死にたがりの魔物使いは異世界で生き抜くためにモンスターを合成します。

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

死臭

『臭いとはなんですか、臭いとは』
むくろ男爵が俺を見る。


「いや、悪い。それよりお前も喋れるんだな」
俺は死臭に耐え切れず鼻を押さえながら言う。


『当たり前です。我はランクKのむくろ男爵ですよ』
死体に燕尾服着せただけに見えるが……。


「早速で悪いが俺は死ねない体なんだ。どうにかする方法を知ってるか? 治す方法でも殺す方法でもどっちでもいい」
キラークイーンには聞こえないよう耳打ちする。
近付くとより一層臭いが仕方がない。


『ふーむ。不死の体ですか、そうですねぇ……』
腕を組み手の上にあごを乗せるむくろ男爵。


ん? この反応、もしかして何か知ってるのか?
期待が高まる。


『……ふっふっふ。知りませんね』
「知らないのかよっ」
思わせぶりな態度とりやがって、使えねぇ。
こうなるとただただ臭いだけのモンスターじゃないか。


「もういい。とりあえず町に戻ろう。腕輪もみつけたことだしな」
『それがいいでしょう』
キラークイーンに話しかけたつもりだったがむくろ男爵が返事をした。
……こいつ邪魔だな。




キラークイーンとむくろ男爵を連れて泥だらけの勧誘の腕輪をギルドに持っていくと受付の女性は嫌な顔一つせずそれを受け取った。


「はぁい、ご苦労様でしたぁ。ではこちら金貨二枚になりますぅ」
「どうも」
「見たことないモンスターさんたちですねぇ」
「あ、そうですか。すいません臭くて……」
「いいえ、大丈夫ですよぉ」
女性は笑顔を絶やさない。


だがモンスターに慣れているはずのギルドの客たちは違った。
みな一様に顔をしかめ鼻を覆う。
強烈な死臭を放つむくろ男爵がいるから仕方のないことだが。かく言う俺も鼻を覆っているからな。


俺は「すいませんでしたー」と言葉を残してそそくさとギルドをあとにした。




「三人のいる宿屋はどこだろうな……?」
『男爵たる我に似合った宿屋でしょうね』
むくろ男爵が燕尾服の襟を直しながら言う。
だからお前には訊いていない。
っていうかもっと離れてくれないかな、臭くてたまらない。


まいったな、こんな奴連れて宿屋に入れるのか……?


すると俺の懸念は現実になってしまう。




「申し訳ありませんが他のお客様のご迷惑になりますのでご遠慮いただけますか」
せっかく宿屋をみつけた俺だったが玄関で止められてしまった。


「そ、そこをなんとかなりませんか?」
「本当に申し訳ございませんがやはり――」
「何してるんだ? クウカイ」
背後からマジョルカの声が聞こえた。
振り向くとマジョルカとエイミとシルキーが立っていた。


「こんな時間まで合成してたのか?」
「あ、ああ。まあな」
「くさっ! あんたのモンスターめっちゃ臭いじゃないの! おえっ、気持ちわる~」
シルキーが大袈裟に振る舞ってみせる。


「せっかく食べた晩ご飯が出ちゃうじゃないっ。そいつどっかにやってよっ」
『我を臭いですと!? 聞き捨てなりませんね。我はアンデッドの中のアンデッド、むくろ男爵ですよ』
「知らないわよそんなのっ。もう行こう二人ともっ」
シルキーはむくろ男爵に近寄らないように遠回りしながら宿屋に入っていった。


「むくろ男爵さんですか? 私はエイミといいます、よろしくお願いしますね」
『あなたは礼儀正しいお嬢さんですね。今度我のティータイムに招待しますよ』
「ありがとうございます」
鼻が詰まっているのだろうか、エイミはいつもとなんら変わりなく笑顔で接している。


「クウカイ、お前自身のレベルは上がったのか?」
マジョルカが鼻を押さえながら訊いてくる。


「ああ、35になったぞ。キラークイーンもレベル18になったしな」
「そうか。それで不死の体について何かわかったか?」
「いや全然だ。あのおじいさんには悪いが俺はもうアンデッドモンスターを仲間にする気はないぞ。宿屋にも泊まれないからな」
アンデッドが仲間にいると生活に支障が出る。


「まあお前の自由だ。好きにすればいいさ」
「今日は適当に公園でもみつけて野宿するよ」
「風邪ひかないでくださいね」
エイミが心配してくれる。


「じゃあ朝になったら迎えに行くからな」
「ああ」


俺はマジョルカたちと別れると公園に向かった。

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