ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
17話 フレデリカと竜種②
ドラゴニュートたちが住まう地域は、『ヒダ』と呼ばれる場所に位置していた。
海を渡ってくる季節風が雪を降らせるため、冬は凍えるほど寒いが、その分、夏場は冷涼で過ごしやすい気候的特性の地域である。
しかも、里を囲うような形で、北側には標高の高い多くの山々が連なり、南側にはいくつかの火山が腰を据えている。
それらの険しい山々や冬の豪雪などから、ヒューマンには避けられる地域であったため、彼らが静かに暮らすのに最適な場所でもあった。
「…バレたらどんだけ怒られるかしら。」
「うちは母ちゃんに磔の刑にされるかもな…」
フレデリカとカルロスは笑い合いながら、薄暗く草木が鬱蒼と茂る森の中を静かに進んでいた。
人の通った形跡などなく、獣のみが通るような道をカルロスを先頭に進んでいく二人。
目指すはこの先にある小さな泉だった。
・
里で会った際にカルロスから受けた提案。
「鹿を狩りに行くぞ!」
彼はフレデリカにそう告げた。
もともと里の外に出て鹿や猪などを狩りに行くことは、彼ら一族にとってはよくある生活の営みの一つだ。
それらの肉は家畜以外の食用肉として重宝されている。
実際に、フレデリカも兄のロベルトとともにこれまで何度も狩りに行っているわけだし、今日もその予定だったのだ。
ただし、子供だけで里の外に出ることは、掟で固く禁じられていて、それを破れば厳しい罰が待っている。
また、里の北と南にある門には門番が常にいるし、里の周囲も背の高い柵で囲われ、そこには感知魔法がかけられている。
ネズミ一匹通さない厳重さであるため、フレデリカたちのような子供が簡単に抜け出せるような代物でもないのだが…
フレデリカは小さくため息をつく。
「あんたがそれだけ自信持って言うってことは、あれが完成したということです?」
「あぁ!そういうこった!」
カルロスは鼻を高くして、大きくうなずいた。
ドラゴニュートは魔法の知識が深い。
そして、錬金術にも長けている種族だ。
本来、錬金術とは狭い意味で捉えれば、化学的手段で卑金属を貴金属へと精錬することを指す。
だが、広く解釈すれば、金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成する試みを指している。
ドラゴニュートはもちろん後者の錬金術を扱うことができる。ただし、人体の錬成…特に魂の錬成は除いてだが…。
とにかく、彼らは素材と知識さえあれば、どんなものでも作ることができたのだ。
他種族との交流を隔絶した暮らしの中で、高い水準の生活が送れているのは、なにより彼らの"錬金術"という能力のおかげなのである。
中でもカルロスは、特に頭が良く様々な道具を多く作り出してきた。
汚れた水をきれいにする蒸留機や鉱石から抽出した水銀を使った水銀灯など、大人でも驚く発想で里に貢献しているのだ。
人は皆、彼を神童と呼んだ。
「ということで、フレデリカ!今からうちに来い!」
「そういうことなら断る理由は無いですわ。」
フレデリカはカルロスの後を追う。
カルロスの家に着くと、彼の母マーサが出迎えてくれた。
「あら、フレデリカ。今日はロベルトと狩りに行くんじゃなかったの?」
「急用でドタキャンされたですわ。」
「そう…珍しいわね、あのロベルトが。」
「父さまの手伝い…という策略に…」
「あぁ、そういうことね。ゼルスも早く後を継がせたいのね〜」
苦笑いするマーサに対して、フレデリカは小さくため息をついた。
「おい!フレデリカ!早く来いよ!」
2階からカルロスが呼んでいる。
「ロベルトももうすぐ20歳だからね…怒らないであげなさいな。」
マーサはそう言うと、仕事道具を持って外へ出て行ってしまった。再びため息をついて、フレデリカは2階への階段を踏み出した。
「これだ、これ!」
カルロスは棚から小さなリングを二つ持ち出してきた。
青く小さな宝石が、一つだけついている小さな指輪。
「これは"ブルークォーツ"?」
