異世界で魔王の配下になった件

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

我が異世界

ピロリロリーン!


急にへんてこな音が鳴る。


「……なんの音だよ、今の」
「ゲーム終了の合図だわさ」
言うと幼女も俺も元の大きさにぐんぐん戻っていった。


「うちが勝ったからお主は地獄行きだわさ」
「ちょっと待ってくれって、神様~」
「……お主、こんな時だけうちを神扱いするとはこずるいを通り越して逆にすがすがしい奴だわさ」
「だったら俺を天国に――」
「それは駄目だわさ」
ぴしゃりと幼女に断られる。


「でも……」
と幼女は話し出し、
「うちも鬼じゃないわさ。お主が異世界で悪者退治をしてきたのも知っているわさ。だからもう一度だけチャンスをやってもいいわさ」
「え……またすごろくとか?」
「そうじゃないわさ。お主を異世界に戻すわさ」
「……は?」
意味が分からない。
俺は苦労して魔族だらけの異世界からここまで帰ってきたというのに。


「お主が異世界で悪者をあと千人くらい倒したら、その時はまたすごろくの相手をしてやるわさ」
「千人倒してすごろくかよっ! いやいや……」
冗談きついぜ。


「あのな、俺は何も多くを望んでいるわけじゃ――」
「官吏よ、全員出て来るわさ!」
幼女が叫ぶ。


するとムキムキマッチョな男たちがわんさと部屋に入ってくる。
「おい、なんだよこいつら……って近寄るなっ。放せったら」
強引に俺を畳に押し付けた。


トリプルアクセルを使っているのにはねのけられない。


……っ!?


なんとか顔を動かし男たちを見ると男たちもまた俺と同じように黄色く輝くオーラを纏っていた。


「なっ、反則だぞ……こんなのっ」


そうこうしているうちに幼女は不吉なことを口走りながら珍妙な踊りを舞い出した。


「あっそ~れ、元いた異世界に~、飛んでけ飛んでけ飛んでけ~!」


最後にぴーんと伸ばした短い手足がまたもぷるぷる震えている。


まずい。
数十秒後には足元に穴が開いて異世界に落とされるはずだ。
俺は力を振り絞り覆いかぶさっている男たちを押しのけ、じわじわと立ち上がる。


俺は魔力を全開にして、


「んおおおりゃあああぁぁー!!」


思いきり力んだ。


フルパワーの魔力が男たちをはねとばす。


「ありゃ~、こりゃすごいわさっ……」


床に穴が開かれる寸前、俺は畳を蹴って跳び上がった。


「ほら見ろガキ、同じ手にかかるかよっ」


だが、すました顔の幼女は人差し指を上げて言う。
「上を見てみるわさ」
えっ、上?


っ!?


俺が見上げると天井にもぽっかりと穴が開いていた。


「なっ……てめ」


ブラックホールのように俺はいきおいよくその穴に吸い込まれてしまう。


あっという間にさっきまでいた和室の光が小さくなっていく。


真っ暗な空間をすごい速さで吸い込まれ続けている感覚。


「くそガキ~。憶えてろよー!」


俺の声さえも吸い込まれてしまってもう幼女には届かない。




亜空間をすごい速さで移動し続けること数十秒。


突然目の前が明るくなったと思ったら俺はブラックホールにぺっと吐き出されるようにして宙に飛び出た。


雲が俺より下にある。


そして重力に引き寄せられるように落ちていく俺。


ぐんぐんと地面が近付いてくる。


「……あれは、闘技場か?」


風を受けながら目を見開く。


目の前まで迫ってきているのは見覚えのある闘技場。




そして、


ズシーン。


魔王城の中庭にある闘技場に下り立った。


石畳に足がめり込む。


その足を持ち上げ、周りを見渡した。


そこには沢山の魔族と、


「クルル。クルルじゃないかっ!」


モレロがいた。


「お前、戻ってきたのか?」
駆け寄ってくるモレロ。
数十時間ぶりの半魚人の顔のどアップ。やっぱり生理的に受け付けない。


「あ、ああ。まあな」
不本意だがな。


「ちょうどよかった。お前がいなくなったから新しい幹部を今から選ぼうとしていたところだったのだ」
モレロが手を広げる。


なるほど、そうか。
ここに集まっているのは幹部候補か。


「お前もこいつらに混じって幹部試験を受けろ」
妙に楽しそうに喋るモレロ。


「え……俺がか?」
「ああ。手加減はしないから覚悟しろよ」


その言葉を聞いていた魔族たちが、
「嘘だろ、手加減しないってよ」
「やばい、オレ下りるぞ」
「おれも!」
我先にと闘技場を下りて逃げ出していく。


「ふん、軟弱な奴らめ」
結局、闘技場の上に残ったのはモレロと俺だけだった。


とそこへ、


「クルルさん、戻ってきてくれたんですね!」


ゲッティが姿を見せる。
隣にはアマナもいた。


「何よ。帰ったんじゃなかったの、あんた」
不機嫌そうなアマナ。


「いろいろあったんだよ」
「姉さん、素直じゃないんだから。クルルさん聞いてください、姉さんたら――」
「それ以上言ったら殺すわよ、ゲッティ」
「あ、ははは……ごめん姉さん」
本気のにらみに両手を上げ降参ポーズをとってみせるゲッティ。


「クルルさん、ミケさんにも早く会ってあげてください。すごく喜ぶと思いますよ」
「ああ、わかった」
俺は魔王城に入っていく。


勝手知ったるなんとやら。
足が自然と四階の幹部の部屋に向かう。


俺の部屋だった場所を通り過ぎて隣のミケの部屋をノックする。


トントントン。


「はいニャ~。今出ますニャ~」
ミケの声が返ってきた。


ドアが開く。


「どちら様で……ニャ~!? クルル様ですニャ~! 会いたかったですニャ~! クルル様~!」
がばっと抱きついてくるミケ。


ミケの体温が伝わってくる。
ふかふかの毛並みと合わさって実に心地いい。
俺はミケの頭を撫でた。


「クルル様、もう勝手にどこかに行ったりしないでくださいニャ~!」
ミケが涙をぽろぽろ流す。


それを見て罪悪感を覚える。
「なんか、悪かったな……一人にして」
というか一匹にして。


「あ……一人ではないんですニャ~」
「実は」と前置きして、
「ヨミ様と一緒に暮らすことにしたんですニャ」
ミケは後ろを振り返った。


俺は体をずらしてミケの後ろを見る。
ミケの大きな体でさっきまで見えなかったがそこにはヨミがいた。


「ど、どうも」
ヨミがすすっと近寄ってくる。


「ヨミ様が魔王様じゃない時はここで同居しますニャ」
「そ、そういう訳なんです」
「そうなのか。よかったじゃないか二人とも」
ヨミは前より表情が明るい。
前髪をちょっと切ったのかな……。


そこへ、
「おーい、クルル。早く戻って来い! 幹部試験始めるぞっ!」
モレロが城中に聞こえるくらい大きな声を張り上げた。


「まったく……面倒くさいな」
「クルル様。お供しますニャ」
「わ、わたしも……」


はぁ~……しばらくはこっちの世界に厄介になりそうだし、また魔王の配下になってみるのも悪くないか。

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