天馬さくらの中二病症候群

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

回顧

「あれは小学校二年生の時でした。姉さんはその当時やっていたテレビ番組に影響されて時計を止めるという超能力を練習し出したんです。でもいくら練習しても使えるようにはならなくて姉さんはひどく落ち込んでいました」
流星は続ける。
「その頃すでに僕は超能力に目覚めていたのですが誰にもそのことは言ってはいませんでした。子ども心にそんなことを言ったら面倒なことになるとわかっていたからです。でもやっぱり僕は子どもでした。落ち込む姉さんを見てつい超能力を使ってしまったんです」


「それでどうなったんだ?」
「もちろん姉さんは自分が超能力を使えたんだと思って大喜びしましたよ。その瞬間は僕も嬉しかったんです……それがいけなかったんだということは後になってわかりましたけどね」


流星は俺から目をそらし窓の外を見た。
「姉さんは両親にも友達にもそのことを自慢しました。当然証拠を見せろとなりますよね。僕が一緒にいる時はなんとかごまかすことが出来ましたが、双子といってもいつも一緒にいる訳ではありませんから姉さんは次第に嘘つき呼ばわりされるようになっていったんです。そして最後には両親も姉さんを見放しました」
「ふ~ん、そうだったのか」
だから今こいつら姉弟は二人だけで暮らしているのだろうか。


「幼かったとはいえ今の姉さんがああなのは僕のせいなんです」
「まあ子どもだったんだからしょうがないだろ。それよりそんな大事な話俺にしてもよかったのか?」
まだ出会って数日しか経っていない間柄だが。


「姉さんは文芸部が唯一心を許せる場所なんです。真柴先輩のことも好きだからこそあんなに怒ったんだと思います。だから真柴先輩お願いします、姉さんを呼び戻してきてください」
振り向き深々と頭を下げる流星。


呼び戻すのはやぶさかではないが俺のことを好きだという部分はとても信じられない。
先輩への敬意というものをあいつからは一ミリも感じられないからな。


「さくらの奴、どこにいるって言ったっけ?」
「カラオケ店です、ここからすぐ近くの。地図を渡しますね」
そう言うと流星はカバンからルーズリーフを一枚取り出しそれを額に当てた。


「何してんだ」
「念写をするので集中させてください」
念写だと!?
はたから見ると間抜けな光景にしか見えないが。


「はい、出来ましたよ。どうぞ」
流星が手渡してきたのはびっしりと細かい地図が描かれたルーズリーフ。さっきまで白紙だったのに。


「お前、本当に超能力者なんだな」
「そうですよ」
微笑を浮かべる流星。


「なあ一つ訊いていいか?」
俺は玄関で靴を履きながら振り返る。


「なんですか?」
「お前土屋さんたちのことは……その、なんだ……」
訊こうとして口ごもる。
土屋さんたちが超能力者だってことは秘密にしておいた方がいいのか。
いやそれともこいつのことだから知っているんだろうか。


「知っていますよ」
流星が口を開いた。


「へ?」
「土屋先輩と高橋先輩が超能力者だってことは知っていますよ」
俺が訊こうとした質問の答えを先に言った。


もしかして……。
「お前、人の心も読めるのか?」
「はい。傷付くことも多いので普段は読まないようにしていますけどね」
なんて奴だ。なんでもありじゃないか。
こいつの力があればテストでオール百点も夢じゃないぞ。


「そういうことに力を使うことは感心しませんけど……」
「やめろ。俺の心を読むな」
「すみません」


「……土屋さんたちはお前じゃなくてさくらが超能力者だって思っているみたいだが」
「そのようですね。でも僕が自らこんなことを話すのは真柴先輩だからです。これでも僕は真柴先輩を信頼しているんですよ」
と流星。


「あのお二人は僕とは超能力に対する考え方が違うんですよ。土屋先輩は超能力は世のため人のために使うものだと心から思っていますし、高橋先輩は超能力は一切使うべきではないと思っています」
「世界にひずみが生まれるとかなんとかだろ?」
「はい。そして僕は姉さんのためなら力を使うことも厭いません。たとえどんなことでも」
そう言った流星の目にはさくらに対する強い愛情と罪悪感を感じた。


「じゃあこれからさくらのとこに行ってくる。あっそれから俺からお前に言っておくことがある」
「わかりました」
にこにこしている流星に人差し指を突き付けた。


「二度と俺の心を読むな」

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