ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

37話 これはゲーム…


「だっ…大事なこと…?」

「そう…君にとって、とても大事なことだね。どうする?聞くかい?」

「……」


タケルの言葉にイノチが考えていると、見かねたエレナが口火を切った。


「正直…あんた、胡散臭いのよね…リュカオーンとの戦いの前から、あたしたちを監視してたじゃない。」

「そうですわ…なぜ、あのタイミングだったのです?もっと早く出てくるべきではなかったのでは?」

「え…?そうなの…?」

「そもそもフードを外さないのも信用ならないわね!」


タケルを指さすエレナとフレデリカの話を聞いて、イノチは驚く。

確かにイノチたちにとって、非常に素晴らしいタイミングで三人が現れたのは間違いない。

マンガやアニメで言えば、まるでヒーローが遅れてやって来たように、イノチたちのピンチを救ってくれたのだ。

しかし、そんなのはマンガやアニメだからであって、現実じゃ普通あり得ない。

…状況を逐一把握していない限りは。

イノチはチラリとタケルを見た。


「…おっと、そうだったね。」


タケルはフードの下で、苦笑いを浮かべているようだった。両手を前に上げ、弁解するようにフードを外して顔を見せる。


「とりあえずはこれでいいかな?僕らが君らを監視してたのにも、一応理由はあるんだよ…」

「あら…」

「イケメンですわ…」


タケルの顔を見たエレナとフレデリカが、女の顔をなるのをイノチは見ていた。

イノチと同じで黒髪ではあるが鼻は高く、二重の目には綺麗な茶色がかった澄んだ瞳。

イノチの感想は、一言で"整っている"であった。

エレナとフレデリカがキャッキャッと話しているのを見て、イノチはため息をついて二人を止めようとしたその時、タケルの前にサリーが立ち塞がった。


「我がBOSSに、そのような下賤な視線を向ける事は許しません…」

「…なによ、少し見るくらいいいじゃない!」

「そうですわ…別に減るものでもないのですから!」


クールビューティー vs 肉食系女子…
バチバチと視線がぶつかり合う中で、有りもしない火花をイノチはそこに見た。

おおよそ、どっかのラブコメでありそうな対立構造に、イノチはさらに呆れた顔になる。


「女の闘いほど、怖ぇ〜もんはねぇからな!ガッハッハッハ!」

(あのおっさんは、たぶん頭ん中が空っぽタイプ…完全に体育会系のキャラだな…)


後ろで我関せずと大笑いするガージュに、心の中でツッコミつつ、エレナとフレデリカにしぶしぶと声をかけた。


「エレナもフレデリカもそこまでだ!これから大事な話を聞くんだから、少しはおとなしくしていなさい!!」

「何よ…」

「わたくしたちは悪くないですわ…」


イノチの言葉に、エレナとフレデリカはブツブツ言いながら後ろに下がっていく。


「サリーも…ありがたいけど、彼らには礼儀を持って接してよ。」


タケルもサリーに注意すると、彼女は小さく頭を下げて後ろに下がった。

しかし、サリーが頭を下げたところで何かを小さくつぶやいたことにイノチは気づく。


「一番は…我がBOSS…それ以外は皆クズ…クズ…クズ…」

(うっ…この人…そっち系の人か…)


