追憶のピアニスト

望月海里

真一


それから3日後のことだった。ジャズ科の授業は主にK号館で行われる為、あのミニバスを待っていた時のことだ。

「ちよちゃん!おはよう〜。」
後ろから声をかけられた。西村真一である。

「先輩おはようございます。久しぶりですね。」
「ほんと、久しぶりだね〜。なかなか学舎で会わないもんだね〜。」
「それはそうですよ、全然使ってる学舎違いますもん。」
「それもそうか。ははは。こないだアキラにばったり会って、ちよちゃんと会ったって、聞いたよ。ピアノ、副科で取ってるんだって?」
「あ。そうなんですよ。へたっぴですけど。」
「今度、ピアノ弾いてるところ、見に行っても良い?」
「え???いや〜それはちょっと・・・先輩めっちゃ上手いじゃないですか。聞かせられないです・・・」
「え〜、そんなの気にしないでよ。俺は逆に歌えないんだから、そんなのみんな色々じゃん。」
「いや、それでも先輩の前で歌えても、ピアノは弾きたくないかも。」
「すごい俺嫌われてんな・・。なんかショック」
「先輩よく言いますね。ファンいっぱいいるのに。」
「え?俺のファン?いないよ。なんか変な噂いろいろあるみたいだけど。俺、そんなにモテないって。ってか、ちよちゃん携帯教えて。」
「はい?この話の流れで、今聞きます?」
「え?だって、バス来るじゃん。」
「それはそうですけど・・・。」
「ほら、こないだ言ったでしょ。近々会おうって。普通に会えると思ってたけど、どうも偶然では会えなさそうだから、連絡先教えて」

そう言っている間に、ミニバスが近づいてきた。

「ちよちゃんの携帯貸して。ほら!早く!」

戸惑っていると、私の手から携帯を奪い、ぽちぽちと番号を押した。西村の携帯が鳴る。なかなか確かに手慣れている。

「これ。今の番号俺のだから、登録しといてね。俺もちよちゃんの番号入れとくから。電話するね。」

そう言い残すと、颯爽と去っていった。相変わらず、つかみどころのない男だ。そう思いながら、ミニバスに揺られるのだった。



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