第103話　転移魔法と飛翔魔法

自宅へ戻ると義母さんがちょうど家を出るところだった。

「あれ？　義母さんどこか出かけるの？」
「うん。高校時代のお友達とお昼ご飯を食べに行くの」
「そうなんだ、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」

義母さんと入れ違いに家に入った俺はトーストとコーヒー牛乳で軽く昼ご飯を済ましてから自室へと向かう。

実際のレベルこそバレてはいないがすっかり顔と名前が知られてしまった俺のもとには未踏破ダンジョンクリアの報奨金目当てに一緒にダンジョン探索しましょうと言ってくる者が家を訪れるようになっていた。

そのため俺は長居は無用とばかりに買っておいた食料品や衣類などを不思議な袋に詰めると早速ダンジョンに行く準備を整えた。

「よし、行くか」

靴を履き玄関ドアに手をかけようとしたその時――

ピンポーン。

チャイムが鳴らされる。

「すいませーん、佐倉真琴くんいますかーっ！」
自信に満ち満ちたような大きな声で俺の名前を呼ぶ。
「もしよかったらおれらとチーム組みませんかーっ！」

俺は嫌な予感がしてリビングに回りレースのカーテン越しに玄関の外をそっと覗くとそこには十代後半から二十代前半の派手な恰好をした若い男女が五、六人集まって「きゃはは、ウケる～」と談笑していた。

「げっ……」

ああいう奴らは純粋に俺とチームを組みたいというわけではなく俺の力を当てにしてダンジョンクリアをもくろんでいるに違いない。
俺の偏見が多分に入っているがきっとそうなのだ。
もし同じクラスにいたとしても俺は決して交わらないタイプの奴らだ。

「邪魔だなぁ……」
俺は玄関から出ることを諦め靴を持って裏口へと向かう。

だがそこにも、
「えー、美紗何言ってんのっ」
「もう最悪ー」
玄関にいる連中の仲間だろうか女子二人が裏口を固めていた。

「おいおいマジかよ……くそっ」
さすがにそれは不法侵入だろ。
小声で愚痴を吐きつつ俺はリビングへと移動する。

「なんで俺が逃げるような真似しなくちゃいけないんだ……まったく」

靴を持ったままリビングに着いた俺は、
「スキル、転移魔法ランク3っ」
と唱えた。

直後青い光の球体に包まれたかと思うと――次の瞬間俺は道路の真ん中に立っていた。

☆　☆　☆

キキィーッ！

急ブレーキによって車のタイヤが悲鳴を上げる。

「何してんだ馬鹿ヤローっ、死にてぇのかっ！」
トラックの運転席から顔を出して怒鳴りつけてくるおじさん。

俺は、
「すみませんでしたっ」
頭を下げながら足早に歩道へと駆け出す。

「気をつけろっ、馬鹿がっ！」
おじさんは興奮おさまらぬ様子で声を降らせると車を発進させその場から走り去っていった。

「ふぅ～……まいった」

転移魔法は文字通り瞬間的に空間を飛び越え転移できる便利な魔法なのだが転移先に多少の誤差が出じることがあるので俺は必要に迫られた時以外はなるべく使わないようにしている。

ちなみにランクが1上がるごとに跳べる距離が一メートル延びるらしく今の俺の転移魔法はランク3なので三メートル、さらに【魔法効果7倍】のスキルと合わせて最大で二十一メートルのワープが可能というわけだ。

「さて、さっきの連中にみつからないうちにさっさと移動しよ……」

俺は周囲を見回して人がいないことを確認すると、

「スキル、飛翔魔法ランク9っ」

びゅんと空高く舞い上がった。