レベリング・マーダー ~一週間に一回人を殺さないと自分が死んでしまうのでそれならいっそ勧善懲悪したいと思います~
第14話 軽犯罪
他人を尾行するなど生まれて初めてのことだったが俺には意外と探偵としての素質があるのかもしれない。
既にスーツ姿の男性の尾行を開始してから二十分は経過しているが気付かれる様子は微塵もない。
男性は俺の住むアパートの前の道路をまっすぐ東に向かって歩いた。
そして途中コンビニに立ち寄りパンと飲み物を買うとそのまま駅まで向かった。
男性が電車に乗ったのを確認して俺も同じ電車の別車両に乗り込む。
男性は今はボックスシートに座って外の景色を眺めながら朝ご飯だろうかパンを頬張っている。
ここまでは特に変わった様子はない。
多少混雑している電車内での食事がマナーとしてどうなのかは判断に悩むところだが、とりあえずこれをもって悪人と断ずることは出来ない。
俺はもう少し観察を続けることにした。
それから電車に揺られること三十分、徐々に人が少なくなってきた頃男性はとある駅で降りた。
時刻は朝九時を過ぎている。
普通の会社ならもう完全に遅刻だろうにその男性は慌てることもなく時折り後ろを振り返ってゆったり歩く。
それとなく視線を追ってみると男性は女性ばかりをちらちら物色しているように見えた。
何してるんだ……?
俺は不審に思いつつ男性に悟られぬようそっと背後に近付いていく。
すると男性は急に早足になった。
尾行がバレたかっ!?
俺は一瞬焦ったがどうやら違ったようだ。
男性はOL風の女性の後ろにぴたりと陣取るとエスカレーターを上がっていく。
そして男性はポケットからスマホを取り出すとあろうことか前に立つ女性の足の間にスマホを差し入れた。
まさか盗撮しているのか……?
時間にしてわずか十秒ちょっと、男性はエスカレーターを上り終えると何食わぬ顔で下りのエスカレーターに乗りさっきまでいたホームに戻っていった。
なんだよ、どんな悪人かと思ったらただの盗撮犯かよ。
俺は男性を見下ろしながら心の中で愚痴をこぼす。
盗撮も犯罪に変わりはないが、俺は内心とんでもない凶悪犯だったらとビビっていたんだぞ。
もっと言えば俺と同じく殺人者だったらどうしようとまで考えていたのに……バカらしい。
さすがに殺すほどではないし呪文の効果もわかったことだし、俺は一旦家に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
「よう、ヤマト。もう具合はいいのか?」
昼休みに出社するなり同期である冴木が声をかけてくる。
「ああ、病院寄ってきたからな。軽い風邪だってさ」
真っ赤な嘘だが。
「細谷先輩も風邪らしいぜ。お前と違って今日一日休むそうだ」
「ふーん、そうか」
細谷さんの麗しい顔を拝めないのは残念だがそういう日もあるさ。
「うぃーっす、鬼束パイセンっ」
細谷さんのいないデスクに目を向けていると後輩の岡島がトイレから出てきた。
「鬼束パイセン、ズル休みかと思ったっすよ」
「お前じゃないんだ、ズル休みなんかするか」
「へっへっへ~、そうっすね」
何が面白いのか岡島は今日もへらへらしている。
というかなれなれしく寄りかかるな。俺は先輩だぞ。
――結局この日俺は誰も殺すことはなかった。
既にスーツ姿の男性の尾行を開始してから二十分は経過しているが気付かれる様子は微塵もない。
男性は俺の住むアパートの前の道路をまっすぐ東に向かって歩いた。
そして途中コンビニに立ち寄りパンと飲み物を買うとそのまま駅まで向かった。
男性が電車に乗ったのを確認して俺も同じ電車の別車両に乗り込む。
男性は今はボックスシートに座って外の景色を眺めながら朝ご飯だろうかパンを頬張っている。
ここまでは特に変わった様子はない。
多少混雑している電車内での食事がマナーとしてどうなのかは判断に悩むところだが、とりあえずこれをもって悪人と断ずることは出来ない。
俺はもう少し観察を続けることにした。
それから電車に揺られること三十分、徐々に人が少なくなってきた頃男性はとある駅で降りた。
時刻は朝九時を過ぎている。
普通の会社ならもう完全に遅刻だろうにその男性は慌てることもなく時折り後ろを振り返ってゆったり歩く。
それとなく視線を追ってみると男性は女性ばかりをちらちら物色しているように見えた。
何してるんだ……?
俺は不審に思いつつ男性に悟られぬようそっと背後に近付いていく。
すると男性は急に早足になった。
尾行がバレたかっ!?
俺は一瞬焦ったがどうやら違ったようだ。
男性はOL風の女性の後ろにぴたりと陣取るとエスカレーターを上がっていく。
そして男性はポケットからスマホを取り出すとあろうことか前に立つ女性の足の間にスマホを差し入れた。
まさか盗撮しているのか……?
時間にしてわずか十秒ちょっと、男性はエスカレーターを上り終えると何食わぬ顔で下りのエスカレーターに乗りさっきまでいたホームに戻っていった。
なんだよ、どんな悪人かと思ったらただの盗撮犯かよ。
俺は男性を見下ろしながら心の中で愚痴をこぼす。
盗撮も犯罪に変わりはないが、俺は内心とんでもない凶悪犯だったらとビビっていたんだぞ。
もっと言えば俺と同じく殺人者だったらどうしようとまで考えていたのに……バカらしい。
さすがに殺すほどではないし呪文の効果もわかったことだし、俺は一旦家に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
「よう、ヤマト。もう具合はいいのか?」
昼休みに出社するなり同期である冴木が声をかけてくる。
「ああ、病院寄ってきたからな。軽い風邪だってさ」
真っ赤な嘘だが。
「細谷先輩も風邪らしいぜ。お前と違って今日一日休むそうだ」
「ふーん、そうか」
細谷さんの麗しい顔を拝めないのは残念だがそういう日もあるさ。
「うぃーっす、鬼束パイセンっ」
細谷さんのいないデスクに目を向けていると後輩の岡島がトイレから出てきた。
「鬼束パイセン、ズル休みかと思ったっすよ」
「お前じゃないんだ、ズル休みなんかするか」
「へっへっへ~、そうっすね」
何が面白いのか岡島は今日もへらへらしている。
というかなれなれしく寄りかかるな。俺は先輩だぞ。
――結局この日俺は誰も殺すことはなかった。
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