「おっ!よく知ってるな!」
「それくらい当たり前ですわ。普通のクォーツやレッドクォーツに比べてなかなか採れない希少石ですもの。」
フレデリカは、指輪についた透き通った青い水晶を見ながらそう説明する。
「この前、父さんと山に鉱石を取りに行ったとき、たまたま手に入れたんだ。フレデリカ、お前レッドクォーツの特性知ってる?」
「あんた、相変わらずそういうことの運は強いですわ…えっと…確かレッドクォーツの特性は、安定・忍耐・活性…だったかしら。」
「その通り!じゃあ、この"ブルークォーツ"の特性はなんだと思う?」
「そんなの知らないですわ。直接見るのは初めてですもの…」
その言葉にカルロスはニンマリと笑う。そして、ちょっと自慢げに説明を始めた。
「へへへ…こいつの特性は単純さ!レッドクォーツと正反対!」
「ということは、不安定・不活性ってことですの?」
「そうさ!ブルークォーツはその特性から魔力の波動を乱しやすい鉱石として知られているんだ。そして、そのブルークォーツとミスリルを使って、この指輪がやっと完成した!ここまで長かったぜ…他の鉱石じゃ、なかなか成功しなかったんだからなぁ…!」
カルロスは涙を流しながら、嬉しそうに笑った。
そして、フレデリカへ二つあるうちの一つを差し出した。
「だから、これを使えば"あれ"も妨害できるはずってこと!」
「なるほど…この指輪で"あれ"を妨害して抜け出す、というわけですわね。」
その言葉にカルロスはニンマリと笑う。
二人の言う"あれ"とは、里の周りに張り巡らされた柵にかけられた感知魔法のことだ。
里の外に出るには門を通るか、柵を超えるしかない。
しかし、門番がいる南門と北門からは抜け出すことは難しい。
そこでカルロスは、感知魔法に引っかからず柵を飛び越える方法を考えたというわけだ。
「試験は?したのですか?」
「そんな暇なんてなかったさ。だって昨日の夜にできたんだしな。」
「即実践とは、あんたらしいですわ。失敗すれば1週間は外出不可ですわ。」
「それで済めばいいけどな…」
乾いた笑みを浮かべるフレデリカに対して、他人事のように笑うカルロス。
肩をすくめてため息をつくと、フレデリカはカルロスに視線を戻す。
「まぁ、こそこそ試してからというのも性に合わないですわ。」
「そうこなくっちゃ!!」
カルロスは大きく笑うと、フレデリカに向かって親指を立てるのであった。
・
・
「そろそろだぜ。」
カルロスがそう言って振り返り、親指で前を指さした。
その先に森の切れ目が見えており、先は少し明るくなっている。
草木をかき分け、そのまま森の切れ目から外へと抜け出せば、目の前には広々とした泉が姿を現した。
泉の大きさは一畝(100㎡)くらいの大きさで、その部分だけすっぽりと抜けたように木が無くなっている。
カモなどの鳥たちの姿があり、野生動物たちの憩いの場となっているようだった。
「事前に調べた情報では、ここに姿を現すらしい。」
「なら、ここで少し待ちましょう。」
フレデリカたちは茂みの中に姿を隠して、獲物が来るまで待つことにした。
そして、半刻ほどが経った。
「…フレデリカ、きたぞ、やつだ。」
小声で話すカルロスが指さす方へ視線を向けると、水を飲む大型の獣の姿がそこにはあった。
『オオヘラツノジカ』
体長3メートルほどの巨躯と、頭に備わる長く大きな角が特徴的であるその鹿は、この『ヒダ』地方に生息する固有種である。
「よし…どちらが先に撃つ?」
「もちろん、わたくしですわ。」
その言葉にカルロスは肩をすくめて身を引いた。
フレデリカは狙いやすい位置に移動すると、静かに魔法陣を発動する。
「紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力、風の刃となり、我に仇なすものを貫け!」
詠唱し、その手を『オオヘラツノジカ』へ向け、結びの言葉を唱える。
「ファイア・アロー!」
フレデリカの右手から放たれた炎の矢は、一直線に『オオヘラツノジカ』へと飛んでいく。
