ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

9話 カクテイエンシュツ


「…カクテイエンシュツ?」


聞き慣れない言葉に、エレナは首を傾げている。イノチは画面を見ながらその問いに答えた。


「確定演出ってのは、高レアリティが必ず出るんだ…おそらくだけど、この白い球が『R』以上のキャラかアイテムに変化するじゃないかな…?」

「…なるほどね。でも、なんで瓦を積み上げてるのかしら…どうやって白球が金以上に変化するの?」

「さぁ…瓦を積んでるってことは、これを割るんだろうけど…普通の演出はもっとかっこよかったり、美しさを重視してることが多いんだけどね。」


そんな話をしていると、男性は瓦を積み上げ終わったようで、それらの前に仁王立ちしている。

意識を集中させるように、目をつむり、ゆっくりと深い呼吸を繰り返すと、画面が静かに暗転した。


「しかしこの演出…ちょっと長いな…」


イノチは長いムービーに文句をこぼす。
画面では少しの間だけ『NOW LOADING』の表示が左下に現れると、すぐに消えて明るくなった。

仁王立ちする白髪白ひげの男性が再び現れ、つむっていた目をカッと開く。そして、かけ声と共に右手でつくった手刀を、目の前に積んだ瓦へと振り下ろした。

一枚、二枚、三枚と積み上げられた瓦が、手刀により一気に叩き割られ、彼のその右手は白い球へと到達する。

次の瞬間、白球にヒビが走った。
そして、画面は再び暗転したかと思うと、男性が腰に手を当てこちらに向かってピースしている。

見れば、白球はなんと虹玉に変化していたのである。


「おおお!まさかの虹玉とは…!!」


イノチが感嘆の声を上げると、男性がそれぞれの球をひとつずつ持ち上げて、雷を落とす演出が始まった。


「げぇ…またこのムービーかよ!スキップだ、スキップ!!」

「BOSSはせっかちね…そんなんじゃ女の子にモテないわよ。」


画面を連打しているイノチに、エレナがそう告げるが、イノチはお構いなしといったように話をすり替える。


「…たぶん、どっかに設定画面があるはずだな。今後、ガチャの演出は全スキップにしておこう。」


エレナはそんなイノチを見て、ため息をつく。そして、再び画面を覗き込むと、初心者応援ガチャは結果は次の通りであった。


『強化薬』
『ロングソード(N)』
『強化薬(武器)』
『強化薬(武器)』
『木の杖(N)』
『ポーション』
『ポーション』
『疾風のブーツ(R)』
『希少石(SR)』
『ハンドコントローラー(SR)』


