ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
35話 ウォタの強さ
「くそぉ!!くそっ!くそっ!」
必死に抵抗するフレデリカ。
「お前…なんかに…お前なんかに負けて…!!!」
苦しそうに顔を歪めるフレデリカを嘲笑うかのように、異形は無数の目をギョロギョロと動かしている。
そして、異形はそんな彼女の腹部めがけて、膝蹴りを放った。
「カッ…ハッ…」
「もうやめてぇ!!」
ミコトの懇願とは裏腹に、手を掴まれたまま、フレデリカの体が宙に浮く。
異形はニマァッと笑って、そのまま背負い投げのように地面へとフレデリカを叩きつけた。
「ぐっ…はぁ…」
たったの一撃、しかもただの膝蹴りで大きなダメージを受けたフレデリカは、もはや動くことすらできなかった。
異形はニタニタと笑いながら手を振り上げ、その形を変えていく。鋭く尖った形へと変貌したその手を見て、フレデリカは自分の最後を悟った。
声にならない悔しさを浮かべ、目をつむるフレデリカ。
振り下ろされる異形の凶刃。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「父さま、兄さま…ごめんなさい…」
ミコトの叫び声とともに、まぶたの裏に浮かんだ家族の顔に、謝罪の言葉をつぶやいた。
…が、いっこうに体を貫かれるような衝撃はない。
むしろ、体の前を通り抜ける風と、誰かが自分の前に立っている気配を感じて、ゆっくりと目を開けた。
「どうにか間に合ったのぉ。」
フレデリカの瞳には、見知らぬ男の背中が映し出されていた。
◆
ゼンが吹き飛ばされ、エレナが異形の一撃で沈んだのを見て、ウォタがイノチを急かす。
「イノチ、まずいぞ!エレナまでやられた!まだか!」
「もう終わる!これでよしっと!!どうだ!?」
「どれ!かぁぁぁ!!」
ウォタが魔力を込めると、水色のオーラが炎のように舞い上がる。
「うむ、問題ない!!」
「ウォタ!フレデリカがやばい!!」
その声に視線を上げれば、フレデリカが地面に叩きつけられ、異形がその手を変形させているところであった。
「ちぃぃぃっ!!イノチ!ミコトとエレナを頼むぞ!」
ウォタは駆け出すと同時に、体を大きく変化させた。
イノチはその状況を、固唾を飲んで見守っている。
すでに異形はフレデリカにトドメを刺す寸前だ。
(ウォタ…!頼む!!)
そう信じながら、フレデリカの様子を見ていたイノチだが、視線をウォタへと移した瞬間、見知らぬ男が映し出されて驚いた。
水色の長髪をなびかせて走る男。
一瞬、誰かわからなかったイノチは、男のある部分を見てそれがウォタだとすぐに気づいた。
(あの尻尾…!?あれがウォタ…!?)