その軌道を追うフレデリカは、標的の首筋を貫くと確信していた。
しかし、フレデリカとカルロスが次に目にしたのは、驚くべき光景だった。
海を渡ってくる季節風が雪を降らせるため、冬は凍えるほど寒いが、その分、夏場は冷涼で過ごしやすい気候的特性の地域である。
しかも、里を囲うような形で、北側には標高の高い多くの山々が連なり、南側にはいくつかの火山が腰を据えている。
それらの険しい山々や冬の豪雪などから、ヒューマンには避けられる地域であったため、彼らが静かに暮らすのに最適な場所でもあった。
「…バレたらどんだけ怒られるかしら。」
「うちは母ちゃんに磔の刑にされるかもな…」
フレデリカとカルロスは笑い合いながら、薄暗く草木が鬱蒼と茂る森の中を静かに進んでいた。
人の通った形跡などなく、獣のみが通るような道をカルロスを先頭に進んでいく二人。
目指すはこの先にある小さな泉だった。
・
里で会った際にカルロスから受けた提案。
「鹿を狩りに行くぞ!」
彼はフレデリカにそう告げた。
もともと里の外に出て鹿や猪などを狩りに行くことは、彼ら一族にとってはよくある生活の営みの一つだ。
それらの肉は家畜以外の食用肉として重宝されている。
実際に、フレデリカも兄のロベルトとともにこれまで何度も狩りに行っているわけだし、今日もその予定だったのだ。
ただし、子供だけで里の外に出ることは、掟で固く禁じられていて、それを破れば厳しい罰が待っている。
また、里の北と南にある門には門番が常にいるし、里の周囲も背の高い柵で囲われ、そこには感知魔法がかけられている。
ネズミ一匹通さない厳重さであるため、フレデリカたちのような子供が簡単に抜け出せるような代物でもないのだが…
フレデリカは小さくため息をつく。
「あんたがそれだけ自信持って言うってことは、あれが完成したということです?」
「あぁ!そういうこった!」
カルロスは鼻を高くして、大きくうなずいた。
ドラゴニュートは魔法の知識が深い。
そして、錬金術にも長けている種族だ。
本来、錬金術とは狭い意味で捉えれば、化学的手段で卑金属を貴金属へと精錬することを指す。
だが、広く解釈すれば、金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成する試みを指している。
ドラゴニュートはもちろん後者の錬金術を扱うことができる。ただし、人体の錬成…特に魂の錬成は除いてだが…。
とにかく、彼らは素材と知識さえあれば、どんなものでも作ることができたのだ。
他種族との交流を隔絶した暮らしの中で、高い水準の生活が送れているのは、なにより彼らの"錬金術"という能力のおかげなのである。
中でもカルロスは、特に頭が良く様々な道具を多く作り出してきた。
汚れた水をきれいにする蒸留機や鉱石から抽出した水銀を使った水銀灯など、大人でも驚く発想で里に貢献しているのだ。
人は皆、彼を神童と呼んだ。
「ということで、フレデリカ!今からうちに来い!」
「そういうことなら断る理由は無いですわ。」
フレデリカはカルロスの後を追う。
カルロスの家に着くと、彼の母マーサが出迎えてくれた。
「あら、フレデリカ。今日はロベルトと狩りに行くんじゃなかったの?」
「急用でドタキャンされたですわ。」
「そう…珍しいわね、あのロベルトが。」
「父さまの手伝い…という策略に…」
「あぁ、そういうことね。ゼルスも早く後を継がせたいのね〜」
苦笑いするマーサに対して、フレデリカは小さくため息をついた。
「おい!フレデリカ!早く来いよ!」
2階からカルロスが呼んでいる。
「ロベルトももうすぐ20歳だからね…怒らないであげなさいな。」
マーサはそう言うと、仕事道具を持って外へ出て行ってしまった。再びため息をついて、フレデリカは2階への階段を踏み出した。
「これだ、これ!」
カルロスは棚から小さなリングを二つ持ち出してきた。
青く小さな宝石が、一つだけついている小さな指輪。
「これは"ブルークォーツ"?」
「おっ!よく知ってるな!」
「それくらい当たり前ですわ。普通のクォーツやレッドクォーツに比べてなかなか採れない希少石ですもの。」
