ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
47話 形勢不利?
「なびげーしょんしすてむ…?」
イノチの言葉に、アレックスは首を傾げる。
「まぁ、そうなるよね…簡単に言うと、エレナの位置を知ることができる魔法かな。『開発』のスキルを使って、マップに新しい機能を付け加えたんだ。」
「へぇ〜♪じゃあ、この『エレナ』って書かれている青い点がエレナさんってことなんだねぇ♪」
「ご名答!そんで、おそらくこの赤が…"オオクラ"だな。」
「ということはエレナさん、目的の人物を見つけられたんだ♪…でもBOSS、なんでこれが"オオクラ"だってわかるの?」
「それはさ、エレナの点がこの赤い点を追いかけて、この部屋に入ったっきり、ずっとここで待機してるんだ。だからこの赤い点こそ、オオクラじゃないかと予想してる。」
アレックスはなるほどといった表情を浮かべて、再び画面に目を向けた。
「まぁ、あくまで予想だからな…ん?赤い点が動いた!」
「エレナさんも部屋の外に出たね♪」
ウィンドウには、エレナの点が赤い点を置き去りにして、早い速度で移動する様子が映っている。
イノチは親指と人差し指で、ウィンドウのに映し出される範囲を拡げた。
「追っ手もいなさそうだな…バレたわけではなさそうだし、証拠を掴んだのかもしれないな。」
「やったね♪さすがエレナさん♪…でもBOSS、なんで追っ手がいないってわかるの?」
「ん?あぁ…この『ナビ』にはさっきのオオクラのように、エレナ以外が赤い点で映るように設定してるんだ。それが近くにないからな!」
「ふ〜ん…」
「…」
アレックスはどうやら理解するのを辞めたようだ。
振り向きもせず、小さく欠伸をしながらウィンドウを眺めている。
イノチは少し自慢げに話した自分が恥ずかしくなった。
ちなみにこの『ナビゲーションシステム』通称『ナビ』は、よく知られている衛星を使ったものとは、まったく別のものだ。
イノチのスキル『開発』により、マップでエレナの心音を感知できるようにしただけのもの。
そして、その心音が物や人に当たり、反射する音波を図面として現れるように設定したものである。
"異世界ならでは"とも言える技術であるが、機能も性能も何もかも衛星を使った『ナビゲーションシステム』には、点で及ばない。
エレナの心音が届かないところは映らないし、彼女がどこにいるかなども、周りの形状などから予測しかできないからだ。
「たぶん一度城を出て、城壁に向かうはずだけど…」
青い点の動きを注視するイノチとアレックス。
「あれ…?この赤い点は…誰かいるね。」
「そうだな、このまま行くと鉢合わせるかも…」
突然現れた赤い点。
エレナが進む通路の途中で、まるで待ち伏せするように動きを止めている。
青い点はそのまま進むと、一定の距離を取り、その動きを止めた。
「エレナさん、止まったよ!」
「くそっ…ここに来て見つかったか!」
「だけど、周りには誰もいないね!もしかすると見回りの兵士とかかな…?」
「それなら対処は簡単だろうけど…ん?」
一緒、青い点と赤い点がブレる。
これはエレナの動きに、マップの感知が追いついていない証拠だ。
エレナたちの動きは常人離れしている。
だから、人の目で捉えることは難しいし、このシステム上でもそれは同様なのだ。
しかし、赤い点も同じような動きをしたことが、イノチの胸に引っかかる。
「ボッ…BOSS…エレナさん、動かなくなっちゃったよ。」
「…ほんとだ。あれ…?透明化も解けてるぞ!」
青い点の上に書かれたエレナの名前。
その横にあった『透明化』を指す"inv"という表示がなくなっていることにイノチは気づく。
イノチの表情に焦りの色が表れる。
赤い点は青い点に近づき、そのまま一緒に動き始めたのだ。
