ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
11話 できること
ミコトたちは破竹の勢いでダンジョンの攻略を進めていた。
現在、20階層。
『超上級ダンジョン』は今までのダンジョンとは違い、階層ボスは5階層ごとに出現するようだ。
各階層で襲いくるモンスターは、エレナとフレデリカ、そしてゼンが薙ぎ払っていく。
しかし、ミコトはというと…
「ミコト!魔法を頼む!」
「えっ…ええっと…あれ…?」
「ボサっとしてないで!フレデリカ、カバーお願い!!」
「まかせろ…ですわ!紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力を持って、我らに仇なすものを灰塵に帰せ!インフェルノ・フレアァァァァ!!」
フレデリカの魔法陣から放たれた轟炎が、トロールとアイアンゴーレムたちを包んでいく。
地獄の業火に焼かれ、大きく響き渡るモンスターたちの断末魔。
ミコトはつい耳を塞いでしまった。
肉の焼け焦げた臭いと鉄の溶けた熱気があたりに蔓延している。
「うっ…!」
真っ黒に焼き上がったトロールの死骸。
ドロリと落ちた目玉が見えて、ミコトは吐き気をもよおしてしまう。
「ミコト…大丈夫か?」
「うっ…うん…大丈夫だ…うっ!」
ゼンがミコトに寄り添い、声をかけている。そんなミコトを見て、エレナはため息を吐いた。
「ミコト…大丈夫かしら…」
「あの様子だとまだまだですわ。」
「そうね…まぁ、確かに初体験の時は躊躇するもんだから、気持ちはわかるんだけど…」
「覚悟が足りないのですわ…あの子には…」
「あんた…けっこうスパルタ派なのね。」
腕を組んでそっぽを向くフレデリカに、エレナは苦笑いを浮かべた。
そして、しゃがみ込んだミコトに近づく。
「ミコト…?大丈夫?もうすぐ階層ボスが現れるけど、どうする?
「……」
「…エレナ、ミコトは少し休ませる。階層ボスは任せていいか?」
答えられないミコトに代わって、ゼンがエレナへ言葉を返す。
「えぇ…わかった。二人は少し離れたところで見といてもらえる?」
「あぁ…頼む…」
ゼンに連れられて離れていくミコトの背中を見送ると、エレナはフレデリカの元へと戻る。
「出てきましたわ。」
前をジッと見据えるフレデリカが、顔を向けることなくエレナに声をかけた。
広いフロアの中心に現れた一つの大きな影は、歩く度にその質量を強調している。
額には2本の角、口には鋭いキバがあり、瞳は赤黒く光っている。
筋肉質な体と両手に持つ血痕付きのナタのような武器が、力強さと残虐さを明確にしている。
「あいつは…オーガね。で、やり方は?」
「いつも通りですわ。」
「あんたに譲ってばかりなのは癪だけど…BOSSとはぐれている今、わがままは言ってられないか…」
エレナは、腰から引き抜いた2本の短剣を、クルクルと回転させて逆手に持ち替えると、疾風のごとくその場から駆け出した。
フレデリカも魔力を練り、エレナとの連携に備える。
「まずはお手並み拝見ね!はぁぁぁぁ!」
金属の乾いた音がする。
エレナが放った斬撃を、オーガはナタをクロスさせて防御すると、そのままとてつもない俊敏さで自分の後ろに向き直る。
そして、後方に駆け抜けたエレナに向かってナタを振り下ろした。
エレナはバク転してそれを回避すると、その流れのまま両手のダガーで斬撃を叩き込む。
「ガァォォォォ!!」
肩から血飛沫を飛ばしてうめき声をオーガに対して、立て直す暇すら与えないほどの連撃を繰り出すエレナ。
オーガもナタを振り回し、なんとか応戦しようとするが、エレナの攻撃は全てその間を縫って、自分への体へと襲いかかってくる。
おおよそ1分強の攻防で…いや、一方的な攻撃でオーガは体中から血を垂れ流して満身創痍の状態となる。
「フレデリカ!あとはよろしく!!」
「あいあい!ですわ!」