フレデリカは、指輪についた透き通った青い水晶を見ながらそう説明する。
「この前、父さんと山に鉱石を取りに行ったとき、たまたま手に入れたんだ。フレデリカ、お前レッドクォーツの特性知ってる?」
「あんた、相変わらずそういうことの運は強いですわ…えっと…確かレッドクォーツの特性は、安定・忍耐・活性…だったかしら。」
「その通り!じゃあ、この"ブルークォーツ"の特性はなんだと思う?」
「そんなの知らないですわ。直接見るのは初めてですもの…」
その言葉にカルロスはニンマリと笑う。そして、ちょっと自慢げに説明を始めた。
「へへへ…こいつの特性は単純さ!レッドクォーツと正反対!」
「ということは、不安定・不活性ってことですの?」
「そうさ!ブルークォーツはその特性から魔力の波動を乱しやすい鉱石として知られているんだ。そして、そのブルークォーツとミスリルを使って、この指輪がやっと完成した!ここまで長かったぜ…他の鉱石じゃ、なかなか成功しなかったんだからなぁ…!」
カルロスは涙を流しながら、嬉しそうに笑った。
そして、フレデリカへ二つあるうちの一つを差し出した。
「だから、これを使えば"あれ"も妨害できるはずってこと!」
「なるほど…この指輪で"あれ"を妨害して抜け出す、というわけですわね。」
その言葉にカルロスはニンマリと笑う。
二人の言う"あれ"とは、里の周りに張り巡らされた柵にかけられた感知魔法のことだ。
里の外に出るには門を通るか、柵を超えるしかない。
しかし、門番がいる南門と北門からは抜け出すことは難しい。
そこでカルロスは、感知魔法に引っかからず柵を飛び越える方法を考えたというわけだ。
「試験は?したのですか?」
「そんな暇なんてなかったさ。だって昨日の夜にできたんだしな。」
「即実践とは、あんたらしいですわ。失敗すれば1週間は外出不可ですわ。」
「それで済めばいいけどな…」
乾いた笑みを浮かべるフレデリカに対して、他人事のように笑うカルロス。
肩をすくめてため息をつくと、フレデリカはカルロスに視線を戻す。
「まぁ、こそこそ試してからというのも性に合わないですわ。」
「そうこなくっちゃ!!」
カルロスは大きく笑うと、フレデリカに向かって親指を立てるのであった。
・
・
「そろそろだぜ。」
カルロスがそう言って振り返り、親指で前を指さした。
その先に森の切れ目が見えており、先は少し明るくなっている。
草木をかき分け、そのまま森の切れ目から外へと抜け出せば、目の前には広々とした泉が姿を現した。
泉の大きさは一畝(100㎡)くらいの大きさで、その部分だけすっぽりと抜けたように木が無くなっている。
カモなどの鳥たちの姿があり、野生動物たちの憩いの場となっているようだった。
「事前に調べた情報では、ここに姿を現すらしい。」
「なら、ここで少し待ちましょう。」
フレデリカたちは茂みの中に姿を隠して、獲物が来るまで待つことにした。
そして、半刻ほどが経った。
「…フレデリカ、きたぞ、やつだ。」
小声で話すカルロスが指さす方へ視線を向けると、水を飲む大型の獣の姿がそこにはあった。
『オオヘラツノジカ』
体長3メートルほどの巨躯と、頭に備わる長く大きな角が特徴的であるその鹿は、この『ヒダ』地方に生息する固有種である。
「よし…どちらが先に撃つ?」
「もちろん、わたくしですわ。」
その言葉にカルロスは肩をすくめて身を引いた。
フレデリカは狙いやすい位置に移動すると、静かに魔法陣を発動する。
「紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力、風の刃となり、我に仇なすものを貫け!」
詠唱し、その手を『オオヘラツノジカ』へ向け、結びの言葉を唱える。
「ファイア・アロー!」
フレデリカの右手から放たれた炎の矢は、一直線に『オオヘラツノジカ』へと飛んでいく。
その軌道を追うフレデリカは、標的の首筋を貫くと確信していた。
しかし、フレデリカとカルロスが次に目にしたのは、驚くべき光景だった。
コメント