《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」

執筆用bot E-021番 

5.勇者

 ひとまずオレが連れてきた者たちが保護された。「ありがとうございます」「感謝しても感謝しつくせません」と、多くの謝辞をいただいた。


 フィリズマが中に入れるようになった頃には夕方になっていた。


 会議室。
 石造りの部屋。


 大きな木造の長机が置かれている。100脚のイスが並べられている。ひとつだけ宝石に埋め込まれたイスが、上座に置かれている。そこには国王が座っている。
 次に内務執政官であるロウが座っている。そしてフィリズマとオレが座っていた。


 そしてオレの向かいの席には、勇者、と名乗る青年が座っていた。赤髪に赤目の青年である。


 むろん人はそれだけではない。
 護衛の騎士が周囲を取り囲んでいる。


 エドガーの父は公爵家の当主として、この部屋にヒンパンに出入りしている。オレが入るのは、はじめてだった。


「先代の魔王が死んでから、魔族は平和条約を反故にして、人間領への侵略を開始した。そうだな? フィリズマ魔族長殿」


 そう切り出したのは、国王陛下だ。


「はい。魔王さまを殺したのは勇者だとばかり思い込んでおりまして」
 と、フィリズマは憎悪の宿した目で、勇者のほうを見ていた。
 殺気を気どられてはマズイと思って、隣に座っているフィリズマのフトモモを軽く叩いた。


「そうとも。魔王を殺したのは、このオレだ」
 と、勇者は威張るように胸を張って言った。


 あわやフィリズマが立ち上がりそうになっていたので、フトモモにチカラを込めておいた。フィリズマのやわらかい肉に、オレの手が吸いこまれてゆく。
 抑えつけているだけなのだが、なんだか淫靡なものを感じさせられる。
 仕方のないことかもしれない。
 フィリズマは属種としては、サキュバス、だ。その魅力を武器にしている。


 コホン、とオレは咳払いをした。


「魔王を殺したのは勇者ではない。そういう疑惑が出てきたのです。それでフィリズマは平和条約を結び直しに来た、という次第です」


「お前は余計なクチを出すんじゃねェよ。ザコ貴族が」
 と、勇者が睨んできた。


「失礼」
 と、オレは素直に口を閉ざした。


 ロウが口を開く。


「たしかに現在、人間と魔族は争い合っている。認めたくはありませんが勇者殿をはじめとする人間側が不利といったところでしょう」


 ウルセェ、と勇者が机を叩いた。


「オレはまだ本気を出していないだけだ。平和条約なんか糞喰らえだ。オレは魔族をことごとく葬り去ってやるんだ。オレが魔族を屠ったあかつきには、お姫さまをオレに譲ってくれる約束をしてるんだから」


 この勇者は、人間界最強と言われている戦士だ。そのためあらゆる戦場で、前線指揮を執ることが多い。
 しかしここ最近、ずっと負けが込んでいるのだ。


 この程度の実力の男に――不意を突かれたとはいえ――オレが殺されたとは思えない。なにより《獄魔刀》が反応を示さない。


 勇者は、白。
 オレを殺してはいない。


 じゃあなぜ、勇者は「オレが魔王を殺した」と言い張っているのかと言うと、それを自慢にしているからだろう。


 平和条約を破って、魔王を殺したことが自慢になるのかは怪しいところだ。が、いちおう「魔王を倒した勇者さま」ということで通っているようだ。


 ふむぅ、と国王はうなった。


 国王は恰幅の良い大男で、頭には「王冠でござい」といわんばかりに王冠を、かぶっている。


 その王冠のせいで首が太くなってるんじゃないだろうか、なんて思わなくもない。


「勇者の言葉にも一理ある。まだ人間側は敗北していない。しかし、エドガーがせっかくフィリズマ魔族長を連れて来てくれたのだ。平和条約を結ぶべきかとも思っている」


「いかがいたしますか?」
 と、ロウがうながした。


「ロウ執政官はどう思うか?」


「はっ。こればかりは私の一存では決めかねます。軍事執政官のフルバスとも話してみなくてはなりません」


「フルバスはどこへ?」


「現在、タメーリク砦で、魔族と交戦しているはずですが」


「なに? しかしフィリズマ魔族長が、こうして平和条約を結びに来ているではないか」
 と、国王が訝るような目を、フィリズマに向けた。


 すでに交戦しているとは知らなかった。



「それに関しては、オレのほうから説明させていただきます。魔族は現在、3人の頭のもとに戦争をはじめています。1人はフィリズマ。そして残る2人に、アルノルトとユイブという者がいます。その2人とは連携がとれていないようです」


「魔族内でも、派閥があるということかな?」
 と、国王は、王冠の位置が気になったのか、微調整しながら尋ねてきた。禿頭から王冠が滑り落ちそうになっていた。


「そのようですね」


「君はずいぶんと、魔族の事に詳しいのだな」


「フィリズマに聞きましたから」


 そういうことにしておこう。
 魔王でしたから、なんて言えない。


「なるほど」


「提案があるのですが、これからオレはアルノルトとユイブとも接触をはかりたいと考えています。3人の魔族を説得することが出来れば、平和条約はふたたび結ばれるはずです」


「ふむふむ。たしかに」


 オレ反対です――と、勇者が口をはさんだ。
「魔族の言うことなんて信用できません。この場でフィリズマを捕えてしまい、残り2人も蹴散らしてしまいましょう」


 勇者はそう言うが、この場にフィリズマを捕えられるほどの実力者はいない。ましてや王国の前だ。


「どう思うかな? ロウ執政官」
 と、国王はふたたびロウに質問を投げかけた。


「それでは、こういうのはいかがでしょうか。現在タメーリク砦に攻撃を仕掛けている魔族に対処できたほうの意見を採用するというのは」


「つまり、どういうことだ? ロウ執政官」


「はい。国王陛下。つまり、勇者とエドガーの2人に行かせるのです。勇者が魔族を迎撃出来れば、それで良し。平和条約は結び直さず、戦争を続行する。逆に、エドガーが敵の魔族長と交渉して丸くおさめることが出来たならば、平和条約を結ぶという方針で」


 ほお。そいつは面白い――と、国王はポンとアイヅチをうった。


「勇者に異論はないかな?」


「むろん」
 と勇者はうなずく。


「エドガーは?」


「一度攻撃して、勝てなかったら、交渉するというのは、都合が良すぎるような気もしますが、まぁ、良いでしょう」


 なんであれ交渉は成立する。
 前世魔王という肩書は、それを成し遂げる保証になる。


「フィリズマ魔族長殿も、それでよろしいかな? 勇者が魔族と剣を交えることになるわけだが」


「私は魔王……じゃなくて、エドガーさまの指示に従うまでです」


 フィリズマがオレを敬うような発言は、あきらかに異様なのだが、べつに誰も気にも留めなかったようだ。


「それではサッソク出陣の準備をしてまいります」
 と、勇者は先に退出した。

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