第144話　海道、去る

「……海道、大丈夫か？」
「ふんっ。あれだけ大口叩いておいてざまぁねぇな」
うなだれた様子で戻ってきた海道が口にする。

「海道も魔草を持っていれば結果は違ったかもな」
「真琴様、そういうフォローは海道様を余計みじめにさせるだけですわよ。相手の方が一枚上手だった、ただそれだけですわ」
とマリア。
そういえば海道と同じでマリアも思ったことを口にするタイプだったな。

「おいマリア、さすがにそれは――」
「いや、佐倉。そいつの言う通りだ。相手の方がおれよりも一枚上手だったってことだ」
いつになく素直でしおらしい海道。

「……佐倉、悪いがおれは一足先に帰るぜ。戻ってまた一から鍛錬だ」
「そっか……わかった」
海道は「またな」と言い残すと俺とマリアを置いて歩き去っていった。

「海道、大丈夫かな……？」
いつもより小さく見える海道の背中を見送りながらつぶやくと、
「海道様は精神的に強い方ですから問題ないですわよ」
マリアが答える。

さらに、
「わたくしはむしろ真琴様のお優しすぎる性格の方が心配ですわ」
マリアは俺の目をみつめ言った。

「なんだよ。俺はそんなに優しくはないぞ」
「はぁ～、そう思っているのは真琴様だけですわよ」
少々呆れ気味に返すマリア。

とその時、
「それではこれより準決勝第二試合を始めたいと思います！　斎藤選手と佐倉選手はリングに上がってください！」
川尻さんのアナウンスが公園内に響き渡った。

「真琴様、頑張ってくださいませ」
「ああ」
「よろしいですか？　相手が可愛い女性だからといって情けは無用ですからねっ」
「お、おう」
鋭い目つきでくぎを刺してくるマリアに戸惑いつつも答えると俺はリングへと向かう。

俺がリングの中央付近に立つと背の低い斎藤はよじ登るようにしてリングに上がってきた。
そして無表情のまま目の前までとことことやってくると、
「……お待たせ」
俺を見上げる。

「さあ、では行きますよ！　これより準決勝第二試合、始めっ！」

川尻さんの威勢のいいアナウンスで準決勝の第二試合、斎藤春子と俺との勝負が幕を開けたのだった。