ダンジョン・ニート・ダンジョン ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

エルダーグリュプス

ククリがとある部屋の前でぱたぱたと宙に浮いていた。
部屋の中をじっと眺めている。


「おいククリ、先に行くなよな。さっきの石化の件まだ途中だっただろ」
俺が石になる時持ち物も石になるのかどうかまだちゃんとした答えを聞いていない気がする。


「そんなことよりマツイさん、あそこにいるのがエルダーグリュプスですよ」
「ん?」
ククリのみつめる先にはグリュプスがいた。目をつぶって伏せの姿勢をとっている。


「ただのグリュプスじゃないか」
「違いますよ。よ~くしっぽを見てください」
「しっぽ?」


俺は部屋の中で眠るグリュプスのしっぽに注目して見た。


すると、
「……あ、しっぽが二本あるっ」
グリュプスのライオンのようなしっぽは二股にわかれていた。


「でしょう。あれがエルダーグリュプスです」
「ってグリュプスとの違いはしっぽだけ?」
「見た目はそうですね」
「じゃあ強さは? 強さもグリュプスと大して変わらないのか?」
「変わらないどころかグリュプスよりも非力だし動きも遅いぐらいですよ」
とククリは言う。


「なんだそれ。フロアボスなのにそんなことがあるのかよ」
「そういうこともたまにはありますよ」
「ふーん、だったら楽勝だな。いざとなったら魔石を使おうと思っていたけどこんなところで使うのはもったいないや、やめとこう」
俺は皮の袋の中に伸ばしかけていた手を戻す。


その時、
『ピキー』
スラが俺の足元で一つ鳴いた。


「なんだスラ?」
『ピキー』
「あたしも戦おうか? って言ってますけど」
ククリが訳してくれる。


「え、スラも?」
『ピキー』
スラはやる気満々で俺の顔の位置まで跳び上がってみせるがいくら相手が大したことないといってもそれはあくまで俺にとってはということであってスラでは歯が立たないだろう。
下手すりゃ殺されてしまう。


「いや、気持ちはありがたいけど俺一人で充分だよ。スラは切り札なんだから俺がピンチの時に助けてくれ。な、頼む」
『ピキー』
よし、わかった。と言わんばかりに大きくうなずいたスラは聞き分けよく俺の足元に落ち着いた。
やはり切り札という言葉が効いているようだ。




スラの気が変わらないうちにさっさと一人で倒してしまおう。
そう思い俺はフロアボスの部屋に足を踏み入れた。




ゴゴゴゴゴ……と石の壁で通路が塞がり出入口が閉じられる。


そして眠っていたエルダーグリュプスが目を開けた。
ふらふらっと二本足で立ち上がるとエルダーグリュプスは俺を見てくちばしを器用に動かし笑ってみせた。


「ふん、ずいぶん余裕じゃないか。今すぐそのくちばしへし折ってや――」


シュン。


ドゴッ!


「る……え?」


い、今、何が起こった?


エルダーグリュプスが翼を大きく広げてから体の前で交差させた瞬間、なんか風がびゅんと俺の髪をかすめていったような……。


パラパラと石片が落ちる音がするので俺はおそるおそる後ろを見ると、俺の背後の石の壁がざっくりとえぐれていた。

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