天馬さくらの中二病症候群

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

高木とのデート

土曜日、駅前にて。
俺は高木さん、もとい高木を待っていた。
本性を知った今となっては高木さんと呼ぶのはいささか抵抗がある。


「確かに十時って言ったよな……」


スマホを取り出し時計を確認する。
時刻は十時二十分。


まさかすっぽかされたか……?


高木の連絡先を知らない以上ここで待つしかない。
俺はスマホのメール履歴を見た。
昨日の夜土屋さんから来たメールをもう一度眺める。


それは絵文字がふんだんに使われた正直読みにくい文面のメールだったが最後には[明日のデート、頑張ってな]と書かれていた。


頑張れっていってもなぁ。デートなんてしたことないし、大体今日のこれは本当にデートなのか?
はなはだ疑問だ。


すると、
「おーい!」
道路の向かい側から俺に向かって手を振る高木の姿が見えた。


信号が青になると小走りで駆け寄ってくる。
女の子らしいひらひらしたピンクのワンピースの上に茶色いジャンパーを羽織っていた。
そして頭には猫耳のついた帽子。
一体どんなセンスだ。


「真柴くん、待ったぁ?」
「すげー待った」
「え~、こういう時は俺も今来たところだよって言うんじゃないの?」
俺の顔を下から可愛らしく覗き込んでくる。
残念だがそのセリフは過去に使用済みだからお前には使わない。
高木は「ふーん」と急に真顔になる。


「それで今日は何をするんだ?」
「デートよ。言ってたでしょ」
「あのさ、なんで俺とデートなんかするんだ? 高木なら望めば誰とでもデートくらい出来るだろ……それとも何か魂胆でもあるのか?」
俺とデートをする理由がまるでわからない。


「あっ今私のこと高木って呼んだ。昨日までは高木さんだったのにどういう心境の変化なの?」
「別にいいだろ、それより俺の質問を無視するな」
「私が真柴くんとデートする理由? それも昨日言ったわよね、真柴くんのことが好きだって。何回言わせる気」
だからそれが信じられないんだろうが。
自分で言うのは気が進まないが俺は勉強も運動も苦手だし、顔だって平凡なただのアニヲタだ。


「そういう謙虚なところも好きよ」
「俺の心を読むなよ」
流星といいこいつといい、心を読まれていると思うと調子が狂う。
変なこと考えられないじゃないか。


「変なことって例えばどういうこと?」
高木がにやにやしながら俺の目を見てくる。
「だから勝手に心を読むなっ」




「いいか高木、次俺の心を勝手に読んだら俺は帰るからな」
「流星くんが助けられなくなってもいいの?」
「う……」
人の弱みに付け込んできやがって……。


「ふふっ、冗談よ冗談。わかったわ、真柴くんの心はもう読まない。約束する」
そう言って小指を差し出してくる。
指切りのつもりか。


「……針千本、本当に飲ますとか言うんじゃないだろうな」
「何それっ? おっかしい」
さくらはそのおかしいことをマジで俺に言ってきたんだけどな。


指切りをすると高木は俺の手を取って歩き出した。
「あっ、おい……」
「いいからいいから」
俺は高木に引っ張られる形でついていく。


はたから見れば俺たちはおそらくカップルに見えているだろう。
若い男女が手と手を取り合って一緒に歩いているのだから当然といえば当然だ。


「なあ、これどこに向かっているんだ?」
「いいからいいから」
高木はさっきからそれしか言わなくなってしまった。
目的地を知らずに歩き続けるというのは意外にストレスがたまるものだ。


「ちょっとくらい教えてくれたっていいだろ」
「うーん……しょうがないなぁ。じゃあヒントだけね」
可愛らしく顔の横で人差し指を立てる。
面倒くせぇ。


「今から行くところは暗い場所です」
「暗い場所?」
どこだ?
暗い……暗い……?


う~ん……あっ、プラネタリウムかな?
それとも……ベタに映画館か?
まさか、水族館てことはないよな……。


「わからない? 降参する?」
と高木は可愛らしく訊いてくる。
正直こんなしょうもないことでも降参なんてことはしたくないが背に腹は代えられない。


「ああ、降――」
「ぶー、時間切れー。答えは教えてあげなーい」
ぷいっと顔を背けた。
なんだこいつは。
明らかに俺をからかって楽しんでいる。
自覚がある分さくらよりたちが悪い。


「そんなむっとした顔しないでよ。こんな美少女とデート出来ているんだから楽しまなきゃ」
自分で言うな。


まあ確かに美少女という部分は否定はしない。
さっきから男女問わずすれ違う人たちが振り返ってこっちを見ているからな。
一瞬、芸能人と見間違えているのかもしれないな。


「デートってこういう感じなのね、なんかドキドキするわね」
俺の手を握ったまま大きく腕を振って混雑している繁華街を歩く高木。
俺はこいつの目的が何かわからないことに不安でドキドキしている。
何を企んでいるのだろう。


とそこに立て看板を持ったメイドさんが話しかけてきた。
「ちょっとお時間いいですかぁ?」
「はい。いいですよ」
高木は甘ったるい喋り方のメイドさんに愛想よく答える。


「ありがとうございますぅ。それでお二人はカップルさんですかぁ?」
「はい、そうです」
おいっ。


「実は今うちのメイドカフェでカップルさん限定の催しをやっていまして、もしよろしかったら出てみませんかぁ?」
「えー面白そう。良太くん行ってみようよ」
「えっ……っていうか良太くんてお前――」
「ではカップルさん一組、ご案内しますぅ」
「さっ行こ行こ」
俺の手をぎゅっと握り引っ張る高木。さっきも思ったが力強いなこいつ。

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