臀部から揺らめく尻尾。
異形の凶刃がフレデリカを貫く寸前、ウォタは間一髪のところで、異形に対して横薙ぎにその尻尾を叩き込む。
一直線に壁へと突っ込み、砂ぼこりを巻き上げる異形を見据えるウォタ。
「どうにか間に合ったのぉ。」
「ウォ…ウォタ…さま…?」
「しゃべらんでいいぞ。少しそこで休んどれ…すぐ終わるからな。」
「ありがとう…ございます。しかし、そのお姿は…」
「あぁ、これか?これはいわゆる"覚醒"状態の姿だ…あまり見せたくなかったがな。お前らが死んでは意味がないからのぉ…ちょっとだけサービスだ。」
二人がそこまで話すと、瓦礫を押し上げながら異形が姿を現した。
特にダメージは受けてなさそうだが、いままでギョロギョロと不規則に動いていた無数の目は、その全てがウォタを見据えており、明らかに警戒していることがわかる。
「話はあとでだな。イノチ!フレデリカも回復してやれ!」
その言葉にうなずき、フレデリカを回収に向かうイノチ。
それを確認したウォタは、異形の前へとゆっくりと飛び移った。
フレデリカは失いゆく意識の中で、ウォタの背中を見ていた。
「さて…そろそろ終わりにしようではないか。お主も、もう休め。」
異形はギョロギョロと無数の目を動かしているが、その動きは不服そうにも見える。
「…では、殺ろうか。」
裸足の足を前後に広げ、腰を落として構えるウォタ。
対して異形は、無数の目をギョロギョロと動かして、不規則な挙動をしている。
「いざ…!!」
そうこぼした瞬間、ウォタが消えた。
異形はその姿を見失い、ギョロギョロと目を動かしている。
すると突然、頭部に衝撃が走り、真横に吹き飛ばされた。
ウォタの蹴りが異形の頭部を撃ち抜いたのだ。
そのまま、ウォタは一直線に吹き飛んだ異形の後を追うと、疾風の如きスピードで回り込み、今度は右ストレートを撃ち込んだ。
ウォタの踏み込んだ足が地面にめり込む。
異形の体が、くの字に折れ曲がった。
ミチミチッと体組織か筋繊維が断裂するような音を立てながら、異形は逆方向へと吹き飛ばされていく。
ウォタは再び、その後を追いかける。
ミコトとともにエレナたちを安全な場所に移動させていたイノチは、その様子を呆然と眺めていた。
開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だろう。
イノチが口を開いたまま、その一方的な死合いを見つめているとエレナたちが意識を取り戻した。
「うぅ…」
「…くっ」
「二人とも!気がついたんだね!よかったよぉ…ひっく…」
目を覚ました二人に駆け寄り、涙ぐむミコト。
「エレナ!フレデリカも!よかった、ポーションが効いたな!」
「BOSS…?なんで…って!あいつは!?『ウィングヘッド』はどうなったの!?」
「安心しろ。ウォタが相手してるよ。」
イノチが親指で指さした方を見れば、そこには立てなくなり這いつくばる異形と、見知らぬ長髪の男性が立っている。
「誰よ…あれ。」
「ウォタだよ…」
「…あれが?…ウォタ?」
「そうみたい。驚くよな、そりゃ…俺も驚いた。」
ふらつきながら立ち上がる異形に、容赦なく攻撃を撃ち込んでいくウォタ。
「あいつ…あんなの隠してたのね。まぁ神獣だし、それぐらいは当たり前か。」
「それは違いますわ…」
「え…?」
ウォタを見たまま、そうつぶやいたフレデリカに、エレナは顔を向けた。
ミコトとイノチもフレデリカを見ている。
「あれは"覚醒体"と言われるお姿ですわ。わたくしも小さいときに聞かせてもらった昔話ですが、長く生きた竜種は覚醒する…そう言われているのですわ。」
「"覚醒体"…すごいなぁ。まるでチートだな…てか、それならゼンさんもなれるんじゃないの?」
「それはわかりませんですわ。どれだけ長く生きればなれるのかは、わたくしも知りませんから。」
「私はまだなれん…」
「ん?」
「ゼンちゃん!!」
その声に一同が振り向けば、そこにはボロボロになったゼンの姿があった。
ミコトは急いでポーションをゼンに与える。
「ミコト、すまぬ…」
「ゼンちゃんも無事で、ほんとに良かった…うぅ…」
「心配かけたな…」
再び涙ぐんでいるミコトの頭をなでているゼンに、イノチが声をかける。
「一時はどうなるかと思ったけど、ゼンさんのおかげで助かったよ。ありがとう!」
「あぁ…皆も大事なく何よりだ。」
少し歯切れ悪くうなずくゼンの様子に気づいたイノチは、眉をひそめた。
そんなことにはお構いなしに、ゼンの瞳には水色の長髪をなびかせる男の背中が、映し出されているのであった。
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