勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

第14話 魔法適正

「占めて金貨一枚と銀貨六枚で買い取りますけどどうしますか?」
薬草屋の主人が訊いてくる。


山に自生していたタダ同然の草が金貨一枚と銀貨六枚になるなら充分だろう。
俺は「お願いします」と薬草すべてを買い取ってもらった。


俺の所持金は薬草を売ったお金と合わせて金貨が二枚と銀貨が十枚。
銀貨十枚で金貨一枚分の価値があるから実質金貨三枚ってことだ。
これでひと月分の生活費にはなるぞ。


独特のにおいのする薬草屋をあとにすると、
「お前のおかげで稼げたよ。ありがとうな」
マーキュリーに目を向ける。


「これくらいなら毎日でも採れるぜ」
「本当か?」
「ああ」


うーん、こいつがいれば薬草採取だけで暮らしていけるんじゃないのか。
薬師か……魔法使いより実用的な職業かもな。


「それより俺が全額もらっちゃっていいのかよ。薬草を採ったのはおまえだろ、やっぱ半分ずつにしようか?」
訊くと、
「おれには金は必要ないからいいんだ。そんなことよりおれは約束を守ったんだから今度はあんたがおれに魔法を教える番だぜっ」
とマーキュリー。


「わかったわかった。じゃあ場所を移動しよう」
村の中で大っぴらに魔法を使うわけにはいかない。
俺はマーキュリーを連れて人気のない川岸へと向かった。


道中マーキュリーを見た村人たちが「あら、おっきい娘さんだねぇ」とか「スタンスの彼女かい?」とか口々に言ってくるがマーキュリーは意外にもそれらに「へへっ、どうもっす!」と愛想よく返していた。


「お前、敬語使えるんなら俺にも使えよ。俺って一応魔法の師匠だろ」
「年はおれの方が上だぞ。あんた十七だろ、おれは十九だからな」
にかっと笑う。


マジか。こいつ年上だったのか。
敬語を使うべきは俺の方だったのかもしれない。
……まあ、今さら敬語に変えるのもおかしいからこのままタメ語で押し通すけど。




「ここら辺でいいか……」
川岸に到着すると俺は落ちていた石を拾い、上に上にと積み重ねていった。


「何してるんだ?」
「このくらいでいいだろう……じゃあこいつに手をかざしてみてくれ」
「手を? こうか?」
三十センチほどの高さに積み上げられた石に向かって手をかざすマーキュリー。


「これになんの意味があるんだ?」
怪訝な表情でこっちを見る。


「お前に魔力があるかどうか調べるんだよ。少しでも魔力があれば石は崩れる」


この方法は石見式といって魔力があるかどうかを判断するときに使われる方法だ。
他にもいくつか方法はあるがこれが一番手っ取り早くて安全なのだ。


「崩れなかったら?」
「魔力が一ミリもないってことだ。そん時は諦めろ」
「ええーっ、それは困るぞっ!」
「こら大声を出すな。振動で崩れるだろ」
「っ……!」
マーキュリーは口を真一文字に結び押し黙った。




三十秒ほどの静寂。
川のせせらぎが心地いい。




と、
「……く、崩れないぞ」
何も起こらないことに耐えかねたのかマーキュリーが口を開く。


「おれには魔力がないってことか……?」
「うーん、そうだなぁ……」


魔力があるならもう崩れてもいい頃なんだが……。
石を見ても崩れる気配はない。


「残念だけどお前には魔力はないよ」俺がマーキュリーにそう言おうとした時だった。
積み重なっていた石にぴしぴしっと亀裂が入り次々と割れていった。


「なっ!?」
「おお! やった、崩れたぞっ!」


確かに積み上げられていた石はすべて割れて崩れた。
が、
「これは、崩れたっていうのか……?」
初めて見た現象だから判断しにくい。


一人ガッツポーズを繰り出して喜んでいるマーキュリーを尻目に俺はただ首をかしげていた。

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