勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

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第40話 王女のいる生活

俺は朝起きると顔を洗い服を着替えた。
一階に下りると朝ご飯のいいにおいがしてくる。


「なんのにおいだろ……?」


俺はキッチンを覗いた。
するとそこには見慣れないシェフがいた。
「!?」
フライパンでフランベしている。


「だ、誰ですかっ?」
「わたくし専属のシェフです」
背後から声がした。


見ると、ドレス姿のジュエル王女がソファに座っていた。
隣にはラフな恰好のプルセラ王女もいる。


「あなたたちなんでうちにいるんですか?」と訊こうとして昨晩のことを思い出す。


あー……そういえば、いろいろあってジュエル王女がうちにホームステイすることになったんだっけ。
うちと言っても正確にはフローラの家なのだが。


「フローラは?」
「フローラさんならパン屋さんに行かれましたよ」
「毎日朝早くから働きに出てるなんてフローラは偉いな」
とジュエル王女とプルセラ王女が言う。


「それにひきかえお前は遅くまで寝ていていい身分だな、まったく」
「はあ……すみません」
俺は出そうになったあくびをこらえて返した。


「そういうプルセラ王女は朝から何してるんですか?」
「姉さんの様子を見に来たのだ。うさぎ小屋のような狭い家で窮屈してはいないかとな」
「俺はいいですけどそれフローラの前では絶対言わないでくださいね。追い出されても知らないですよ」
「?」
自分が失言したことをわかってもいないプルセラ王女は目をぱちくりさせる。


「スタンス様、あなたもわたくしと一緒にオレンジソースをふんだんにかけたステーキをいただきましょう」
「ジュエル王女は朝からステーキですか? 俺はトーストでいいですよ」
そう言うと俺はフローラの用意しておいてくれたハムエッグとサラダのラップをとりパンをトースターに入れた。


シェフが「お嬢様出来上がりました」とステーキをジュエル王女のもとに運んでいく。
朝から専属シェフにステーキとは……お金持ちのすることはわからない。


そうそう、お金持ちといえば俺もフローラも生活費の問題はなくなった。
それというのもホームステイのお礼として生活費のすべてをジュエル王女が負担してくれることになったからだ。
その点に関してだけはジュエル王女様様だ。
正直俺のお金は底をつきかけていたからな。


俺はポケットの中身を確認する。
中には金貨は一枚もなく銀貨が数枚あるだけだ。


「食べ終わったらギルドに顔を出すか」


その時チン。とトースターが鳴った。




☆ ☆ ☆




「なんで二人して俺の後ついてくるんですか?」
俺は振り返り後ろを歩くジュエル王女とプルセラ王女を見やる。


「わたくしはスタンス様のことをよく知るために一緒に暮らすことにしたのですから行動を共にするのは当然のことです」
とジュエル王女。


「……じゃあプルセラ王女は?」
「私は暇だからついてきただけだ」
「やっぱり」


せっかく村になじんできたというのに王女二人と一緒にいたら目立ってしょうがない。


「よう、スタンス。美人を二人も連れてモテモテじゃないかっ」
「どうしたんだいその子たち。ドレスなんか着て」
とまあ村人には二人が王女だとは気付かれてはいないのだが。
さすが辺境の地。おそるべし。


「おやスタンスじゃないか」
デボラさんが声をかけてくる。朝から元気そうだ。


「おはようございますデボラさん」
「おはようスタンス。その二人は誰だい?」
「わたくしはこの度スタンス様とお友達にならせていただきましたジュエルと申します。フローラさんのおうちにご厄介になっております」
ドレスのスカートを指でつまみ華麗に挨拶をするジュエル王女。


「あら、フローラのところにかい」
「私は妹のプルセラだ。スタンスとは友達ではないが暇だから一緒にいる」
プルセラ王女が不敵な笑みを浮かべ自己紹介する。
まったく、敬語を使えよな。


「へーそうかい、にぎやかでいいねぇ」
デボラさんがおおらかな人でよかった。
笑ってくれている。


「あっ、スタンスちょいと待ちな」
行きすぎようとした時俺だけ呼び止められた。


「はい、なんですか?」
耳元でささやくように、
「あたしは昔なじみだからフローラを応援するよ」
とよくわからないことを言ってからデボラさんは大きく手を振り「じゃあね」と去っていった。


「どうされました?」
「あの人なんだって?」
「フローラを応援しているとかなんとか」
「フローラを応援? なんだそれは」
「さあ?」


俺とプルセラ王女が首をひねる中、ジュエル王女だけはデボラさんの背中をじっと眺めていた。

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