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追憶のピアニスト

望月海里

大学一回生


あれは、私が十八歳の時。
九州の田舎から上京した、最初の五月のことだった。

音楽大学に入学した私は、都会の空気にも少し慣れ、見るもの全てに刺激を受け、田舎者から垢抜けたいと思っている時だった。初めての一人暮らし・・・といきたいところだったが、親の勧めで、大学の女子寮で生活を始めた。

学校と寮の距離は約3キロ。歩くと優に40分はかかる。最初の頃は土地勘もない為、毎日学校まで歩いて通っていた。道中見るもの全てが新しく、近所の商店街などをふらふらし、生活の基盤が出来ようとしていた。学校自体は毎日楽しく、単科大学の為、ほぼ全てが音楽の授業だ。

高校生まで、ピアノを習っていたものの、大学では歌を専門にした。いわゆる、声楽やオペラというクラシックではなく、ジャズ、ポピュラーボーカルというものだ。その割に、授業自体はクラシック理論などもあり、必死についていかなくてはいけない授業も多々あったことは事実だ。毎日好きな音楽の勉強ができるとはいえ、流石に大学なだけに、レベルが高い。いろんな楽器の専門の人が在籍しているため、毎日、学校でも寮でもさまざまな楽器の音が流れていた。

そんなある日、大学からの帰りの道中にある、小さな神社に立ち寄った。

たまにこの神社に寄っては、覚えたばかりのジャズの曲をアカペラで歌ったりしていたのだ。この日は、どこからともなく、ピアノの音が流れてきていた。学校でも、寮でも常にピアノの音は流れている。最初は気にもならなかったのだが、なぜか、その音色が奏でる旋律に耳が留まる。聞いた事のない曲を奏でるその曲はジャズのような、クラシックのような、とても繊細なメロディーを奏でていた。新緑の中で聞くその音色がとても心地よく、私は思わずその場で携帯電話を取り出し、簡易録音した。誰が奏でているのかわからないその音色を、留めておきたいと思ったからだった。

それからの学校生活は、あっという間に過ぎて行った。寮生活のため、門限がある。夜22時には帰らなくては、寮の門が閉まってしまう。女子寮の為、警備は厳しかった。
そんな生活では、アルバイトもままならない。

せっかく上京しているのだ。いろんなジャンルのライブにも行ってみたかった。そのためにはお金が要る。当時の私の生活は親からの仕送りと、奨学金。決して裕福な家の出ではない、私は、それ以上親にお金を打診するなんてことはできないと思っていた。
学費自体が、とても高いのだ。なら、アルバイトをするしかない。寮生活はとりあえず一年は続ける約束を親としていた。見知らぬ都会へ子供を送り出す親の気持ちも分からなくはなかったが、秋になる頃には、友人も増え、生活も完全に掴めていた。ただ、友人たちが行くライブに行っても、最後までみられない悔しさだけが不満だった。


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