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追憶のピアニスト

望月海里

不動産屋


2月の中旬の頃だった。本格的に受験シーズンに突入し、学舎内でも一般試験があちらこちらで行われていた。学校内は初々しい高校生に、一般社会人の受験生と様々な人を見かけていた。

音楽大学は、様々な人が受験しにくる。普通の大学を卒業した後、音楽を専門に学ぶために入る社会人も多かった。実際、同学年に、親の歳くらいの人もちらほらいる。私の単位はほとんど取得できていたので、無事に2回に進級できる状況になっていた。

あとは、親へ一人暮らしの説得が残っていた。
親との話し合いの結果、家賃をこの値段までに抑えられるのならばと言う条件で許してもらえる事になった。

あとは不動産屋だ。十九歳の私は、不動産屋になんて行ったことがなかった。
悩んでいると、西村が、自分のアパートを借りるときに世話になった友人の不動産屋を紹介してくれた。
その不動産屋を介して、私も、親が提示した条件にあうマンションを無事借りれることになった。その手続きの中で、不動産屋に言われたことがある。

「西村君がこんな面倒見がいいなんて知らなかったよ。結構あいつサバサバしてるっていうか、あんまり女の子の話しないからな〜。よっぽど、大塚さん気に入られてるんだね。変な物件押し付けるんじゃねえとかまで言われたよ。あいつほんと。」

サバサバしている。その印象は初めてきいた。やっぱり、私の中での印象に開きがある。

「西村さんとはもう長いお友達なんですか?」

私は不動産屋に聞いてみた。私の知らない西村を知ることができるかも知れない。

「いや、長いってわけじゃあないんだけど、部屋借りに来た時、偶然、他の女子大生も契約にここに来てて。で、なんかその流れで、合コン開く事になってね。それで、何度か飲みに行ったことあるかな。あいつ、お酒好きだし。大塚さんは後輩なんでしょ?」
「あ、はい。同じ学校ですけど、専攻は違うんですよ。でもなんだか変な縁で。」
「そうなんだ。あいつももうすぐ卒業だろ?今月末で引っ越しするって言ってたからな。」

そうなのだ、もう2月の中旬ということは、4回生は卒業まで、もうすぐなのだ。

「今月末で引っ越しなんですね。西村先輩。どちらに引っ越しされるんでしょう?」
「さ〜、俺も、そこまでは知らないんだけど、少なくとも、荷物は田舎に送るって言ってたよ。留学するか、就職するか、どうすんだろうね〜。」
不動産屋の彼も、それ以上は知らないようだった。
「そうそう、大塚さん、一人暮らしするのに、何か必要なものがあれば、西村、色々譲ってくれるってよ。色々処分して荷物少なくしてから、引っ越ししたいって言ってたから。洗濯機とか、冷蔵庫とか、自転車とか、聞いてみたら?」
「そうなんですね。はい、聞いてみます。」

自転車・・・あのいつも私を乗せてくれていた自転車も処分するのか・・・。
そう思いながら、不動産屋と別れた。

実際、私の引っ越しは、3月の末にする予定だった。寮の契約期間が一年の為、それに合わせたのだ。冷蔵庫は既に持っていたし、洗濯機も、急いで買い揃える必要もない。
学生が多いこの街には、コインランドリーもすぐ近くにあった。でも、自転車は欲しいと思った。私は西村に久しぶりに連絡をしてみた。

「西村先輩、ちよです。不動産屋さん、紹介ありがとうございました。無事、物件の契約終わりました。私は、3月末に引っ越しする事になりました。」
「ちよちゃん久しぶり。そうなんだね。よかったよかった。無事に決まったんだね。」
「先輩、あの、不動産屋さんに聴いたんですが、なんか、荷物処分したりするんですか?私、あの自転車いただきたいんですが・・・」
「ああ、そうなんだよ。とりあえず実家に荷物送るから、色々後輩とかにあげようと思ってたから。ちょうどいいや、ちよちゃんにあの自転車あげるよ。他はいらないの?電化製品とか。って男が使ってたの、嫌かな。」
「いえいえ、嫌ってわけじゃないんですが、電化製品は、まあまあ持ってて・・・。なので、自転車ください。」
「うんわかった。じゃあ、自転車の鍵渡すから、来週あたり、鍵取りに来て。うちなんとなく知ってるでしょ?あの神社の近くの、赤茶色のアパート。3階建てのやつ。303号室だから。来週は引っ越し準備で家にいると思うから、いいタイミングで自転車取りに来て。」
「わかりました、じゃあ、来週のどこかで伺いますね。あの赤茶色のアパートの303号室ですね。」

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