Sランクパーティーを追放された鍛冶職人、世界最強へと至る ~暇になったおっさんは気晴らしに作ったチート武器で無双する~

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第72話 開票

村長選挙当日。


エルフは総勢二百人。
といっても立候補者のデルトロや投票できない赤ん坊を除くと有権者は占めて百八十人。


投票所として現村長さんの家が開放されるとエルフたちはこぞって投票をしに訪れていく。
俺とデルトロは候補者なのでエルフたちとは距離をとってその様子を眺めていた。


「バランさん、エルフたちの恩人であるあんたには悪いがおれが村長にならせてもらうぞ」
隣に立つデルトロは厚い胸板をぴくぴく動かしながら言ってくる。


「俺の方こそお前には悪いけど選挙には勝たせてもらう」
これもアナのためだ。


「へっへっへ。開票が楽しみだな」
嫌味などではなくデルトロは心から楽しそうに笑った。




☆ ☆ ☆




有権者が百八十人しかいないので投票はすぐに終わった。
不正のないように現村長のエスカフローネさんが開票に立ち会う。


そして昼過ぎ――


開票結果の書かれた大きな用紙が村長さんの家の前に張られた。




デルトロ:九十票


バラン:九十票




「おおーっ」
「同票だっ!」
「デルトロとバランさんが同数で並んだぞっ」
「こういう場合はどうなるのっ?」


開票結果を見に集まったエルフたちが口々に声を上げる。


「惜しい、あと一票あればっ……」
横にいたレオが指を鳴らして悔しがる。


そこへアナに支えられた村長さんが、
「バランさん! デルトロ! 前へ!」
エルフたちの前に出てくるように促した。


俺とデルトロは顔を見合わせながらみんなの前に歩いていく。


「バランさん、まさかあんたと互角とはな。へっへっへ」
デルトロは何が嬉しいのか笑顔でそう言った。
よくわからない奴だ。


村長さんは俺とデルトロを交互に見てから、
「同票という結果は前例がありませんがどちらが村長になるかを決めなければいけません! ですのでくじ引きで決めたいと思います!」
集まったエルフたちに聞こえるように宣言する。


くじ引きか……。
そういうところも人間社会と変わらないな。
そう思っていると異を唱える者がいた。


それはもちろんデルトロだ。


「エスカフローネ様、そんなまどろっこしいことはしなくても手っ取り早く決める方法がありますよ」
「デルトロ、それはなんですか?」
「男と男の勝負といえばやっぱりこれでしょう」
デルトロは太い腕に力を込めて大きな力こぶを作ってみせる。


「……あなたとバランさんとで直接戦うということですか?」
「そうです! みんなもくじ引きなんかよりよっぽど納得できると思いますよっ」


「おおー!」
「そうだそうだっ」
「いいこと言ったぞ、デルトロー」


エルフたちがわく。


「バカ言うな! 村長は仲間同士での戦いは禁じているだろうがっ」
レオが声を上げるが、
「バカはどっちだよ。エスカフローネ様が禁じてるのはエルフ同士での戦いだろ。バランさんは人間なんだから問題ないぜっ」
デルトロも譲らない。


『こいつ単なる筋肉バカってわけでもなさそうね』
とエクスカリバーがつぶやく。
確かにそうかもな。


「ですが――」
「あの、村長さん。俺なら別にそれで構いませんけど」
「バランさん」
「バランさんっ……」
村長さんとアナが俺の名を口に出した。
心配してくれているのだろう。


「おっ、あんたやっぱ話がわかるな」
「それでどうやって戦うんだ? 素手か? 武器ありか?」
レベル150だから素手でもそこそこやれると思うが。


「バランさん、あんたは剣を持ってるところを見ると剣使いだろ。だったら武器ありでいいぞ。おれは素手の方が性に合ってるから素手でやるけどな」
そう言うなりさっと戦う構えをとるデルトロ。気が早い。


「俺が武器ありでお前が素手? それじゃさすがにハンデがありすぎるだろ」
「いいってことよ。さあ早くやろうぜ、手加減はしてやるからさっ」
お前がよくても俺がよくない。


「あのさ、俺自分で言うのもなんだけど結構強いと思うんだ」
「へっへ、おれもだぜ。なんなら見せてやろうか?」


デルトロは何を思ったのか振り返り歩き出した。
そして近くにあった岩を触りながら、
「おれの拳はこいつを破壊できるぞ!」
言うが早いかデルトロはパンチ一閃岩を見事に素手で破壊した。


「すげぇデルトロ!」
「かっこいいー!」
エルフたちから声が飛ぶ。


「いや、それはすごいけどさ。うーん……」
俺は何かないかと辺りを見回すと五百メートルほど先の山が目に入った。


あれだ!


「なあデルトロ、向こうの方に山があるだろ。あれちょっと見ててくれ」
「山? ああ、あれか。あれがどうした?」


俺はエクスカリバーを天高く振り上げた。


「今からあの山を破壊する」
「はあ? 山を破壊って何言って――」
「エクスカリバー!」
俺は剣の持ち手部分のボタンを押すと出力最大で巨大な光の剣を発生させそれを振り下ろした。


ズズン。


光の剣は山を飲み込んで丸々消滅させた。


「「「なっ……!?」」」


デルトロを筆頭にエルフたちが驚愕の表情を浮かべる。


「な、な、な、な、なんだ今のっ!?」
「一応あれが俺の本気だ」


ごくり。


デルトロがつばを飲み込む音が聞こえたような気がした。


そして次の瞬間、
「へっへっへ……バランさん、あんたの勝ちにしといてやるぜ」
デルトロはあっさりと負けを認めた。

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