ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

46話 黒幕


「失礼します。」


部屋の扉を閉めると、その男は歩き出した。
特徴的な眼鏡をかけ、気品ある服を身にまとい、早足で通路を歩いていく。


「ちっ…腑抜けたお方だ。罪人の死刑を、もう一度考え直せとは。」


眼鏡の中の吊り上がった目が、いっそう角度を上げる。
イラ立ちからか、歩く速度も余計に早くなるが、少し後ろから声をかけられて、そのスピードが緩んだ。


「オオクラ様。」

「キンシャか。」


歩きながら、会話は続く。


「わらわらと湧いて出た、奴の仲間はどうだ?」

「スネク商会のヘスネビという男へ任せました。捕らえるように指示しております。」

「あいつに?大丈夫か…?あまり使える男だとは思わんが。」

「問題ございません。スネク商会の傭兵は精鋭が揃っておりますから。ヘスネビはただの飾りです。」

「まっ…確かにな…」


二人は階段を下り、下のフロアへと進んでいく。


「キンシャよ…王があの罪人の死刑を考え直せと言っておる。」

「それはそれは…」

「ここに来て、迷うとは…まったくめんどくさいお方よ。…他に奴に被せる罪はないか?」

「あるにはありますが…」

「そうか…なら、全部かけろ。」

「仰せのままに…ところで、一つご報告が…」


キンシャはそう言うと、オオクラに耳打ちをする。


「なに…?変な三人組が、ガムルの沈黙亭に…?ふむ。」

「今はそれだけです…では。」


キンシャはそう告げると、頭を下げてフッと姿を消した。

オオクラは自室のドアに手をかけたままそれを見送ると、ドアを開け、部屋の中へと入る。
拝謁用の上着を脱いで、ポールハンガーへそれをかけると、ソファに腰を落とした。

彼の魔法であろうか、ワインとグラスがフワフワと飛んできて、先にテーブルに置かれたグラスに、ワインボトルから真っ赤な液体が注ぎ込まれていく。

グラスを手に取ると、クルクルと中の液体を回して、オオクラはその香りを堪能した。


「はぁ…良い香りだ。…ん?これは"アマト"のスイーツではないか。なになに…ほう、ヘスネビが…奴もたまには役に立つな。」


メモを読み、嬉しそうにうなずくと、背の低いテーブルの上に置かれた箱から、フィナンシェのような焼き菓子を一つ取り上げた。

封をはずして口へと運ぶ。
程よい甘さを堪能しつつ、再びグラスを口へと運び、ワインを口に含んだ。


「しかし、あいつもバカな奴だ…『トヌス』だったか?たかが仲間一人のために、自らの命を投げ出すとはな。ククク…まぁ、そのおかげであの商人を殺した罪も、奴に被せることができたのだがな。バカといえばあの商人もだ。俺に従っておけば殺されずに済んだものを…」


グラスの中で、クルクルと赤い液体を回しながら、いやらしい笑みを浮かべるオオクラ。


「しかし、ガムルの店に謎の三人組か…少々、気になるな。いったい何者だ…」


オオクラは、グラスをクルクルと回しながら、真顔になって考えを巡らせる。


「むっ!?」


突然、胸に刺していたペンを対面の壁へと放つオオクラ。

カッと音がして、壁にペンが突き刺さる。
オオクラは、その場所をジッと見据えている。


「気のせい…か?いや…」


ふと立ち上がり、ドアのところまで移動すると、それを開いて顔だけ通路に出した。
キョロキョロと辺りをうかがいつつ、誰もいないことを確認すると、首を傾げてゆっくりドアを閉める。