「BOSS…これって…」
「あぁ…たぶんだけど…エレナは捕まった…」
窓の外から入る涼しげな夜風が、白いレースカーテンをヒラヒラと揺らしていた。
◆
「ボウ…痛みはとれたか?」
ロドの問いかけにボウは無言でうなずく。
潜入調査をイノチたちに任せ、トヌスの仲間であるロドとボウは、暗闇の広がる道を歩いていた。
街灯はポツリポツリとしかなく、人気もまったくない。
「俺たちも明日から頭の濡れ衣を晴らすために、走り回るぞ。」
「…んだ。」
二人は路地裏へと入り込む。
少し進むと、小さな建物の前にたどり着いた。
二人はそのドアではなく、建物の横へと回り込むと、四角い出っ張りの前で立ち止まった。
上に置かれたフタのような扉を、ボウがゆっくりと静かに開くと、ロドが素早く中に入り込んだ。
今度は中からロドが扉を押さえて、ボウが滑り込むように中へと入る。
そして、その扉は静かに閉じられた。
階段を降り切ると、少し開いた場所に出る。
「ロド、ボウ!おかえり!」
仲間の一人が、二人に声をかけた。
「どうだった?イノチさんとは話せたか?」
「あぁ…」
別の仲間の問いかけに答えながら、ロドはドカッとイスに座る。
ボウが後ろに立つと、ロドは周りに集まった仲間たちに、今日の出来事を話し伝えていく。
「…てな感じだな。」
「さすがエレナさんだな!」
「あぁ!カッコいい女性だ!憧れるぜ!」
「俺はそのアレックスちゃんが気になる…グフフ…」
「リロ…お前、やめとけよ…」
仲間の一人にあきれつつ、ロドは話を続ける。
「俺らにも出来ることがある。明日から情報をもっと集めて、イノチさんたちの力になれるよう頑張ろう!」
その言葉に、仲間たちは頭を縦に振った。
「よし!それじゃ、みんな今日はゆっくり休め!」
そう皆に支持したその時だった。
「ケケケケ!!てめぇら!全員お縄につきやがれ!!」
突然、後ろから甲高い声が響かけ渡る。
「なっ!?ヘスネビ!お前がなぜここに?!!」
「カカカカカ!うまく隠れてたつもりみたいだがよぉ、スネク商会の情報網を甘くみちゃいけねぇなあ!?」
嬉しそうに舌を出して笑うヘスネビの後ろから、屈強な傭兵たちがぞろぞろと姿を現していく。
「全員!逃げるんだぁ!!」
「野郎ども!一人たりとも逃すなぁ!!」
一斉に逃げ出すトヌスの部下たち。
それを逃すまいと、スネク商会の傭兵たちが素早く動き始める。
一人、また一人と取り押さえられ、辛うじて逃げ切れそうだったロドも、死角から飛びついてきた傭兵に、その身をがっしりと押さえつけられてしまった。
目の前には壁に背を預け、焦った表情でこちらを見ているボウの姿がある。
(あっ…あそこは!)
ロドは何かに気づいて、大きく声を上げた。
「ボウ!この事をイノチさんたちに伝えてくれ!」
ロドはまだ自由に動かせる左手で、隠し持っていたナイフを天井へ向けて、放り投げる。
傭兵は、とっさにナイフの行方を目で追う。
それはぶら下がる一本のロープを切り抜け、天井に突き刺さった。
その瞬間、ボウが預けていた壁が音を立てて開くと、彼はそのまま後ろ向きに転がっていく。
「あっ…兄貴!」
ボウは手を差し伸べたが、その壁は再び重く閉ざされてしまった。
「なにぃ!?一人逃しただと!このバカたれどもが!」
傭兵たちに罵詈雑言を浴びせるヘスネビ。
傭兵たちもその態度に不満を露わにしているが、ヘスネビは気にする事なく次の指示を出す。
「お前は今逃げたやつを捕まえろ!必ずだ!他のやつらは、こいつらを連れてついてこい!」
傭兵たちにそう命令し、ズカズカと去っていくヘスネビだが、後に続く傭兵たちの不満など、彼には知る由もないのであった。
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