異世界で魔王の配下になった件

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

グラバニャ城到着

目覚めると辺りは暗くなっていた。


「……ん。もう夜か……」


夜空に無数の星が瞬いている。
手を伸ばせば届きそうなくらい近くに見える。


「あ、起きましたかクルルさん」
俺を見て声をかけてくるゲッティ。


「悪い、眠ってたみたいだな」
「気にしないでください。姉さんとミケさんはまだ眠っていますよ」
見るとアマナとミケは抱き合って気持ちよさそうに寝息をたてていた。


「クルルさん。人間と和平を結ぶことについてどう思いますか?」
真剣な顔で訊いてくる。


「ん~、そうだなぁ……」
争いがなくなるならそれに越したことはないと思うが。
この世界に来てまだ間もない俺にはよくわからないというのが率直な意見だ。


「すみません。人間のクルルさんには答えにくい質問でしたね」
ゲッティは微笑する。
「でもいいことなんじゃないか、多分」
「そうですね……あ、見えてきましたよ」


ゲッティが立ち上がって指差した。


「あれがグラバニャ城です」


グラバニャ城。
人間の王が住む唯一無二の巨大な城。
周りを断崖絶壁で囲まれていて空路でしか行き来することが出来ない地上の要塞。


「姉さん、ミケさん。起きてください。グラバニャ城に着きましたよ」
揺り動かす。
と、
「……う~ん……なんなのよも~。気持ちよく寝てたのに……」
「んニャ~」
アマナはぶつくさと文句を言いながら、ミケはあくびをしながら目を覚ました。


「……ふーん、あれが人間の王がいる城ね。なかなかイケてるじゃない」
「大きいですニャー」
「グラン。城に下りてくれ」
「グオオォォー!」
グランは雄たけびを一つ上げると宙で旋回してから城の屋上の広いスペースに下り立った。


まさかドラゴンに乗ってやってくるとは思っていなかったのだろう、見張り塔にいた兵士たちが「敵襲だ!」と慌てふためいている。


俺たちはグランの背中から飛び降りると、
「驚かせてしまって申し訳ありません! でも心配しないでください! 僕たちは和平会談にやってきました!」
ゲッティが声を大にして言う。


兵士たちは剣を構えたまま俺たちを囲むようにして固まっている。


せっかく帽子まで被って驚かせないようにしていたのにこれじゃ元も子もないな。
さてどうしたものか……。


見るとアマナは「あんたたち、やる気なの?」と宙に魔法陣を描き魔術を発動させようとしていた。
とそこへ、
「剣をしまいなさい!」
オールバックのスーツ姿の男が現れた。
その男の一言で兵士たちはみな一様に剣を鞘におさめる。


「よくぞいらっしゃいました魔王軍の方々。お見苦しいところを大変申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
「わたくしはゼウス王様の右腕と勝手ながら自負させていただいております、内務大臣のルッコラと申します。以後お見知りおきを」


「ルッコラね。和平を結ぶにしてはずいぶんな歓迎の仕方じゃないの」
アマナが前に出る。
「もう少しで皆殺しにしちゃうところだったわよ」
振り上げていた手を下げた。


「失礼致しました。ドラゴンに乗って来られるとは考えが及ばなかったもので……わたくしどもの不手際をどうかお許しください」
再度頭を下げるルッコラ。


「まあいいけど。それよりさっさと和平なんとかってやつを終わらせましょ」
「あの……勉強不足で大変申し訳ないのですが魔王様はどちらの方でしょうか? あなた様ですか?」
ルッコラは俺を見てそう言った。


「いや、俺は魔王……様じゃない。幹部のクルルだ。ちなみにそっちにいるのが幹部のゲッティとミケでこの好戦的なのが幹部のアマナだ」
「魔王様はいらっしゃらないのですか?」
「ああ。あんたたちをむやみに怖がらせたくないんだそうだ」
「そ、そうでしたか」
ルッコラの表情がわずかに曇る。


「なんなの、あたしたちじゃ不満なの?」
アマナがルッコラに詰め寄る。
「いえ、滅相もない。それではゼウス王のもとへご案内致します」
「案内されようじゃない」
大きな扉を開け城の中へ入っていくルッコラ。
それに続くアマナ。


「グランはそこでおとなしく待っててくれ」
ゲッティに従い首を丸めしゃがみ込むグラン。
周りを囲む兵士たちなど眼中にないかのように目を閉じた。
それを確認して俺とゲッティとミケもアマナのあとを追って城へと入った。

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