そして、改めてソファに座ると、先ほど投げたペンに何かが引っかかっていることに気がつく。


「なんだ、これは…服の破片…か?」


オオクラはフッと笑みをこぼした。




「危なかった…勘のいい男ね。だけど言質はとったわ!あとはこれをBOSSに渡すだけ…」


見事にオオクラの悪事の証拠をつかんだエレナは、通路を急ぎ駆け抜ける。

そのまま城から抜け出し、城壁内に入ると、潜入に使った狭間を再び目指して、階段を駆け上がる。

半分ほど登り、通路に出ると、目的の小部屋が見える。
しかし、突然、エレナは急ブレーキをかけた。


「誰!?」


腰からダガーを抜き、構えるエレナ。
すると、暗がりからフードを被った背の高い人物が姿を現したのだ。


「こんばんは、ネズミさん。」

「ちっ…あんた、あたしが見えるわけ?」

「えぇ…珍しいスキルですね。」


口元で笑みを浮かべる目の前の敵に、エレナはイラ立ちと焦りを感じていた。


「…そこを通してくれる?」

「いいですよ。その手に持った物を渡してくれれば…」

「それもお見通しってわけね…」


エレナはダガーを握る手に力を入れた。
次の瞬間、火花が舞い散り、両者は再び下の位置に戻る。

一瞬の攻防。


「なかなかお早いのね。フフフ…」

「ちっ!なめてるわね…って、それは!?」


笑いながら指で摘んだ小さな石を、エレナに見せつけるフードの者。


「あら…これのこと?ただの石でしょ…どうしたの?そんなに焦って…」

「…っち。」

(いつの間に取られたのかしら…全くわからなかった…)


エレナは悔しげに、ギリッと歯を鳴らす。


「とりあえず、目的の物は頂いたのだけど…あなたは放っておくとめんどくさそう…」

「光栄ね!だったらどうするわけ……っ!?」


啖呵を切ろうとした瞬間、突然のめまいが襲ってきた。
真っ直ぐ立てずに膝をつくエレナ。


「あらあら…フラフラしてどうしたのかしら?大丈夫?」

「うるっ…さい…!」


グラつく視界の中、エレナはその場に倒れ込む。


(これは…奴の…スキル…なに…わから…な…)


閉じゆく視界には、フードの笑みが歪んで映っていた。





イノチは宿屋の高級ベッドに横になったまま、目の前に開かれたマップのウィンドウを見上げて眺めていた。

20畳ほどの広々とした部屋。

高級そうなソファとガラスで作られた透明なテーブル。
床には真っ白でフワフワな絨毯が敷かれており、その下の床も、大理石のように光沢を輝かせている。

その他のインテリアも、一つ一つ丁寧に手作りされた物であることがわかり、それだけで部屋の高級感がうかがえた。

エレナの"おかげ"で、素晴らしい温泉とディナー、そしてこのプレミアムルームを堪能させてもらっているイノチだが、その代償はあまりにも大きかった。

一泊一人150,000ゴールド。
三人でしめて450,000ゴールドである。

チェックインの際に、イノチは愕然としてしまった。
まぁ、過ぎたことは仕方ないのだが…

窓際に置かれたイスにアレックスが座り、開けた窓から夜空の星を眺めている。


「うわぁぁぁ♪BOSS♪見て見て♪お星さまがいっぱいだよ♪」

「あ…あぁ…」

「あぁ〜!BOSS、僕の話聞いてないでしょ!!」


話半分で返事をするイノチに、アレックスは頬を膨らませた。


「ごっ…ごめんごめん。今、エレナの状況を確認してたんだ。」

「エレナさんの…?」


エレナは現在、王城に潜入中。
その状況などイノチが知れるはずもないのだが…

アレックスは首を傾げ、イノチの横にくると、同じようにウィンドウを覗き込んだ。

そこには、どこかの部屋の設計図のような絵が描かれており、中央に赤い点と青い点が映し出されている。

よく見ると、赤い点はソファのような物に座っているようで、青い点はその反対の壁際で止まっている。

青い点の上には『エレナ(inv)』と書かれていて、赤い点の上には何も書かれていない。


「BOSS…これはなぁに?」


アレックスが首を傾げて、問いかけるとイノチは自慢げに答える。


「これはね、俺が開発したナビゲーションシステム!通称『ナビ』さ!」


その答えに対し、アレックスの頭にはハテナが浮かんでいた。

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