ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
59話 地を這うあいつの名は…
3階層へ足を踏み入れたイノチたち。
そこは、1階層、2階層とは少し感じが違っていた。階段が終わると、少し整った石畳が通路に敷き詰められている。
壁や天井はきれいに整った石造りだが、ダンジョンらしく、ところどころに植物の蔓が伸びている。
壁に等間隔に並ぶ松明も、青ではなく黄色に変わっている。
青ときて、黄色ならば…
階層の難易度は、これで計るということだろうとイノチは思った。
真っ直ぐ伸びる通路は今までと一緒。
この先に広間があるのだろう。
イノチが一歩を踏み出そうとしたその時、エレナが手を出して制止する。
「…BOSS、ここからは通路でも気を抜けないみたいよ。」
「…てことは…」
「えぇ…いるわ。」
エレナは鼻をクンクンと動かして、敵の位置を把握しようとしている。
「…生くさい臭い…少しずつ近づいてきてる。」
イノチはミコトの前に立ち、腰にかけた鞘から剣を抜き放つ。
その場の全員に、緊張感が広がっていく。
「来たわ!!」
エレナが声を上げる。
すると、石造りの壁の隙間から、地を這う虫型のモンスターが姿を現したのだ。
「げぇぇぇ!!!」
「ひゃうっ!!!」
「げぇ…ですわ…」
「ぎゃあっっっ!!!!!!」
その姿に、四人は声を上げて後退りする。
そう…
そのモンスターは、人ならば誰もが恐れおののく『G』と同じ姿だったのだ。
想像してもらえれば、そのおぞましさは伝わるだろう。『G』の姿で中型犬ほどの大きさのモンスターが地を這う姿を…
ミコトはイノチの後ろで震え、フレデリカですら青い顔を浮かべている。
そういえば虫嫌いのエレナは…
心配に思い、イノチはあたりを見渡すがどこにもいない。
すると上の方から大きな声が聞こえてくる。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!ぎゃあぁぁぁ、来るな来るな!!!虫ぃぃぃ嫌ぁぁぁ!!!」
この一瞬で、どうやってあそこまで登ったのだろう。
天井からぶら下がった太い蔓にしがみつき、ダガーを振りわまして泣き叫んでいるエレナの姿があった。
その間にもモンスターたちは、カサカサと警戒しながらも、イノチたちに近づいてくる。
その数も少しずつ増えてきているようだ。
「やっ…やべぇな…こいつら、数がどんどん増えてきてる…エレナはあんな状態だし…どうしよう…」
「BOSS…わたくしも嫌ですわよ。こいつら触るのは…」
「えっ…!お前もかよ…」
フレデリカも、珍しく嫌そうな顔を浮かべている。
キチチチチッと羽を鳴らし、威嚇してくる虫型モンスターたち。
どうしようかとイノチが迷っていると、ミコトの首飾りからゼンが顔を出した。
「何を騒いでいるのかと思えば、コックローチじゃないか…君らはこんなものが怖いのか?」
「ゼッ…ゼンちゃん!」
「仕方ないな…ほれ。」
その瞬間、ゼンの口からゴウッと炎が放たれ、一番前にいたコックローチに当たった。
苦しみ、のたうち回る仲間の姿に、他のコックローチたちは後ずさりする。
「失せろ…ザコが…」
最後にゼンがそう言って睨みつけると、コックローチたちはそそくさと壁の隙間に逃げて行く。
目の前に残っていた、焼け焦げたコックローチの死骸をゼンが踏みつけると、それは光の粒子となり消えていった。
「ゼッ…ゼンさん、ありがとう!」
「大したことじゃない…しかし、先ほどもそうだったが、たかが虫ごときで…」
イノチがお礼を言うが、ゼンは少し不満気だ。ため息を小さくついて、みんなを見ている。
「ゼンよ…仕方なかろう。」
「…何が仕方ないのだ?」
イノチの首飾りから姿を現したウォタが、ゼンに声をかける。
「こやつらは人間だ…我らとは違う。竜種の常識で考えてはいかんぞ。」
「君にしては珍しいな…唯我独尊の塊だったような君が…」
「我も学んだのよ。人間は確かに弱いが侮ることはできん…その弱さを強さに変えるのが、こやつら人間の凄さだからな。」
ゼンは言っていることがわからないといった表情を浮かべている。
「まぁ、そのうちわかる。それにお主こそ、人間であるミコトに召喚され、従っておるではないか。」
「……」
ゼンはミコトを見ると、「確かに…」と小さく笑う。
彼女といるとどこか落ち着く自分がいる。
彼女は、自分にとって守るべき存在であることは間違いない。
「あっ…あの…ウォタ…?」
「おう…イノチ、すまぬな。竜種はプライドが高くての…特にこのゼンはな。そのプライド故に、我らは自分の物差しで測りすぎるところがあるから、理解できないことがあるとよく苛立つ…」
「理解できないことって…」
「今回で言えば、お主らがコックローチ相手にとった態度だな!お主らの言葉で言うと…ビビり過ぎだろってことだ!」
「まぁ…それは確かにそうなんだが…」
イノチは申し訳なさそうに頭をかく。そんなイノチにウォタは近寄り、小さく話しかける。
「ミコトにはいつ話すんだ?」
「何をだよ…」
「タケルとかいう小僧に聞いた話だ。」
「……」
イノチはその言葉に、無言のままだ。
「早めが良いぞ…遅くなればそれだけショックも大きい。」
「…うん、わかってる。」
「エレナたちも理解しておるからこそ、慎重に動いとる。なにせ、お主が死ねば自分たちも消えるのだからな。」
「わかってるよ…ゼンはそれを知らないからって事だろ?」
ウォタはコクリとうなずくと、首飾りに戻っていく。そして、最後に顔を出し、一言告げる。
「伝え方には気をつけろ。ゼンは竜種で最強だが、まだ若い。プライドも高く、まだまだ頭が固いからな。」
ウォタはそう言って消えていった。
◆
パタンッとドアが閉まる。
モニタールームに戻った女性は、イスに座ると大きなため息をついた。
「ふぅぅぅ…まさかあの方までいらっしゃるなんて…久々に疲れたわ。」
モニターには、ダンジョン攻略を進めるイノチたちの姿が映し出されている。
「リュカオーンのことはなんとか誤魔化せたからいいけど…まさか"アレ"を始めようだなんて…上の方たちも暇を持て余しすぎてるわ…」
デスクに置いてある冷めたコーヒーを口にしながら、女性はイノチを見つめている。
「少し早いけど、一度会っておいた方がいいわね…さて、それならまずは…」
女性はそう言って、キーボードに指を走らせる。
〈!up world〉
〈Authority;code zeus〉
〈Special Athy code = ※※※※〉
〈exceed one's competence = "※※※"〉
女性の瞳には、大量のソースコードのようなものが映し出されていく。
それらを目でなぞりながら、キーボードをたたいていく。
…
〈contact is made ="inochi"〉
〈A place is designated = "ise"〉
〈The form = ……〉
…
最後に音を鳴らしてエンターキーを叩くと、女性はイスにもたれかかった。
「これでいいわ…バレたら死ぬわね…フフフ」
コックローチにビビりまくっているイノチたちの姿を見て、女性は笑みをこぼすとイスから立ち上がった。
そして、そのまま無言で部屋を後にする。
女性が出ていった後、部屋のドアが閉まると、イノチたちを映していたモニターたちがひとつずつ消えていく。
最後に中央のモニターだけが残る。
そこには、イノチだけが大きく映し出されていた。
プツンッ…
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