその男でイシナさんもタケルくんも被害者…」
「ミコト、それは都合が良すぎるよ。」
二人を庇おうとしたミコトの言葉をタケルが振り返って遮る。
「何人もの人が命を落としているんだ…僕はその贖罪を背負わなければならない…」
「でも…!」
「ありがとう、ミコト。でも大丈夫だ。」
悲しげな表情のミコトにタケルは小さく微笑んだ。
「こんな言い方はおかしいかもしれないけど、僕は感謝してるんだ。」
「感謝…?」
ミコトはその言葉に首を傾げる。
セガクもアシナもそれは同じだ。
そんな中、タケルがゆっくりと口を開いた。
「黒幕がいた…八岐大蛇だけじゃなくそいつにこの想いをぶつけることができる。絶対にそいつを見つけ出して謝らせてやるんだ!」
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