第161話　伊集院との再会

「久しぶりだね……佐倉くん」
「伊集院、どうしてここに？」
「どうしてって……ボクもプロのプレイヤーなんだからダンジョン攻略のために決まってるでしょ」
「わざわざ群馬にか？」
まさかこいつ、俺を追ってきたんじゃないよな……？

「ランクFのダンジョンが近場になかったからね……それにそれを言うなら佐倉くんだってわざわざここまで来てるじゃないか」
伊集院は前に会った時と同様、長い髪をオールバックにしてジェルか何かで固めていた。
口をあまり開けずにぼそぼそっと喋る感じも相変わらずだ。

「……佐倉くん、一人？」
透明になっている高野の存在に気付いている様子のない伊集院が訊いてくる。

「ん、ああ。俺は一人の方が性に合ってるんでね」
「そうなんだ。ボクも同じだよ……やっぱりボクたち気が合うね」
「それはどうかな」
俺は相手がむかつく奴だからといってそいつの手足を折ったりはしない。

「……さっきしょうがない奴だな、とか言っていたけど……あれは何？」
「別にどうでもいいだろ。ただの独り言だよ」
「独り言かぁ……ボクも独り言は好きだよ」

伊集院がどうでもいい話を続けるさなか、
「真琴さん、この人誰ですか？」
高野が俺にだけ聞こえる声でそっとささやいた。

ちょっとした知り合いだよ。すぐに話を終わらせるから悪いけど高野はそのまま静かにしててくれ。
俺は心の中で返す。
読心魔法の効果がまだ続いているはずだからこれで高野には通じるはずだ。

「あっそうだ、あのあと桜庭くんたちどうなった？　病院送りになったかな？」
楽しそうに伊集院。

「いや、ダンジョンセンターの職員を呼んだから回復魔法ですぐに治ったよ」
「そっか……それは残念」
伊集院は俺の目をみつめてそんなセリフを吐いた。

「ダンジョンセンターの職員を呼んだのって佐倉くんと一緒にいた女性かな？」
「だったらなんだ」
「ん～、別に……ただ佐倉くんも桜庭くんたちにひどい目に遭わされたはずなのにボクとは考え方が違うんだなぁってさ」
首を左右にひねりながら言う。

「佐倉くん……よかったらボクと一緒にダンジョン探索する？」
「いや、さっきも言ったけど俺は一人の方が――」
「な～んてね、冗談だよ……じゃあ、ボク先行くから。バイバイ」
「あ、ああ。じゃあな」

三、四分ほど俺ととりとめのない会話をしたあと伊集院はつまらなそうに去っていった。

伊集院の姿が見えなくなってから、
「高野、もう喋ってもいいぞ」
俺の左側にいるであろう高野に声をかけると、
「さっきの伊集院さんて人、なんか心の中がぐちゃぐちゃでしたよ。真琴さんに偶然出会えて嬉しいっていう気持ちとよくわからないですけど裏切られたっていう気持ちがごちゃ混ぜになっている感じで」
伊集院の心を読んだ高野がそう口にした。

「何かあったんですか、あの人と」
「あったようななかったような。正直俺もよくわからない」
「なんですか、それ」
と高野の声が返ってくる。

「ほら、もうあいつのことはいいだろ。それより俺たちは俺たちで先に進むぞっ」
「あっ、ちょっと待ってくださいよ真琴さんっ」

俺は伊集院が向かった方とは反対方向に歩き出すのだった。