勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

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第35話 プルセラ王女の涙

ちょっとだけプルセラ王女には悪い気もするがこればっかりはどうしようもない。
魔法がなければ俺はただの非力な男に過ぎないのだから。
それにジュエル王女の気持ちだってあるだろうしな。


俺は家に帰ろうと歩を進めた。


その途中デボラさんとすれ違う。


「スタンス、さっきこの辺りじゃ見かけない子を見たんだけどあんたの知り合いかい?」
「ドレスを着た?」
「そうさ。やっぱりあんたの知り合いかい。なんか泣いてたみたいだったけど喧嘩でもしたのかい?」
泣いてた?


「あ……いや、そんなことは」
「女の子には優しくしなきゃ駄目だよ。あ、あとこれお雑煮、作りすぎちゃったからもらっとくれ」
デボラさんは俺にお雑煮の入った鍋を渡すと引き返していく。結構重たい。




☆ ☆ ☆




「ただいま帰り……ってなんで電気つけてないんですか?」
フローラが帰ってきたらしい。
玄関から声が聞こえる。


「おかえり。悪い、ちょっと考え事してた」
「そうですか」
「デボラさんからお雑煮もらったよ」
「わかりました、じゃあ晩ご飯に一緒にいただきましょう」
フローラは上着を脱いでエプロンを着る。


「なあフローラ、ランド王子って知ってる?」
「ランド王子ってガシュウ国のですか?」
「ああ」
フローラは都会で暮らしていたのでランド王子のことも知っているようだ。


「どう思う?」
「あまりいい噂は聞きませんよね。お城の人を剣術の練習と称して痛めつけたりとか権力に物を言わせてハーレムに女性を何十人も囲っているとか……」
「ハーレムなんてあるのか。うらやま……男として許せないな」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、実はプルセラ王女がさ……」
俺は今日あったことをフローラに話して聞かせた。




☆ ☆ ☆




「結婚っ!?」
驚きの声を上げるフローラ。


「スタンスさん結婚するんですかっ? しかもジュエル王女とっ!?」
「いや、しないしない」
「なあんだ、よかった~」
「え」
「え、あ、あれですよ。せっかく生活費が安く済んでいるのにスタンスさんがいなくなったら元に戻っちゃうからですよっ」
早口になるフローラ。


「ああ、そう」
「で、でも今のままだとジュエル王女がランド王子と結婚することになるんですよね」
「まあそうなるだろうな」
国王同士で決めたことだからな。


「ジュエル王女はどう思ってるんでしょうかね」
「さあな」
「プルセラ王女は何か言ってなかったんですか?」
「うーん、別に何も……」
というか話の途中でプルセラ王女は帰ってしまったしな。


「なんか王族の方も大変なんですね」
「まったくだ」




俺はその夜上手く寝付けなかった。
もちろん理由はわかっていた。なので……。


その翌日。フローラがパン屋へ行った後、俺は意を決してジョパン城へと向かったのだった。

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