天馬さくらの中二病症候群

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

文芸部一同

翌日、天気は快晴。
俺は入部届けの用紙を持って文芸部の部室の前に立っていた。


ドアをノックする。


「は~い!」
土屋さんの元気な声が返ってきた。


俺がドアを開けようとするとそれより早く中からドアが開けられた。


「あっ真柴くん。いらっしゃ~い」
土屋さんが笑顔で出迎えてくれる。


「どうも失礼します」
俺は部室の中をざっと見渡した。
高橋に流星に天馬と今日は全員揃っているんだな。
みんな一様にパイプ椅子に座ってこちらを見ている。


「真柴くん、もしかしてうちの部に入部してくれるん?」
「はい。お願いします」
俺は土屋さんに頭を下げ用紙を手渡した。
その後に高橋、流星、天馬へと順番に目線を移す。
「みんなもよろしくな」


高橋は俺と目が合うとこくりと小さくうなずいてみせた。
流星は「よろしくお願いします」とお辞儀をする。
そして天馬はすっと立ち上がると俺の前まで優雅に歩いてきた。
手を差し出す天馬。
握手をしようと俺も手を伸ばした。


「よろしくな」そう言おうとした次の瞬間――


「新入部員ゲットしたわっ!」
天馬は俺の手を力強く握って叫んだ。


「え……?」
天馬のキャラの変貌ぶりに戸惑っていると、
「やったわっ。これで晴れて部に昇格よ! 部費もたんまりもらえるわっ!」
腕を振り上げ喜びをあらわにする天馬。


「どうしたんだ天馬? お前一昨日と全然キャラが違うけど……」
訊ねる俺に向かって天馬はにやっと口角を上げ、
「こっちが本当のあたし。一昨日はあんた好みの優等生演じてただけよっ」
と言い放つ。


「は? なんでそんなことを。っていうか先輩に向かってあんたって――」
「姉さんに代わって僕が説明しますね」
と流星が手を上げ立ち上がる。


「うちの部があと一人で部に昇格することは知ってましたよね。でも全校生徒はすでに部活に入っていますからうちは同好会止まりだったんです。そんな時真柴先輩が転校してきたことを知った姉さんは真柴先輩を他の部にとられる前に文芸部に引き入れることにしたんです」


流星は続ける。
「でも普段の姉さんは自由奔放というか、人の迷惑をかえりみない性格で全校生徒から敬遠されているので真柴先輩の前では素を出さないように演技をしてたんだと思います」
「いい子演じるのも疲れたわー。良太ちょっと肩揉んでくれない?」
天馬は肩を回しながら俺を見てくる。


「いやいや、全然理解できないんだが」
「何、あんたって頭も悪いの?」
「もってなんだっ。大体天馬が――」
「あーその天馬って呼ぶのやめてくれる、弟も天馬だからややこしいのよね。さくらの方が可愛いしさくらって呼んで」
俺の言葉をさえぎっておよそ後輩とは思えない口調で喋ってくる。


「お前、何様?」
「あたしは超能力者よっ」
腰に手を当て突然意味不明なことを口走る天馬、もといさくら。カオスだ。


「おい、流星。こいつ何言ってるんだ? 頭大丈夫か?」
「え~とですね……実は姉さんは本当に超能力者なんです」
「どうしちゃったんだよお前までっ」
さくらに続いて流星までおかしなことを言い出し始めた。


「土屋さん、これどうなってるんですか?」
俺は一番まともそうな文芸部部長に助けを求めた。


「さくらちゃんなあ、ほんまに超能力者なんよ。信じてあげて」
「あなたもですかっ!?」
もうどうなってるんだ一体。
俺は夢でも見てるのか? みんなして俺をかついでいるのか?


「おい、高橋。お前はまともだよな? な?」
ここまで一切喋っていなかった高橋にすがる。
こいつは無口だが常識はあるはずだ。


すると高橋は俺を一瞥してから口を開いた。
「……さくらは厄介だけど嘘はつかない」
「なっ……」


そこでさくらが、
「わかったわよ、そんなに疑うならあたしの超能力見せてあげるわよっ」
高らかに声を上げた。


「文芸部が敬遠されている理由が今わかったぞ。織田や高木さんの言っていたことは正しかった。お前らはおかしいっ」
「あたしの超能力で今から雨を降らせてやるから見てなさいっ」
「見てたまるかっ」
俺は部室を出ていこうとドアノブを握った。


だがその時、


ザザザザザー!!


さっきまで快晴だったのに何の前触れもなく雨が急に降り出した。しかもかなりの豪雨。


「え……!?」
「ふふん。ねっ、あたしの言った通りでしょ」
嵐のような雨を背にさくらは腕組みをして勝ち誇った顔で俺を見ていた。

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