サリーの言葉に、イノチは一人背筋が凍るほどの寒気を感じる。

そんな事はつゆ知らず、タケルは再びイノチに向かって口を開いた。


「さて…それじゃあ、まずは結論から伝えようかな。」

「結論…?大事な話の結論ってこと?」

「うん…驚かないで、冷静に聞いてね。」

「あ…あぁ…」


再び真剣な表情になるタケルに気圧されて、イノチは首を縦に振る。

タケルは一つ息を静かに吐くと、それを言葉にする。その内容はイノチにとって驚愕のものであった。


「この世界はゲームなんかじゃなく、現実の世界である可能性が高いんだ。」





とある、モニタールーム。


「まさかリュカオーンを倒してしまうとは…」


これまで見せていた余裕の表情から一転、女性の顔にはすこし陰りが見える。

爪を噛みながら、何かを考えるようにイノチたちの様子をモニターで伺っている。

そして、ため息を小さく吐くと、目の前のキーボードに手をかけた。


「この事があの方に伝わると本当に面倒だわ…リュカオーンを討伐した事は伝わるだろうけど…少し細工をしておかないと…」


そう呟きながら、女性はキーボードの上で手を走らせる。


「はぁ、少しは仲良くしてくださらないかしら…下の者の事も考えてほしいわね…よし、これで大丈夫ね。」


そう言って、キーボードのエンターキーを軽く叩く。

画面には『Correction completed(修正完了)』と表示が出てすぐに消えた。


「彼にコンタクトしたのは…プレイヤーネーム"タケル"か…ここに来て3年ね…まぁ、いい感じね、フフフ。」


女性はモニターを見ながら、笑みをこぼした。





「ここが…現実だって…?」


「そうさ、ここはゲームでもなんでもなくて、現実の世界だと僕は推測している…というか確信している。」


イノチはタケルの言葉に驚きを隠せずにいた。しかし、おいそれと信じるわけにはいかずに聞き返す。


「…あくまで推測なんだろ?そう言い切れる理由はあるの?」

「あるよ…まずひとつ目はログアウトについてだ…その調子だと、君はログアウトをまだ試してないだろ?」

「…ログアウト?確かにまだだけど…それが何か…」

「できないよ、ログアウト。」


タケルは遮るように言葉を重ねた。


「はぁ…?ログアウトできないだって?」

「うん、そう。プレイヤーが持つ端末にはそんな機能はないし、ログアウトする方法がそもそもない。疑うなら探してみなよ。」


イノチは携帯端末を急いで取り出すと、ありとあらゆるアイコンを押して確認するが…


「確かにない…」

「だろ?ちなみにこの世界に来た時の案内人…あの天使みたいなやつもログアウトについて説明しなかったし、確認したくても、現時点であいつらにコンタクトする術はない。」

「マジかよ…でっ…でも、この世界に来た後に、一度だけ俺はそいつと話したけど…」

「自分から通信したのかい?」

「いや…それは…」


そうだった。
あの時はアリエルからかけてきたのだ。自分からかけた事は一度もない。

そう思った瞬間、イノチは訳がわからない恐怖を感じる。背筋がゾワゾワして、動悸が激しくなるのを感じる。

しかし、次に出たタケルの言葉は、イノチの心にさらなる不安を募らせた。


「次にふたつ目…この世界にステータスという概念はない。ゲームなのに数値化されたものはないんだよ。これには、君も思うところがあったんじゃないかい?」

「……」


確かに、これには気づいていた。
ゲームなのにステータスがないという違和感。ソシャゲーマーであるイノチが強く感じていた違和感である。

おかしいと思いつつ、ゲームだからと自分に言い聞かせていたのかもしれない。

徐々に確信めいたものが、心の中に広がっていく。

言葉が出ずに考え込むイノチに対して、タケルは話を続ける。


「他にもおかしいところはあるよ。例えば、モンスターにもレベルがある奴とない奴がいるし、装備にしろアイテムにしろ、その性能はイマイチわからない…この世界は、ゲームと呼ぶには多くのことが中途半端なんだよ。」

「たっ…確かにそうだけど、プレイヤーにはランクがあるよね。」

「そうだね。そして、それはこの世界でとても重要な要素になる。プレイヤーのランクについては後で説明してあげるとして、最後の三つ目が特に重要なんだ。僕らにとってもサリーたちや、君の仲間にとっても…」


タケルは今日一で真剣な表情となり、目を閉じて小さく深呼吸をした。イノチはゴクリ生唾を飲み込んで、タケルの言葉を待つ。


「…プレイヤーは死んだら生き返らない。本当に死ぬんだ…」


その言葉はイノチにとって、一番聞きたくない言葉であった。

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