「ハンド…コントローラー?なにこれ…」


エレナは虹玉の結果を見て首を傾げている。


「どれどれ?あーこれか…これは手に取り付けてパソコンとかゲームとかを遠隔で操作する道具だな。しかし…俺はそれよりもこっちが…」


イノチはその前に出たレアリティSRの『希少石』に目を向けた。


「消費アイテムでSRって、けっこう貴重だぞ!」

「そうなの?」

「だって一回使ったら無くなるんだぜ?ずっと手元に残る武器や防具と違って、こういうアイテムは、何かしら良いことに使えるんだよ。」

「ふ〜ん…」


エレナは画面に映るその黒い石をジッと見つめる。


「とりあえず、『疾風のブーツ(R)』はエレナが装備してね。」

「…っ!いいの!」

「うん…だって、今後またあんなモンスターが出てくることを考えると、エレナには強くなっておいてもらわないと…」

「ありがとう!!」


よほど嬉しいのか、満面の笑みを向けてくるエレナに少しドギマギしながら、イノチは顔は合わせずにポリポリと顔をかいて頷く。

喜んでいるエレナをよそに、ガチャを終了させて画面を閉じると、今度は例の黒い端末を取り出した。


「…さてと。今度こそアイテムボックスの確認だな。さっき手に入れたアイテムを含めて、詳細も確認したいし…」


そう言いながら、イノチはホーム画面を覗き込んだ。


「アイテムボックス…アイテム…あった!『希少石』はっと……………」

「…BOSS?また震えてるけど、どうしたの?」


急に動きを止め、肩を震わせるイノチを訝しげに思い、エレナは近づいて端末を覗き込む。そこに表示されている内容を見て、エレナは再び驚愕した。


『希少石:URが確定するガチャ専用アイテム』


「BOSS…?まさかと思うけど…」


恐る恐るエレナが確認すると、予想していた通り、振り向いたイノチの目は星マークどころか、ピンクに染まるハートマークとなっていた。





「あいつ何なんだよ!!なんで『希少石』を引き当てられるんだ!?排出率0.00001%の超レアアイテムだぞ!?」

「…だめだ…俺、めまいがしてきたよ。」


イノチのガチャ結果を受けて、運営側は大騒ぎである。


「…上にどう説明したらいいんだ。」

「俺らクビかもしれないな…」

「縁起でもないこと言うな!!」


無数の画面の前で言い争いをする彼らの後ろから、再び静かに声が聞こえてきた。


「慌てなくとも大丈夫ですよ。」

「じょっ…上官殿…」

「彼のことは私から上に伝えております。どうやら稀有な存在として、大変興味を持たれたようで…放っておけとのことです。」

「そうですか…」


彼らは、救われたというように大きく息を吐く。そんな彼らをよそに、上官と呼ばれた女性は画面に映るイノチに目を向ける。


(フフフ…その調子でお願いしたいわね。)


彼女はそう言うと、安堵する運営陣に優しい笑みを振りまいて帰っていった。


「やはりあの方はお優しい方だ。」


彼らはそう互いに肯定し合うと、それぞれの仕事に戻っていった。





エレナはA3用紙ほどの大きさの紙を目の前に持ち、それを横にしたり、縦に戻したりしながら、何やら難しい顔を浮かべている。


「ハァ…BOSS、これどう見たらいいのかしら?」


大きくため息をついたエレナは、イノチに声をかけた。

しかし、イノチはというと…

むすっとした顔で頬杖をつき、切り株の上に座っている。その頬には、真っ赤な手形がついていた。


「…もう、いい加減に機嫌を直してよ。そもそもBOSSが正気を失うのがいけないんじゃない。」


先ほど『希少石』の件で、実は一悶着あったらしい。
UR確定と聞いたイノチのガチャ欲が暴走して、エレナがそれを制したのだ。


「…たたく必要ないだろ…ったくよ…痛てぇ…」


真っ赤に腫れ上がった頬をやさしく撫でながら、イノチは口をこぼす。


「…だってあんだけ興奮してて、呼んでも引っ張っても、何してもびくともしないんだもん…ついイラっとして手が出ちゃったのよ!」


エレナは本当に申し訳ないと思っているのだろう。気まずい表情で、手に持った用紙をイノチに手渡す。

イノチはぶつぶつとぼやきながら、それを受け取って眺めてみた。

アイテムボックスに入っていた『マップ』というアイテム。

なんとも大雑把というか…右上と左下に街のような絵が描かれ、真ん中には赤い小さな矢印がある。

矢印の近くには、湖らしきものも伺える。


「なんだよこれ…まぁファンタジーの世界じゃ、地図の精度なんてこんなもんかね…」


そう呟きながら、湖の絵を指でタッチしてみた。すると、縮尺が変わって、湖が拡大表示されることにイノチは気づいた。


「…マジかよこれ…ただの地図じゃなくて、スマホとかで見れるマップみたいに縮尺を変えられるのか…」

「…え?どういうことよ…」


疑問に思ったエレナも、イノチの横に座って地図を眺めている。

イノチは試しに、人差し指と親指を開いたり閉じたりしてみた。すると、その指の動きに合わせて、マップが拡大と縮小を繰り返したのだ。


「すっ…すごいわね。どういう原理なのかしら…」

「わからん…けど、かなり有能な地図ということはわかった。」


横で目を丸くするエレナとは裏腹に、イノチは心に高揚を感じていた。

見た目はただの紙なのに…薄っぺらい紙なのに…手に持ったそれは、ものすごく最先端な道具だったのである。


「よぉし!とりあえずはこれを使って、街を目指そうかね!!」

「賛成!!あたしはとりあえず、お風呂に入りたいわ!!」


二人はそう言うと、大きな声で掛け声を合わせ、気勢をそろえるのであった。

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