エレナの掛け声にフレデリカは呼応すると、練っていた魔力を撃ち放つトリガーを口にする。
「轟雷を操りし天の主よ、その力、一条の光となりて…」
フレデリカの周りに、チチチッと黄色い閃光が走り始める。桜色の髪もそれに合わせるように逆立ち始めた。
そして…
「彼の者に降り注がん!!ライトニングボルト!!!」
詠唱と共に一筋の光りがオーガに向かって駆け抜ける。
直撃した瞬間、オーガの体中に電撃が走ると、皮膚を焼く焦げた臭いとともに大きな悲鳴があたりにこだました。
「ギャオォォォォォォォ!!!!」
体の外側と内側から焼き尽くす電撃に、紅い蒸気が空中を霧散する。
なす術なく、真っ黒な塊に成り果てたオーガは、ナタを落とすと膝から崩れ去った。
「いっちょ上がりね。よっと!」
光の粒子となり、消えていくオーガの死骸の跡にドロップしたキバを取り上げ、エレナはフレデリカと共にミコトたちのところへと向かう。
「ミコト…気分はどう?」
「うん…大丈夫。みんなごめんね。」
「気にしないで。誰にでも初めては怖いものよ。でも、やらなきゃ死ぬってことだけは絶対忘れないでね。」
「う…うん…」
力なくうなずくその姿を見て、エレナは何も言わなかった。
すると、代わりにフレデリカが口を開く。
「ミコト…あなた、まだ自分のことしか考えられないのですか?」
「え…?」
「ちょっと…フレデリカ?」
突然の厳しい言葉に、ミコトはフレデリカを見上げる。
「あなたは、自分のことだけ考えていればそれで満足ですの?あなたが死ねば、おそらくゼン様も死ぬ。それを考えたことは?」
「フレデリカ…!それは言い過ぎよ!!ミコトだって…」
「エレナは黙っていなさい!!」
いつもは飄々としているフレデリカが珍しく怒っている。その事に驚いたエレナは、反論できない。
「確かにあなたの命は一人のものではなくなった。けれど、あなたにはゼン様のことを考える義務があるのですわ!それをネチネチと…一人で考え込んで!」
「で…でも、私が戦わなければ、ゼンちゃんも安全で…」
「なにを戯けたことを!ゼン様の強さはあなたのランクに比例することを忘れたのですか?あなたが強くならねば、ゼン様も強くはなれない。それがどういうことか…ミコト、あなたならわかるでしょう?」
「……」
ミコトは、それ以上口を開かない。
フレデリカはそれでもなお、話を続ける。
「BOSSの必死さが、あなたには伝わっていないの?…あなたに対して…わたくしたちに対して…BOSSは常に最善を尽くそうと必死に考えている。それが伝わっていなくて!?」
「イノチ…くん…の?」
イノチの名前を聞いて、ミコトが反応を示した。今度はフレデリカの横から、エレナが口を開く。
「BOSSも現実を知ったとき、ひどく落ち込んだのよ。過去のトラウマに…悪夢にうなされて…」
「だけど、すぐに立ち直った。立ち直って、生き残り元の世界に戻ろうと必死に足掻いている、ですわ。」
「イノチくん…が…」
ミコトは小さくつぶやいた。
目を閉じれば、イノチの顔が浮かんでくる。
常に笑っているイノチ。
辛い表情など一切見せたことがない、彼のその明るさの裏には、いったいどれだけの重圧がのしかかっているのか、ミコトには計り知れなかった。
ミコトは顔を上げる。
「ごめんね…私が間違ってたね。私がイノチくんを支えてあげなきゃならないのに。同じプレイヤーとして、1番気持ちがわかるはずなのに…」
「無理はする必要ないですわ。別に戦えないことを責めているわけではないですもの。」
「フレデリカさん…ありがとう。」
腕を組んだまま鼻を鳴らすと、フレデリカは次の階層への階段へと向かっていく。
エレナも小さく笑うと、その後を追った。
ミコトは手に持つ『エターナル・サンライズ』を握りしめる。
自分にできること…
それを考えながら立ち上がり、二人の後を追った。
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