レベリング・マーダー ~一週間に一回人を殺さないと自分が死んでしまうのでそれならいっそ勧善懲悪したいと思います~

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

第29話 冴木の告白

[駅前の本屋の太った男の店員]


[セゾン・メルカデスの332号室のカップル二人]


[職場横の携帯ショップのメガネをかけた厚化粧の従業員]


[毎朝五時に俺の住むアパートの前を大型犬を連れて散歩するおばさん]


……などなど。
俺は感知した悪人の情報をラインで細谷さんに伝え続けていた。


細谷さんは休日を利用して殺人を行っているらしく俺が教えた悪人は週をまたぐと皆ことごとく姿を消していた。
どのような方法で殺しているのかは知らないが細谷さんは今現在も俺の対面のデスクで普通に仕事をしているので特に問題は起こっていないのだろう。


もちろん情報は教えるばかりではない。
俺は細谷さんに殺人者の情報をもらい殺人者が出没するエリアには極力近付かないように努め、さらに細谷さんと同じく休日を悪人狩りの日と決めてあえて遠出しそこで感知した悪人の殺しを実行していた。


そして細谷さんと同盟を組んで一か月が過ぎた頃俺のレベルは10になっていた。




◇ ◇ ◇




そんなある日の昼休み俺は冴木に屋上へ呼び出された。


俺が屋上に着くと既に冴木はそこにいて背中を向けて立っていた。


「どうした、こんな場所に呼び出すなんて」


俺が声をかけると冴木はいつになく真剣な顔をして振り返る。


「いや……お前に、大事な話があってな」
「なんだよ。なんか怖いな」


金の無心でもされるのだろうか、そう考えていると、
「おれ、ずっと言わなきゃ言わなきゃって思ってたんだ。でもいざ言おうとすると言えなくて……」
冴木は独白し出した。


「ヤマトが……ヤマトの気持ちを知っていたのにおれは……」


だから何が言いたいんだよ。と笑って訊き返そうとするも茶々を入れる雰囲気ではなさそうだ。
空気を読んで黙って聞き入ることにする。


冴木はちらっちらっと俺の顔色を窺うように目線を動かし、
「おれ、実はな、お前に隠してることがあるんだ……」
なんとも言いにくそうに口を動かす。


そして意を決したのか俺の目をじっとみつめ、
「……実はおれ……細谷先輩と付き合ってるんだっ!」
叫んだ。


へ?


「ヤマト、お前を裏切ってすまんっ!」
「……うん、いや別にいいけど」


「え……いい、のか……? 怒らないのか?」
「怒る? 俺が? 全然」
俺が細谷さんの父親だっていうならともかく俺は細谷さんの交際に口出しする立場にはない。


「だ、だってお前、前に細谷先輩のこと好きだっておれに言っただろっ」
「あ~……あれか。いや俺もう細谷さんのことは好きでもなんでもないぞ」


前はたしかに気になっていたがマジで殺されそうになってすっかりそんな気も失せている。


「なんだよそれ……おれなんか殴られることも覚悟してたってのによお」
気が抜けたのか冴木はコンクリートの地面にへたり込んだ。


「悪い。言ってなかったっけ」
「言ってねぇよ……はぁー、ビビッて損したー!」
へたり込んだまま今度は大の字に寝る冴木。


そんな冴木を見下ろしながら悪いことしたなぁと思う反面、やってることは五十歩百歩かとどこか納得する俺だった。




うーん、それにしても細谷さんの相手が冴木だったとはな。
俺も勘が鈍いなぁ。

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